固太りしたデブは侮れない
だいたいが、ガキの喧嘩なんて先手必勝だ。最初の一発を鼻っ柱にぶち込めば、相手はカッとなって冷静さを失う。後は突っ込んでくる相手をいなして、こかせて、転がして、馬乗りになってボコればいいだけ。
そのつもりだった。最初の戸惑いは、一発目のパンチを相手の顔の中央部に打ち込んだ時だ。なぜか弾き返された感じがした。相手がニヤっと笑った段階で、こいつ馴れていやがると気が付いた。
ただ、相手はデブだ。横の動きにはついてこれまいと踏んで、側面に回り込み、すかさず肝臓あたりに拳をめり込ませる。が、感触がいつもと違う。なんだか、堅いゴムを殴ったような反発がある。
こうなりゃ、膝を狙うしかないと思い、相手の腕を掻い潜って太ももに抱き着いて、押し倒そうとするが倒れない。なんだ、この分厚い太ももは。戸惑ううちに、首根っこを押さえらえて、地面に押し倒された。
万事休す。
こりゃ負けだと思い、何発殴られるかなと歯をくいしばり覚悟を決めると、頬を軽く張られた。「参ったか?」と冷静に尋ねてきた。へ?と思いつつも、相手の強さを認めて素直に参ったと伝えると、すぐに立ち上がり、手を差し出してきて立たせてくれた。
戸惑う私に「俺はラグビー部の○○だ。喧嘩がばれると試合にでれない。黙っててくれよな」と言い、返事もまたず、私の背中を軽く叩いて立ち去っていった。見事に完敗であった。
肉体的なダメージはなかったが、精神的に打ちのめされた。まるで相手にされていなのが明白だったからだ。あの打たれ強い体は、ラグビーで鍛え上げたものだと想像はついた。
以来、ラグビー出身者に喧嘩を売ったことはない。
そのラグビー出身のプロレスラーといえば、阿修羅・原である。国際プロレスに居た頃は、さほど目立つ人ではなかった。しかし、全日本のリングに上がり、そこで天龍源一郎とタッグを組んでからは、格段に光り出した。
この二人のタッグは、外人チームとの対戦よりも、日本人同士の対決のほうがより盛り上がった。率直にいって格闘センスは天龍のほうが上だと思うが、闘志を前面に押し出すパフォーマンスは原の方が上手かった。
天龍と原のサンドイッチ・ラリアットが出ると、会場は盛り上がったものだ。馬場や鶴田の出るメインイベントの試合よりも、この二人の出る試合のほうが盛り上がっていたのは確かだと思う。
あの強靭な体を駆使しての相手の技を受け、立ち上がり、やり返す。これこそがプロレスの原点であり、観る者の心を奮わせた。その阿修羅・原であるが、先だって訃報が伝えられた。
数多の攻撃を受け続けたその体は、きっとボロボロであったと思う。謹んでご冥福をお祈りいたします。