ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

職業・殺し屋 西川秀明

2012-11-15 12:05:00 | 

軽薄な言葉が嫌いだ。

最近だと肉食系って言葉が好きになれない。おとなしい=草食系との対比で使われるようだが、いい加減この手の単純すぎて馬鹿丸出しの言葉はやめた方がいい。

物事を二つに分けて判じるやり方は、単純で分かりやすく耳目を集めやすい。これは分かるが、なんとも底の浅い理解でしかなく、むしろ誤解を招き易い。

昔、あるところに所謂草食系の青年がいた。同年代の女性と直面すると赤面するばかりで、まともな会話さえ出来なかった。世間は彼を虫も殺せぬおとなしい青年だと思い込んでいた。

だが、女性とまともに会話出来ないからといって性欲がないわけではない。子供、とりわけ幼い女の子に対しては、むしろ獰猛でその肉体を損ねることさえ辞さない異常な肉食系であった。

幾人もの幼女を拉致して、その肉体をむさぼり、あげくに殺害してバラバラにして放り出した。世に言う宮崎事件である。実に厭な事件であった。

おとなしいとか、草食系だなんて軽薄な見立てが如何に危ないか、よく分かる事件でもあったと思う。

肉食系だって似たようなものだ。私が知るある青年は、筋肉もりもり、日焼けした肌と短髪のスポーツマンの二枚目。見るからに肉食系だが、実はものすごいナルシストで極度の潔癖症。だから他人から触られるのが大嫌い。私はひそかに彼は童貞ではないかと思っている。

人間、外面と内面が違うことは珍しくもなく、むしろ違うほうが普通だと思っているほうがいい。人間って奴は、簡単に二分法で理解できるほど単純でもなく、分かりやすくもない。

私自身、顧みてもそう思う。外見的には真面目そうな普通のおじさんである。多分、幼い頃には何度も警察の世話になっていた悪ガキだなんて、まず分からないはずだ。争い事には、もっぱら中立の立場をとり、冷静に客観的に対応できる大人の態度をとることが多い。でも、実は喧嘩っ早くて、大の警察嫌い。気が短いと自覚しているのに、外見的にはおとなしく見られるのが不思議でならない。

しかも、とびきりヒネクレ者。草食系ですかと問われれば、雑食性ですと切り返す。肉食系じゃありませんよねと訊かれれば、腹が減っていれば肉食系、満腹なら草食系だと答えてしまう。

実際のところ、そんなの相手次第、状況次第、体調次第である。今すぐ跳びかかりたいほどの情欲に燃え上がったこともあれば、深夜の密室で半裸の状態でも、まるでその気になれないこともある。たぶん、誰だってそんなもんだと思う。

だから、草食系だとかおとなしいだとか安易にレッテルを貼ってしまうのは、むしろ危険だと思う。私の経験からいっても、素肌に銀の突起が目立つ革ジャンを羽織ったモヒカン頭の青年よりも、見た目普通の真面目で大人しそうな青年のほうが、危ない場合は珍しくない。

外見が普通なので、それに油断して不意打ちを食らうこともあるし、酒が入って人が変わるなんて珍しくもない。もちろん外見での判断は概ね当たることが多い。以前、深夜喫茶でバイトしていた時、見るからに乱暴そうな青年たちは、予想に違わず騒ぎだして店に迷惑をかけていた。

だが、その店で一番騒ぎになったのは、ホステスに振られた青年が大暴れした時だった。外見が普通のサラリーマンだったので、まるで警戒していなかったのだが、別れ話がこじれた途端に切れて暴れ出した。あれには唖然とした。

外見だけで判断してはいけない。痛烈に思う。

表題の漫画は、ヤング・アニマル誌に長年連載されていた。インターネットの闇深い世界に潜む、逆オークション方式で殺人を請け負う殺し屋たちを描いている。登場する殺し屋たちは、日常生活はまっとうな姿で過ごしているが、殺しに悦楽を感じる異常者ばかりであり、そのギャップが魅力の漫画であった。

現実の日本では、殺人業は仕事として成立しない。これは需要があっても、その供給が安定しえないからだ。日本の警察は決して甘くない。だから仕事として殺人が行われる場合は、多くの場合警察に捕まることを前提にしている。ヤクザというより暴力団は、警察の怖さ、厭らしさを良く知っているので、そうせざるを得ないからだ。

だが、近年日本に外国人が多く流入するようになると、必ずしも殺人業は成立しないなどと言えなくなっているらしい。たしかに貧しい国のアウトローたちに殺人を依頼する形での仕事が成立しやすくなっている。

もっとも、これも簡単ではない。まず、日本の事情に疎い殺人の請負者にお膳立てをする必要があるし、殺人依頼をネタに強請られることもある。それゆえに強固な結束を誇る裏社会の組織などを仲介させないと難しいらしい。一度でも関われば、泥沼にはまること請け合いだろうことは容易に予想が付く。

だから仕事としての殺人は、滅多にない。

その代り、私怨による殺人は、この世から決してなくなることはない。嫌なことだが、これは自分は普通だと思っている人が、ある日ある時やらざるをえないと思い込んだ時に行われる。

人間って奴は、そういうもんだと考えたほうがイイと思いますね。

なお、この漫画かなり表現がグロいので、読み手を選ぶと思うので無理に読むようなものではないと思います。


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