のろや

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『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』

2014-05-17 | 映画
「1992年に『エイリアン2』の真似をしてお前の指に穴を空けたろ」


流行った!それ流行った!
みんなナイフじゃなくてシャーペンでやってたけど!
と、膝を打って叫びたい所でございました。

いうわけで
『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』を観てまいりました。

故郷のパブめぐりが転じてエイリアンとの対決に至ってしまうという、サブタイトルが示す通りの壮大なバカ映画で、非常に楽しかったのですよ。そして以外ときちんとした作りの映画でございました。
きちんと、とはどういうことかと申しますと、視覚的にもお話の運びにも「おバカコメディなんだからこの程度でいいよね」という手抜き感がなく、それとなく張られた数々の伏線も見事で、パロディもあるけれども元ネタを知らなくても楽しめる、などなど。むちゃくちゃな話のようでいて、実はたいへん丁寧に作られたコメディ映画という感じがいたします。

映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』予告編


”敵”の首や手足が文字通りポンッと取れるシーンなどもありますが、何しろ相手はロボットもどきなので、例えば『キック・アス』のように残虐な絵になることはなく、そういう点でも安心して見られる作品でございます。(『キック・アス』といえば少し前に続編の『ジャスティス・フォーエバー』が公開されておりましたけれども、前作のラスト、麻薬を売りさばいた金であがなった兵器を使って、ギャングとはいえ何人もの人を問答無用で殺している時点で、主人公はもはやジャスティスとは呼べないと思うのです。人が死んでも笑えてしまうコメディというのはありますけれども、『キック・アス』については、主人公の当初の動機がわりと真面目なものであっただけに、後半の過剰な暴力は笑えませんでした。)

また主人公ゲイリー・キングの、清々しいまでのダメッぷりがいいんですね。膝まで届くロングコートにシルバーアクセサリーじゃらじゃら、というふた昔前にカッコ良かったファッションでいまだに身を固めた四十路男、というだけなら人畜無害でございますが、人の話は聞かないわ、都合のいい事しか覚えてないわ、借りた金は返さないわ、得意顔で下らないジョークを飛ばすわ、まあ本当にどうしようもない奴でございまして、あまりのイタさにいっそ見ていて愛おしくなってくるぐらいの代物でございます。ゲイリーと他の登場人物との、テンポはいいのにひたすら噛み合ないやりとりがすごく可笑しいんですけれども、字幕をつけるのは大変だったのではないかと思います。
一歩間違えばうるさくてめんどくさいだけの不快なダメ男になりかねないゲイリーを、一抹の哀愁と否み難い愛嬌を備えたそれなりに魅力あるダメ男に仕上げているのは、演じているサイモン・ペグが上手いんでございましょうね。
『ホット・ファズ』は見逃し『ショーン・オブ・ザ・デッド』はスルーしたワタクシは、サイモン・ペグというと『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のスコッティしか知らないんでございますが、あれも大変よかったですね。あの作品で一番オトコマエだったのは、スポックさんでも船長でもなくスコッティですよ、いや本当の話。この2作品だけで、ワタクシすっかりサイモン・ペグ・ファンになりましたとも。

で、そのペグ演じるゲイリー・キング、20年前はイケてる若者だったのですが、その栄光の時代から全く抜け出せないままでおっさんになってしまいました。予告編では「悪ガキ5人組が帰って来た」と言っておりますが、悪ガキ気分なのはゲイリーだけであって、他の4人はそれぞれ家庭を持ったりキャリアを築いたり、まあ順当な社会人生活を営んでおります。そこへ90年代で時が止まっているゲイリーが押しかけ、あの時達成できなかった連続パブ巡りをやろうぜ、と強引な招集をかける所から、人類の命運を(結果的に)賭けた酔っぱらいツアーが幕を開けるのでございました。当然ゲイリーひとりがノリノリで、あとの4人はシブシブ。しかし何だかんだで酒も入り、思い出話も出て来、また事態が抜き差しならない状況になるにしたがって、かつての悪ガキ仲間の感覚が徐々に戻って行くさまは、なかなか微笑ましいものでございました。



あくまでもコメディなのであんまり湿っぽくなることはございませんが、しんみりとする場面もあり。世界のマクドナルド化ならぬスターバックス化への皮肉もあり。そして、これ昔よくラジオでかかってたよなあ、と懐かしくなる楽曲あり。とにかく総合点が高く、たいへん楽しめる作品かと。
ラストはまあ、力技ではございましたけれども、話が大きくなるにつれ、これどう収拾つけるんだろう、まさか夢オチではあるまいな、とちょっと心配していたワタクシとしては、それなりに納得のいく着地点でございました。何より、「ダメ男がダメなりに頑張ったら世界が救われた」のではなく「ダメ男がダメさをどこまでも貫いた結果、なんか世界が救われちゃった」という展開が実にアホらしくて爽やかでございます。

ただこの作品、ひょっとするとワタクシはおうちで一人でDVD鑑賞した方がもっと楽しめたかもな、とは思いました。冒頭に掲げた台詞をはじめ、手を叩いてぎゃっはっはと思いっきり笑いたい所が、ずいぶんありましたので。