ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

超音速漂流 T・ブロック&N・デミル

2010-11-15 12:35:00 | 

世界初の民間ジェット旅客機であるコメット(英製)が空を飛んでから、世界は近くなった。

かつては数十日かけた太平洋横断も、ジェット機ならば10時間足らずで済む。しかし、もっと短い時間で済ませたいとの欲求が頭をもたげる。

すなわち超音速旅客機を待ち望む声は少なくなかった。フランスが国威をかけてコンコルドを開発し運用したが、意外なほど追随者は少なかった。旧・ソ連のツポレフ社は開発こそしたが、運用上の問題が多すぎて短期間で廃された。

イギリスからジェット旅客機市場を奪い、世界市場の過半を占めたボーイングやMDといったアメリカのメーカーでさえ、開発プランこそ呈示し、実験は行ったが結果的には断念している。そして今年、コンコルドの最終便が地上に降り立ち、再び空を羽ばたくことはない。

超音速で飛ぶためには、空気抵抗の少ない超高空を活用せざるえず、そのための技術的な問題解決と、経済的なリターンが算盤勘定に合わなかったことが、最大の原因とされている。

事実、超音速の領域は軍事面でのみ実用化している。コスト面、安全面での配慮が乏しくて済むからこそ実現できた技術だと言っていいと思う。

しかし、それでも夢は未来を羽ばたくことを止めない。石油の枯渇が現実の危機として予測される今日でさえ、航空機メーカーは、超音速の旅を実現すべき研究を続けている。

表題の作品は、人類は無限の未来を信じ、超音速飛行が当たり前になる時代を当然のものと信じた時代に書かれた。単なる技術賛歌ではなく、むしろ警告の書としての性格を有する。

この本が刊行された当初は、SFパニックものとして売り出された記憶があるが、現在ではホラーものの亜流としてジャンル分けされることもある。

なぜか?

超音速を可能にする超高度では酸素どころか空気そのものが希薄だ。その超高空で起こった偶発的な事故により旅客機の機内は一気に無酸素状態となる。

ようやく自動操縦により高度を下げ、呼吸可能な状態に戻った時、多くの乗客は無酸素により脳が損傷を受けての死亡者多数。かろうじて生き延びた者も、脳が受けたダメージにより正常な判断力を失くしてしまう。

たまたま密閉されたトイレなどに閉じ込められたが故に、無酸素の被害を受けなかった生存者は、ようやくトイレを脱出したものの、キャビンの自分の席に戻って絶句する。

いくら声をかけても妻も子供も反応しない悪夢が夫を襲う。ママは生けるゾンビ状態となり、やはり生き残った幼い娘を絶望に追いやる。それどころか、正常な判断力を失くした者たちが、狂気に駆られて襲い鰍ゥってくる。数名の生存者たちに息つく暇は無い。

かろうじて、パイロットさえもが死亡した操縦席に逃げ込み救いの手を待つが、待ち受けるのは事故自体を生存者なしの迷宮入りの事件としたいと切望する外部のものによる策謀であった。まさに内憂外患、前門のトラ、後門の狼のサンドバック状態。

ただ亜音速で旅客機は、燃料の尽きるまで自動操縦で飛ぶだけの極限状態。果たして生存者たちに未来はあるのか。

まさにパニック小説の王道をゆく逸品です。もし未読でしたら、是非ともお試しあれ。

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21世紀のGE社

2010-11-12 14:06:00 | 経済・金融・税制

発明王エジソンが創業した会社として知られているジェネラル・エレクトロニクス社、通称GEは世界最強の企業だと思う。なんといっても、激動の20世紀を常にトップ企業として生き抜いてきた。この実績は凄まじい。

そのGE社が大幅に経営方針を変更したことをご存知だろうか。なかでも顧客ターゲットの選定の変更は衝撃的だ。

従来は、第一グループとしてアメリカ、西側ヨーロッパ諸国、日本。第二グループとしてシンガポールや韓国、台湾などの発展途上国、そして第三グループとしてアラブ諸国やブルネイのような富裕国、そして最後はその他。この顧客選定に従い経営戦略を練ってきた。

ところが数年前にこのグループ分を大幅に変えた。第一グループは中国、インド、インドネシアなどの人口大国、第二グループは石油などの天然資源を持つ国であり、第三グループはその他。日本もヨーロッパも、この第三グループに入ってしまった。

これは何を意味するのか、そこが問題だ。

一言で言えば、18世紀後半以来世界の文明をリードしてきた西側先進国が衰退したことだ。それをアメリカのトップ企業であるGEが認めた。

西側先進国の一員である日本にとっても他人事ではなく、屈辱的に思われるだろうが、それはGEとて同じだろう。しかし、21世紀を生き延びるためにGEは決断した。衝撃的であると同時に、革新的な決断でもある。

この変革は経済の分野だけのことではない。既に政治の世界でも現在進行中のことだ。かつてのG7は、今やG20となっている。もはや西側先進国だけでは世界を動かせない。ブラジルや韓国などの経済発展著しい国々を加えなければ、物事が動かなくなっている。

この現実を受け入れ、この現実に対応していかなければ21世紀は生き残れない。この危機感がGEに大幅な経営方針の刷新を決断させた。

では、日本はこの21世紀をどう生き残るべきか。少子高齢化がますます進み、社会が穏やかに衰退していくことは必然でもある。その衰えを自覚した上で、何が出来るか、何をすべきかを考えていかねば、待っているのは惨めな結末だけであろう。

21世紀は資源と食糧、水が大きなテーマとなる時代だと考えている。日本列島は石油や天然ガスにこそ恵まれていないが、メタンハイブレードを始めとして膨大な海底資源は手付かずのままだ。石油の価格が上昇すればするほど、新化石燃料の開発は進むと考えられる。

食糧輸入大国ではあり、農業人口、耕地面積は減る一方ではあるが、工場での水耕栽狽ヘじめとして、手間隙かけた農業の名人撃揩ツ日本は、他国に真似できぬ農業の可能性を秘めている。

そして何よりも先進国中、トップクラスの水資源を持つ。これは二つの海流の間にある日本列島の地理的条件に恵まれていることが大きい。カナダやニュージーランド、スイスなどを除けば、これほど水資源に恵まれた先進国は稀だ。

そう遠くない将来、世界人口は100億を超えると予想される。この膨大な人口を支えられる食糧と真水の確保は、きわめて難しい課題となる。

そう考えると、21世紀の日本の将来は、そう悲観的なものではない。ただし、企業にせよ政府にせよ、意識改革は必要不可欠だと思う。ここが最大の難関だろう。

なぜなら太平洋戦争の敗北の廃墟から立ち上がり、経済的成長を果たしたという成功の記憶が色濃く残っている。とりわけ行政府は、失敗を認めない体質を持つが故に、21世紀という新しい状況に適応することが難しい。

いや、民間企業でさえ未だに20世紀の成功の記憶に縛られているケースは散見する。バブルが弾けても、なお、意識改革が出来ない企業は未だ多い。とりわけ20世紀において高収入が得られるとされた大企業に、その傾向は強い。

未だに再生計画がまとまらぬ日航なんぞ、その典型だと思う。そう考えると、アメリカのGEの経営方針の刷新が、いかに果敢な決断であるかが察せられる。

改革が必ず成功するなんて思わないが、なにもしないで既得権にしがみつく企業が生き残れるとは思わない。果たして日本経済を支えてきた企業のうち、どれだけが生き残ることが出来るのか。はなはだ興味深いテーマだと思います。

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ハンカチ王子のこの先

2010-11-11 17:08:00 | スポーツ

大丈夫なのかな?

大学野球にはほとんど無縁の私でも、「ハンカチ王子」こと早稲田の斉藤投手のことは知っている。甲子園で熱い戦いを繰り広げた名投手であった。

あの時、投げ合ったライバルの田中投手は、高校卒業後すぐにプロ野球入りを果たし、今では楽天の主力投手となっている。一方、甲子園当時は田中投手よりも評価が高かった斉藤投手は、早稲田に入り大学野球で活躍した。

早稲田大学野球部の投手としては、かなりの好成績を挙げたことは否定しない。でも、一人のピッチャーとして評価してみると、むしろ実力は低下している印象を否めない。

一人の人間として、大学進学することまでは否定しないが、投手としてみると成長したとは言い難いと思う。もちろん大学野球の投手としては一人前なのだろうが、プロ野球と比べてしまえば、その差は歴然としている。

おまけにこの「ハンカチ王子」は視聴率が稼げるネタなので、マスコミがほおって置かない。女性アイドルやら女子アナらを使ってマスコミの商売ネタを提供させる、えげつない手管に翻弄されていた印象が強い。

おそらくは、投手としての実力はかつてのライバルの田中投手に大きく水を開けられたとみて間違いないだろう。先月のドラフトで日ハム入りとなったようだが、果たして成功するだろうか。

高校野球のスター選手で、マスコミにさんざん持ち上げられながら、なかなか目が出なかった中田という悪例もある。斉藤投手は、間違いなくマスコミにスター扱いされるだろうが、今の実力でプロに通じるかは怪しい。

だが断言してもいい。斉藤投手の記事は来年のスポーツ紙面に必ず掲載される。たとえ活躍しようと、しまいが・・・だ。実力と実績による報道ではなく、知名度の高い斉藤投手なら確実に読者の興味をひきつけるだろとの思惑あっての報道となる。

才能がありながらも過大に評価されて、スター扱いの報道に調子に乗り、二軍暮らしが続いた中田と同じ道を歩む可能性は低くない。奇しくも同じ日ハムだという。

才能は地道な努力に磨かれてこそ花開くもの。くれぐれもバカなマスコミに踊らされず、真摯に野球に打ち込んで欲しいものです。

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マンガ家田中K一がゆく! 田中圭一

2010-11-10 12:47:00 | 
意外な感動。

漫画家・田中圭一といえば、手塚治虫の画風をもろにパクッたお下劣なギャグ漫画で有名だ。手塚治虫が絶対描かないであろう、どうしようもないシモネタを描く、真面目な手塚ファンの天敵として悪名高い。

実際、くだらねぇと思いつつも、ゲラゲラと笑ってしまう、お下劣ギャグ漫画の名人だ。あまりに下劣過ぎて、人に薦める気にはなれないが、読んだ人にだけ分る共感は分かち合いたいと、密かに願ってしまう困った漫画家でもある。

衝撃的だった話題作「神罰」を読んだ時から感じていたのだが、この作者日頃は真面目な顔を装っているのだろうなってこと。人間の二面性というか、真面目な人ほどふざけたり、スケベだったりする落差が激しく、それが傍目には面白かったりする。


ギャク漫画家の大家であった赤塚不二夫は、日常生活においてもギャクを演じようとして、逆にギャグ漫画を描けなくなった。ギャグ漫画だけを描き続けることは、精神に過大なストレスをかけるようで、長続きする漫画家は稀だ。

だからこそだろう。田中圭一が史上稀に見るオ下劣なギャグ漫画を20年にわたり描き続けている秘訣は、日常生活において真っ当な会社員としての顔を持っているからだと思う。

玩具メーカーのタカラ(作品中ではヨイコトーイ)の正社員として営業に奔走する多忙な日々の中で、マンガを描き続けた苦労を綴ったのが表題の作品だ。

副業を禁止している規則に反してマンガを描き続ける苦労。なによりも大好きな仕事を優先し、心身ともに疲弊しながらもマンガを描き続けた。

このマンガに描かれるサラリーマンの苦労と喜びこそが、彼に二足の草鞋を履き続けさせた原動力だと分る。なかでも彼が敬愛する先輩社員の栄転の話には思わずホロリとさせられる。

まさか田中圭一のマンガでこんな気持ちを味わえるとは思わなかった。まさに新境地を拓いたと評してもいい。だが、きっと田中圭一は、これからもオ下劣なギャク漫画を描き続けるだろう。

既に転職して、現在は某企業の中間管理職らしい。彼が真面目なサラリーマンとしての顔を持ち続ける限り、彼はギャグ漫画を描き続けることが出来るはずだ。

あまりにオ下劣なので人には薦められないが、是非とも描き続けて欲しい漫画家である

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銀行の職場放棄

2010-11-09 12:35:00 | 経済・金融・税制
以下の文は伝聞情報が主で、私自身は直接確認できなかったことをお断りしておきます。

東京の高級住宅街の近く、お洒落な店が多い商店街の一角に、その銀行の支店はあります。私が噂を耳にしたのは、ようやく夏の暑さがひと段落を迎えた頃。

昨今の銀行の支店はどこもATMばかりで、かつてのように銀行員が対応してくれる窓口は、大きく数を減らしています。ただ、この商店街にある支店は、ATMでは対応できない業務が多く、また富裕層の顧客も少なくない。それゆえ今でも窓口対応をしてくれるので、ありがたい支店でした。

ことろが、ある日訪れると誰もいない。

声を出して呼ぶと、見慣れない銀行員が駆けつけてきて、とりあえず対応してくれる。ところが、たかが手形の入金処理なのに、いつもより遥かに時間がかかる。

いつもなら20数名が居るはずの支店には、どうみても一ケタ台、しかも日頃見かけたことがない顔ぶればかり。一体全体、なにが起きたのだ?

数週間後、そのことの顛末が次第に漏れてきました。なんと、新たに赴任してきた支店長に対する反感を募らせた銀行員たちの集団職場放棄だったという。

私が知る限り、日本の銀行でこのような職場放棄はまったく前例がない。銀行の、しかもメガバンクの支店で窓口業務が放棄されれば、取り付け騒ぎも起きかねない。そうなれば日本全体に波及する金融パニックが巻き起こりかねない前代未聞の不祥事なる。

当然に銀行本店は大騒ぎになり、大慌てで行員を応援に行かせて、かろうじて支店機能を維持できたとのこと。もっとも、その支店の行員たちの職場放棄はその後も続き、完全には元には戻っていないとも聞く。

このお洒落な街の一角にあるこの支店。実は以前から社会の裏勢力との取引が噂される問題支店でもあった。そのため、この支店で働く行員たちは微妙な配慮が要求される、ストレスの多い職場として悪名が高かった。

ちょっと分りづらいかもしれないが、私にはよく分る。この地域はバブル最盛期の頃、地上げと立ち退き、土地転がしの舞台として有名であり、胡散臭い顧客が数多く使う銀行として有名であった。総会屋ご用達銀行と揶揄されることもあったぐらいだ。

あの頃は偽名口座もわりとよく使われていて、銀行自身がそれと知りつつ、地上げや立ち退きに融資することも珍しくなかった。おかげで、バブル崩壊後も筋の良くない顧客口座が少なからず残り、銀行員たちはかなりのストレスを強いられたようだ。

そんな訳アリの支店に赴任してきた新支店長が、無邪気に強引にやったことがその支店の行員たちに過大なストレスを与え、その結果としての職場放棄であったらしい。

しばしば新聞紙面を賑わす銀行員の顧客預金の横領などがあると、銀行法24条により金融当局への報告義務が生じる。だからこそ、銀行は内部監査に神経質になる。

しかし、銀行員の職場放棄は、顧客預金の横領などとは比較にならない大事件だ。ただでさえ不況の風が吹き止まぬなかで、銀行の取り付け騒ぎなどが起これば金融不況の始まりとなりかねない。

だからこそ、この銀行は今回の職場放棄事件の隠蔽に全力を注いでいるらしい。本来ならば、トップニュースの扱いであってもおかしくない事件だが、私が知る限り大手新聞、TVはまったく報じていない。銀行の必死の隠蔽工作が功を奏しているのだろう。

でも、噂はどこからともなく漏れるもの。いくら世界規模のメガ・バンクとなっても、あいも変わらず不祥事を隠蔽する体質は変らないようです。
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