幼い子供の頃の最大の恐怖は、母親がある日突然に居なくなること。
だからこそ、この漫画を原作としたTVドラマは怖かった。ストーリーなんてろくに覚えていないが、帰宅した三平少年は母がいなくなったことが判明した場面だけが鮮明に思い出せる。
というか、他の場面が思い出せない。当時はTVっ子だった私だけに、番組は見ていたはずなのだが、まるで覚えていない。ただ母がいなくなるという恐怖だけが心に刻まれている。
ちなみに当時は、幼過ぎて原作の漫画はまるで読んでいなかった。大人になって漫画喫茶の存在を知ってからも、ほとんどトラウマ化していたが故に、手を出す気になれなかった。
ところで2015年(平成27年)のことだが、原作者である水木しげる氏がお亡くなりになった。私はどちらかといえば、漫画家としてよりもイラストレーターとしての水木氏を評価していた。この方が描いた妖怪の姿絵は、けっこう影響力が強い。
私は自宅の書棚に「図説日本妖怪図鑑」などを所有しているのだが、江戸時代の歌川国芳や鳥山石燕、佐脇崇之などの図絵にも劣らないのが水木しげるの妖怪図鑑だと思っている。もちろん漫画家としての評価も決して低くはない。
最大のヒット作は「ゲゲゲの鬼太郎」なのだが、私にとって一番印象深いのは、やはり「河童の三平」だ。TVの実写版で、三平の母が居なくなる場面が怖くて原作は読んでいなかった。しかし、そろそろ良かろうと思い、古い作品の揃えが良い漫画喫茶で休日に一気読みした。
さすがにもう恐れることはないが、やはり一筋縄ではいかぬ作品だった。水木氏は太平洋戦争をギリギリで生き延びただけに生死に関する感覚が、どこか人離れしている。だからこそのあのエンディングなのだろう。
もう怖いとは思わなかったけど、人の生死を淡々と描くその精神は些か怖い。人である三平と、河童のサンペイ、そして三平の母が描かれた最終回は一度は目を通して欲しいなと思います。