ヌマンタの書斎

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当たり馬券の話

2022-06-20 15:59:50 | 社会・政治・一般
なかなか本音は話せない。

今はやっていないが、以前は銀座地区の法人会の税制セミナーの講師をやっていたことがある。講座の内容は改正税法についての解説であり、さして難しいものではない。

ただ、私はかなりやりづらく感じていた。100人ほどは入れる会場の末席に、税務署の関連部署の職員が2名、私をチェックしているからだ。表向きは、セミナーの手助けなのだが、それを真に受けるほど私はボンクラではない。

師匠であるS先生から、しっかりと聞いていたからだ。税務署には、税理士に対する実績簿のようなものがあり、そこに度が過ぎた節税を解説したりすれば、必ず要チェック対象として記録されると。

まァ昭和の頃の話だが、今だってある程度似たような形での税務署による税理士の監督はされているのは、ほぼ間違いない。

妙に思われる方もいると思うが、税理士は自主独立性の強い弁護士とは異なり、監督官庁(財務省及び国税局)の強い支配下にある。税理士法の冒頭には、税理士の中立性について記されているが、正直形式的なものだと思う。

税務署寄りだとは云わない。なるべく公正中立でありたいと考えている。多分、ほとんどの税理士がそうだと思う。意外かもしれないが、税務署を退職した所謂OB税理士は、現行の税務行政の限界を意識している方が少なくない。だからけっこう税務署に対して抗う姿勢をみせる。私の師匠のS先生がそうだった。

とはいえ、税理士の役割には、税務行政の補佐的なものが含まれているのは間違いない。無料相談会や電話での税金相談などで、税務署の職員と机を並べて仕事をすることもある。ちなみにボランティアではなく有料の請負業務である。

ただ国税庁あるいは法人会等の主催の相談会では、普段とは異なる答弁、解説をせざるを得ない。これがけっこう辛い。一例を挙げたい。

公営競馬においての当たり馬券の課税問題である。

所得税法では、これを一時所得として、その馬券収入から、その(この一文が重要)当たり馬券の購入費を引いて、更に50万円を控除した上に、二分の一に減額して課税する。そう、当たり馬券は課税対象である。

上に書いた「その」とは、当たり馬券の購入費だけを意味する。つまり外れ馬券の購入費は考慮されない。これが税法上、正しい解釈である。

当然に法人会等のセミナーでは、そのように説明している。ただ、説明しながら、いささか忸怩たる気持ちにならざるを得ない。

私は延べで数百件の確定申告書を作成しているが、当たり馬券の申告なんてやったことがない。相談はあったが、ほとんどの場合、馬券の所得が50万円以下なので、非課税の枠内であるから申告していない。

だいたいが、現金で当たり馬券を換金しているので、そもそも証拠がない。だから積極的に当たり馬券の申告をする納税者は稀であるのが実態だ。ただ、近年は注意が必要だ。なぜならインターネットを通じて馬券を購入し、当たった場合に銀行口座に入金するケースがあるからだ。

これだと銀行口座に明確に証拠が残ってします。もし大儲けした場合、意図も容易に税務署にバレてしまう。言い換えれば、ネットや銀行口座を使わず現金で馬券を買って、当たれば現金で収受した場合、税務署は捕捉できない。

ただし、大口の賞金で不動産や自動車などを買ってしまえば、その資金の出所を探られて課税される場合はあると思う。まァ私は遭遇したこと、ありませんけどね。

でも、この話は法人会セミナー等で話す訳にはいかない。絶対、後で叱られるはずだ。もちろん、セミナーで話す内容にウソはない。ウソではないが真実とも言い難い。

決してウソはついてないはずだが、本音で語れないのはけっこう苦しいです。


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