目が合ってしまった。
夜分に車で甲州街道を走らせていたときだ。コンビニに立ち寄り、再び車に乗り、買った眠気覚ましのガムをポケットから取ろうとするが、シートベルトが邪魔で取れない。
一度シートベルトをはずしてガムを取り出す。丁度折りよく信号が赤になったので、ゆっくりと封を開けてガムを口に放り込み、再びシートベルトに手をやった時だ。
視線を感じたので歩道側を見やると、警官がこちらを熟視している。ん?はて何だ。
警官がこちらに歩みよってきたので窓を開けると「シートベルト未着だね。違反の現行犯だから、車を寄せて降りてきて」と言いたれやがった。
おいおい、はずしたのはガムをとるためで、車の走行中にはずしていたのはほんの数秒だぞ!
車を降りて事情を説明するが、現行犯との一点張りで聞く耳もたず、しかも賢しげに罰金はなくて、ただ一点減点だけだと言う。そうゆう問題じゃないだろうと思うが、約束の時間に遅れそうで気が気でない。
たしかにシートベルトをはずして車を走らせた時間はあった。だが、ほんの数秒に過ぎず、しかも減速中のことだ。腹が立ったので、抗議するも現行犯だと繰り返すばかりで、こちらの言い分なんぞ言い訳としかみてないことは明白だった。
約束の時間が迫ってきたので、悔しいがサインをしてやる。真面目な話、サインを拒否して裁判までもっていっても、反論のための具体的証拠に乏しいことは分っている。冷静にみて、勝ち目は薄いと思う。
だが、時間が経つごとに腹立たしさは、いや増すばかりだ。サインなんぞ、するんじゃなかった。
多分、あのマッポ野郎、私がシートベルトに手をやったのは、警官に見られていると思ったからだと勘違いしやがったのだろう。
冗談じゃない。私はシートベルトの着用が強制化される前から自主的に使っていた。交通法規が求めるからではなく、自分の身の安全のためにしていたことだ。免許をとってから30年、ほとんど習慣的にシートベルトは締めていた。
それを恩着せがましく罰金がないなどとほざきやがる。警察対策でシートベルトをしているんじゃない!
まったくもって腹立たしい。どうも、今年は交通違反の当たり年らしい。かつて十代の頃に免許取り消しとなって以降、一年に二回も捕まるようなヘマをしたのは初めてだ。
交通違反なんざ、運転するたびにやっている。そうでなければ交通の流れの妨げになるし、道路交通法自体が実情にあっていない欠陥法だと私は確信している。だから、違反をすることに罪悪感なんざない。
ただ、捕まるようなヘマをしたことが悔しい。昔、警察を敵視していた頃は、これほどヘボなことはしなかった。むしろマッポを出し抜くことを得意としていたぐらいだ。
長年真面目な社会人をやっているうちに、どうも私はボンクラになったらしい。今回だって目をあわす前に、マッポの姿を見ても、見ぬふりして、ばっくれる手もあったと思うぞ。マッポに気がつくのが遅れた私がトロかっただけだ。
今回の失敗を糧に、今後は狡猾に交通違反をすることにしよう。警察は敵!これが私の反省の仕方だ。誰が素直に反省なんぞ、してやるもんか!