あのパラパラのチャーハンはいずこへ?
私が銀座の街で働き出して、かれこれ四半世紀が経った。グルメだった前・所長のおかげで、この街が美食の街だと分かった。和食、洋食、中華と名店が揃うが、安くて美味しい店には欠ける街であることも分かった。同時に金さえかければ、美味しい食事に不自由しない街ではあった。
そうはいっても、毎日の昼食にそうそう金はかけられない。銀座の街は、中心地(和光と三越がある交差点)から離れれば、離れるほど小さい店が増えてくるつくりになっている。
だから銀座1丁目とその反対側の8丁目あたりの小さくて、入りやすい気さくな飲食店に行くことが多かった。その一つに「こけし」と言う名のラーメン店があった。
カウンターだけの小さなお店で、ラーメン屋と看板打つわりに、それほどラーメンは美味しくない。いや、普通のラーメンであり、不満はないけど、特に語るべき特徴もないラーメンであった。
でも、その店は人気はあった。人気の秘訣は、ラーメンとセットのチャーハンであった。このチャーハンが抜群に美味かった。あっさりとしているが、味はしっかりしている。その場で作るのではなく、出来上がったチャーハンが飯釜に保温されている。
ほんわかと温かく、米粒はバラパラで、脂っこさがない淡白な味わい故に、ラーメンとも良く合っていた。だから注文する客は皆、ラーメンとチャーハンのセットを頼んでいた。
あの当時、銀座にはもう一店、パラパラのさっぱり味のチャーハンを出す中華料理店があったが、そこはいささか高かったので、どうしても「こけし」のチャーハンに通うことになった。
でも、十数年前にその店は閉店してしまった。その少し前に、もう一つの中華料理店も閉店しており、さっぱり味のチャーハンをお昼に食べることが出来なくなってしまった。
銀座は、中華料理店の激戦区でもあり、有名店と言えども競争に敗れれば閉店が当たり前。だから、味にはうるさい店が多い。他にも美味しい店はあるが、チャーハンに関しては、味が濃い目のものが多くて残念に思っていた。
亡くなった前・所長も同様の想いを抱いていたようで、あれこれと探していたようだ。そして、ようやく見つけたのが高輪の旧プリンスホテルの中にある中華料理店であった。よくぞ、見つけてくれたものだ。この情熱を仕事に活かしてくれればと思わないでもないが、まァいいか。
ここは四川料理がメインなのだが、何故だがチャーハンだけは、パラパラのさっぱり味であった。これは嬉しく、その後何度も通ったものだ。ところがこのホテル自体が閉鎖されてしまった。
その頃には、前・所長も亡くなっていて、私も糖尿病に片足つっこんでいるので、もう探す気力がない。中華の料理人の腕は、チャーハンを作らせれば分ると聞いたことがあるから、きっと探せばあるのだろう。
出来たらもう一度、あのチャーハンを食べたいものだ。