橋から落ちる。
窓から落ちる。
オレンジの木から落ちる。
棚から落ちる。
塔から落ちる。
宮殿のてっぺんから落ちる。
手紙が落ちる。
入れ歯が落ちる。
美しい妻が落ちる。
『落下の王国』にはそのタイトルどおり、落下のイメージが散りばめられております。
そも、お話は、鉄橋からの落下スタントのせいで半身不随になっている駆け出しのスタントマン、ロイと、オレンジの木から落ちて腕を折った5歳の少女、アレクサンドリアが病院で出会うことから始まるんでございます。
時は映画草創期、1915年のロサンゼルス。
下半身不随になった上に恋人を主演俳優に奪われ、失意のどん底のロイ。生きる気力もないまま窓際のベッドに横たわっている彼のもとへ、ある晴れた日、奇妙な手紙が落ちて来ます。手紙の主は上の階に入院しているインド移民の少女、アレクサンドリア。
かたことの英語を話すアレクサンドリアは、仲良しの看護婦に宛てたはずの手紙を勝手に読んでいるロイに腹を立てますが、ロイが即興で紡いでみせる物語にたちまち惹き付けられます。病室にしげしげ通うようになったアレクサンドリアに、ある日ロイはこう持ちかけます。
「眠くて続きが話せないよ。夜よく眠れないんだ。薬剤室に行って、眠るための薬を取って来てくれないか」.....
鉄橋からの落下によって恋人と身体の自由とを一度に失ったロイは人生に絶望しています。ロイにとって落下は即ち絶望のイメージであり、必然的に彼が語る物語にも悲しい「落下」が繰り返し現れます。しかしその「愛と復讐の壮大な叙事詩」はアレクサンドリアの想像を通じて、目もくらむほどの美しさをもってスクリーンの上に展開されるのでございます。
珊瑚礁の海を泳ぐ象。
青い街に取り囲まれた壮麗な宮殿。
紺碧の空の下、激しく炎を上げて燃える一本の樹。
4年の歳月をかけ20カ国以上で撮影された、この世のものとも思われない風景。
その中を不思議な衣装をまとった6人の男たちが、駆け、たたずみ、剣を振るい、叫び、微笑み、落下します。
(公式サイトのフォトギャラリーを御参照ください)
この夢のような映像だけでも、劇場に足を運ぶ価値がございます。
映像美だけではなく、ファンタジーを通じて現実を乗り切る、というのろごのみのテーマも単純ながらきちんと描かれておりまして、話としても上出来と言ってよろしいのではないかと。もっとも、全然きちんと描かれちゃいないぞと思ったかたもおいでのようなので、貴方がどうお感じんなるか保証はできませんが。
どちらかというと「観客に預ける」タイプの作品ではございますが、例えばタルコフスキーのように観賞後じっくりと考えこむことを要請するほどではなく、はたまた『クリムト』のように監督が凝りに凝った(のであろう)耽美映像をただただ流して90分終了、というものではなく、語りすぎないエンターテイメントとして丁度いいさじ具合であったと思います。
しかもじっくり考えるといっそう味わい深い作品でございます。
それについては次回に語らせていただきたく。
のろは5歳のアレクサンドリアと一緒に時にわくわくと、時にうっとりと、ロイの語るおとぎ話の世界に耽溺いたしました。一方で、はたしてロイは絶望の淵から抜け出すことができるのだろうか、自殺してしまうのではないかとはらはらしながら。
そして終盤では例によって涙と鼻水にまみれ、ラストシークエンスでは監督の映画愛をひしひしと感じ、暖かく満ち足りた思いに満たされて劇場をあとにしたのでございました。
次回はちとネタバレ話をさせていただこうと思います。
窓から落ちる。
オレンジの木から落ちる。
棚から落ちる。
塔から落ちる。
宮殿のてっぺんから落ちる。
手紙が落ちる。
入れ歯が落ちる。
美しい妻が落ちる。
『落下の王国』にはそのタイトルどおり、落下のイメージが散りばめられております。
そも、お話は、鉄橋からの落下スタントのせいで半身不随になっている駆け出しのスタントマン、ロイと、オレンジの木から落ちて腕を折った5歳の少女、アレクサンドリアが病院で出会うことから始まるんでございます。
時は映画草創期、1915年のロサンゼルス。
下半身不随になった上に恋人を主演俳優に奪われ、失意のどん底のロイ。生きる気力もないまま窓際のベッドに横たわっている彼のもとへ、ある晴れた日、奇妙な手紙が落ちて来ます。手紙の主は上の階に入院しているインド移民の少女、アレクサンドリア。
かたことの英語を話すアレクサンドリアは、仲良しの看護婦に宛てたはずの手紙を勝手に読んでいるロイに腹を立てますが、ロイが即興で紡いでみせる物語にたちまち惹き付けられます。病室にしげしげ通うようになったアレクサンドリアに、ある日ロイはこう持ちかけます。
「眠くて続きが話せないよ。夜よく眠れないんだ。薬剤室に行って、眠るための薬を取って来てくれないか」.....
鉄橋からの落下によって恋人と身体の自由とを一度に失ったロイは人生に絶望しています。ロイにとって落下は即ち絶望のイメージであり、必然的に彼が語る物語にも悲しい「落下」が繰り返し現れます。しかしその「愛と復讐の壮大な叙事詩」はアレクサンドリアの想像を通じて、目もくらむほどの美しさをもってスクリーンの上に展開されるのでございます。
珊瑚礁の海を泳ぐ象。
青い街に取り囲まれた壮麗な宮殿。
紺碧の空の下、激しく炎を上げて燃える一本の樹。
4年の歳月をかけ20カ国以上で撮影された、この世のものとも思われない風景。
その中を不思議な衣装をまとった6人の男たちが、駆け、たたずみ、剣を振るい、叫び、微笑み、落下します。
(公式サイトのフォトギャラリーを御参照ください)
この夢のような映像だけでも、劇場に足を運ぶ価値がございます。
映像美だけではなく、ファンタジーを通じて現実を乗り切る、というのろごのみのテーマも単純ながらきちんと描かれておりまして、話としても上出来と言ってよろしいのではないかと。もっとも、全然きちんと描かれちゃいないぞと思ったかたもおいでのようなので、貴方がどうお感じんなるか保証はできませんが。
どちらかというと「観客に預ける」タイプの作品ではございますが、例えばタルコフスキーのように観賞後じっくりと考えこむことを要請するほどではなく、はたまた『クリムト』のように監督が凝りに凝った(のであろう)耽美映像をただただ流して90分終了、というものではなく、語りすぎないエンターテイメントとして丁度いいさじ具合であったと思います。
しかもじっくり考えるといっそう味わい深い作品でございます。
それについては次回に語らせていただきたく。
のろは5歳のアレクサンドリアと一緒に時にわくわくと、時にうっとりと、ロイの語るおとぎ話の世界に耽溺いたしました。一方で、はたしてロイは絶望の淵から抜け出すことができるのだろうか、自殺してしまうのではないかとはらはらしながら。
そして終盤では例によって涙と鼻水にまみれ、ラストシークエンスでは監督の映画愛をひしひしと感じ、暖かく満ち足りた思いに満たされて劇場をあとにしたのでございました。
次回はちとネタバレ話をさせていただこうと思います。
ブログ冥利につきるコメントをいただき、ありがとうございます。
ネット上に書かれている感想を見ておりますと「映像が綺麗なだけで中身が無い」というようなご意見もちらほら見かけますが、ワタクシはストーリー、メッセージも含めて大変いい映画であったと思います。
観ている時もそう思いましたが、「後から来る」と申しましょうか、振り返ってつらつら考えるにつけ、いっそうその良さが見えてきました。
衣装デザインも素晴らしく、雑誌「装苑」11月号に6ページに渡る特集があったので、思わず買ってしまいました。
しかしまだ見られないとは、なんとも口惜しいことですね。
お住まいの地域で一日も早く、そしてなるべく長い期間上映されることをお祈り申し上げます。
こんな良作がマイナーな扱いをされるのは、実に勿体ないことです故。
こちらのレビューが気になって、それから公式サイトを調べてみてドンピシャ。
惹きつけるものがありました。邦題からして、何となく好きな匂いはしていたのですが。
おっしゃるように、風景に飲み込まれるためだけであってもいいので是非スクリーンで見たいと思いました。
しかし悲しいかなこの映画、当方の地域にはまだ来ていないのですけれど。
という寂しいオチ。