花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「藤袴文様」について

2013-06-12 | 文様について

presented by hanamura ginza


6 月もまもなく半ばですね。
東京ではここ何日か、雨雲の広がる日がつづいています。
今年は、梅雨入り宣言がだされてからも雨が降らず、
水不足が心配されていましたが、
ようやく「梅雨らしい」お天気となっています。

梅雨が過ぎれば夏本番ということで、
お着物のお色目や柄行きも自然と涼やかなものに
目が行くようになりました。

絽や紗などの透け感のある素材と、
すっきりとした印象のお色柄など、
これからの季節のお着物には、
「涼」を演出するためのアイデアがたくさん盛り込まれていますね。

柄行きといえば、秋の涼風が感じられるような虫籠や秋草など、
秋の風物をモチーフにしたものが多いのも、特徴のひとつです。

今日は、その秋草のひとつ、
藤袴(ふじばかま)文様についてお話ししましょう。

藤袴は、キク科の多年草で、
8 月ぐらいから 10 月にかけて
河原や野原などに淡い藤色の小さな花をつけます。
逆三角状になった花の姿が
遠目からみると逆さまにした袴のようにみえることから、
「藤袴(ふじばかま)」という名前がつけられたようです。

乾燥させた藤袴は、桜餅の葉のような甘い香りがします。
この香りは防虫剤としての効能もあり、
原産国の中国では、古来より邪気払いとして女の子のかんざしにしたり、
香り袋として身につけていたようです。

日本にこの藤袴が中国からもたらされたのは、
古墳時代のころです。
日本書紀には、藤袴が庭に植えられている場面が登場します。
当初は香料としていくつか輸入したものが、
しだいに野生化したとされています。

奈良時代につくられた万葉集の中には、
山上憶良が詠んだ「秋の七草」に藤袴のことが記されています。
また、山上憶良の他にも藤袴を詠んだ詩がいくつか残されていますが、
その多くが藤袴の香りについて触れています。

乾燥した藤袴を香袋に入れて十二単に忍ばせたり、
藤袴を入れた水で髪を洗ったようで、
香水蘭という華麗な名前も付けられていました。

平安時代につくられた古今和歌集の中には、
歌人の紀貫之(きのつらゆき)が詠んだ詩が残されています。

やどりせし 人のかたみか 藤袴 わすられがたき 香ににほいつつ 
 (我が家に泊まっていった人の残した形見か、藤袴よ。
忘れがたい香にしきり匂って…)

源氏物語にも、「藤袴」という章があります。
そこでは、光源氏の長男の夕霧が玉鬘に思いを伝えようと
御簾の下から藤袴を差し出すという情景が書かれています。

藤袴は、着物や調度品の意匠にも、
秋の七草の1つとして古来よりあらわされてきました。



上の写真は、縦縞に秋草文様があらわされた絹絽から
お仕立て替えした名古屋帯です。
モダンな雰囲気の縦縞が、
野に咲く藤袴などの可憐な秋草の絵図を引き立てています。

古来より親しまわれてきた藤袴ですが、
残念なことに、昨今では野生のものはほとんど
姿を消してしまったようです。
それでも、その風情のある花姿を好む方も多く、
現在では、藤袴と良く似たヒヨドリバナ(鵯花)や、
ヨツバヒヨドリ(四葉鵯)、サワヒヨドリ(澤鵯)などが
「藤袴」と呼ばれて園芸店で販売されています。

藤袴 着て脱ぎかけし 主やたれ 問へどこたへず 野辺の秋風 -源実朝-

※上の写真の上の写真の「縦縞に秋草文様 絽 名古屋帯」は 6 月 14 日(金)に花邑銀座店でご紹介予定の商品です。

●花邑 銀座店のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は 6 月 19 日(水)予定です。
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