のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『野口久光シネマ・グラフィックス』

2014-11-30 | 展覧会
京都文化博物館で開催中の野口久光シネマ・グラフィックス展へ行ってまいりました。

氏のポスターデザインがとりわけ好きかと問われれば、実を申せばそうでもないのですが、膨大な作品のひとつひとつに各々の映画の魅力や見所を端的に表現するための工夫がこらされておりまして、実に見ごたえがございました。もちろん取り上げられているのは古い映画ばかりでしたので、中にはタイトルすら知らないものもありました。けれども親切なことに、ポスター作品には全てにその映画の概略と見どころを記した解説文が付けられておりましたので、知っている映画はそうよそうよと頷きながら、あるいはハテそうだったかのうと首を傾げながら、そして知らない映画はそうかそうかと興味をかき立てられながら、じっくりと鑑賞できました。

やっぱりパネルでの解説って重要だと思うのですよ。あってもどうせ読まないという人はまあそれでいいとして、プラスαの情報が欲しい人や、他者から提供される情報を加味して改めて作品を見直したい人だっているわけです。解説があるとそれだけで作品を見た気にさせてしまう、あるいは作品の見方を限定してしまうという懸念があるのも分からないではありませんが、そもそも解説ばかり読んで作品そのものにはチラッとしか目をくれないような人は、解説がない場合でもじっくり作品と向き合ったりはなさらないものです。というわけで「作品と玄人向けの解説だけ出しておけばいい」という姿勢は美術への間口を狭めることにしかならないと思いますよ京都国立近代美術館様。

さておき。

また会場内では、野口氏が宣伝部に勤めていらっした映画配給会社、東和映画の25周年を記念して制作されたという短編フィルムや、往年の名作が日本で劇場公開された時の予告編なども見ることができまして、これまたなかなかのお宝でございました。今では外国映画の予告編には日本語のナレーションが入っているのが普通でございますが、昔は技術的な問題があったためか、音声ではなく「乞うご期待!」や「美男美女が勢揃い!」といった予告用の字幕が画面いっぱいに踊るという形式だったようでございます。そのせいで、絶世の美男子ジェラール・フィリップのご尊顔の上にデカデカと宣伝文句がかぶさるというけしからぬ事態も起きておりましたが、まあ時代というものでございます。

時代といえば、ポスター作品は年代順に展示されておりますので、時が移るに従っての変遷が見て取れるのも面白いことでございました。戦前のものは横書きの文字でも右→左という進行方向で描かれているので読みづらいったらないのですが、色彩は淡く上品なものが多く、色の点から言えばこの時代のものがワタクシは一番好きでした。
時代が下ると「テクニカラー」という謳い文句が登場する一方、カラー映画であることを強調するためか、ややどぎつい色彩が使われるようになったという印象を持ちました。さらに進むとキャサリン・ヘップバーンやブリジット・バルドーといった比較的なじみ深い名前が出てくるようになり、最後にトリュフォー監督も愛したという『大人は分かってくれない』のポスターと対面しますと、戦前の『制服の処女』からヌーヴェルバーグまで、映画も世の中も野口氏もはるばるやって来たものだとなかなかに感慨深いものがございましたよ。