ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ミツバチはなぜ大量死したのか ローワン・ジェイコブセン

2010-11-01 12:24:00 | 
人間は、人間だけで生きている訳ではない。

生きていくためには、動物だって植物だって必要だ。その植物が生茂るためには、虫だって必要なのだ。いくら科学技術が進歩したところで、虫なくして農業は成り立たない。

数年前から世界中で騒ぎになったミツバチの失踪。その原因が少しずつ分ってきた。ウィルスや害虫のような期待された答えではなく、一筋縄ではくくれない複雑な要因が積み重なってのことだと分ってきた。

その根幹にあるのは、人間の消費社会にミツバチを組み込んでしまったことだ。

農業におけるミツバチの役割は、極めて大きい。ミツバチの受粉があってこそ、果実は実る。とりわけアーモンドは農家にとって近年まれに見る稼げる果実だ。

このアーモンドの受粉のために、全米の養蜂業者がミツバチの巣箱を数十万箱、トラックで数百キロを走らせて農場に運び込む。疲労でヘトヘトのミツバチに、人口の甘味料を与えて元気づけ、ダニ駆除薬をまいて健康状態に気を配る。

ミツバチは、一斉に花へと向かい花粉を食べ、受粉活動に従事する。でも、その花は根っ子から花の先まで害虫駆除薬で染まっていることは知らない。

害虫駆除薬を作る会社は、安全な量であり、ミツバチに悪影響はないと断言する。でも、気がつくとミツバチはフラフラで、一冬越した時には巣箱は全滅している。

でも、いくら調べても害虫駆除薬は安全(とされる)基準値以下。では病気によるものか、あるいはダニなどの被害なのか。一部ではその影響もみられるが、すべてのケースに当てはまるわけはない。

養蜂業者が悩むうちに、気がついたらミツバチの巣箱は空っぽ。死んだミツバチの姿さえ見つけられず、ミツバチの謎の大量失踪事件として報じられるようになる。

これはアメリカだけでなく、ヨーロッパや日本、シナでも起こっている。このミツバチの大量失踪事件を追ったのが表題の本だ。

その結論は複合汚染。本来多様な花の花粉を食べ、一定地域に留まり、バランスのとれた生活を送ってきたミツバチたちを、人間の消費社会の実情に合わせた生産活動をさせてきたツケが、この大量失踪事件の根幹にあると喝破する。

現在も完全に解決したとは言いがたいミツバチの大量死。解決策はあるのか?

著者は提言する。ミツバチを人間の経済活動に沿わせるのではなく、ミツバチ本来の生活パターンに戻すのが一番良いと。私も同感だ。あんな不自然な生き方を強要されれば、そりゃ不健康になろうってものだ。

その結果、ある程度の不便さはあるだろうが、元々そういうものだった。自然と共存し、自然のサイクルに合わせて生きることは、かなりの不自由さを強いられる。人間の利便性だけを優先すれば、どこかで無理が出る。そのことを立証したのが、今回のミツバチ大量死事件だと思います。
コメント (9)
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