のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

続・70周年だというのに

2014-01-25 | KLAUS NOMI
はい、そんなわけで
1/24の続きでございます。

始めに、ノミ情報というわけでもないのですが、映画の話を。
京都シネマで2月22日から3月7日にかけて特集上映 知られざる映画の巨匠 モーリス・ピアラという企画がございます。その中で『愛の記念に』が上映されるのですよ。そう、クラウス・ノミの『Cold Song』が主題曲に使われているという映画でございます。ワタクシ「15歳の少女の奔放な男性遍歴と成長」には全くと言っていいほど興味がないんでございますが、ヤツの歌が流れるというだけでも、劇場へと足を運ぶには充分な理由でございます。
ただ、こういうものの常として、ほんの数日間しか上映されないことが予想されます。そして丁度その頃に副業が死ぬほど忙しくなりそうな気がしているという悲しさよ。

さて、では本格的にノミ話でございます。
まずミュージシャンによるノミ評をひとつ。

POZ BandsOnBands: Sworn In On Klaus Nomi - PropertyOfZack

語ってらっしゃるのは去年1stアルバムを発表した「Sworn In 」というデスメタルバンドのドラマー、クリス・ジョージ氏。クラウス・ノミについてはいろいろなジャンルのアーティストが語って来たわけでございますが、これほど手放しで絶賛したものはあんまりないように思います。嬉しいのでクリス氏の語りの部分だけ全訳しました。怒られたら引っ込めます。

クラウス・ノミほど人の心を捉えるパフォーマンスをする奴は、世界にひとりだっていやしない。誰もが彼のことを、文字通り、宇宙からやって来たエイリアンだと信じた。彼のビデオを30秒でも見れば、君もそう思うだろう。クラウスは音楽の世界に、他の誰もが夢にも見なかったものをもたらしたんだ。しかも、決して真似のできないようなやりかたでね。彼はずば抜けてた。ひとたびパフォーマンスをすれば、その場にいる者を一人残らず釘付けにした。僕らがまだバンドを組んでいなかった頃、僕らを結びつけたのもノミだったし、直接的にじゃないにしても、僕らがいつも尊敬すをこめて見上げるものという意味で、音楽的な影響も受けた。彼の音楽は僕らのとは全然違うけど、僕らがショーをやる時に、異世界的なをものを創造しようと頑張るのは、何よりも、クラウス・ノミが象徴していたものとか、音楽パフォーマーとしての彼の姿勢があったからこそなんだ。

クラウス・ノミの『シンプル・マン』の最後の2曲からも影響を受けたよ。彼のアルバムでも、僕らの『The Death Card』でも、アルバムの終盤で主人公は死を経験してから、その経験について語るために戻って来る。僕らのアルバムも、最後の2曲のタイトルは「Death」と「Return」。これは僕らがこのアルバムを作るにあたって活用したコンセプトなんだ。いわば僕らからのノミへのトリビュートでもあるし、長年彼から受けて来た影響を、僕らが世界に送り出したファーストアルバムの中で表現したものでもあるんだ。クラウスがそうしたように、僕らはできるだけ自分自身の人格を取り払って、むしろ単なる存在物になろうとしている。目の前のパフォーマーも結局は自分たちと同じような人間だ、なんて誰も思い出したくないからね。観客を飲み込んで、パフォーマーが普通の人間だということを忘れさせてしまうぐらいのショーをやらないといけないんだ。


彼らのPVをYoutubeでちょっと見てみましたが、確かに直接的にノミっぽいことはないですね笑。
しかしノミのパフォーマンスやありようを中途半端に援用したり、そのうわべだけ真似するのではなく、彼ら自身のものとして咀嚼した上でトリビュートを捧げるというのは、たいへん真摯でスマートなやりかたではないかと思います。
まあ、単にうわべだけがノミっぽいものを見ても、わりと嬉しくなってしまうのろではありますが。

お次は展覧会。

KLAUS NOMI ? 2013 ? Neuer Aachener Kunstverein

去年の9月15日~11月24日、ドイツのアーヘン新美術ギャラリーで開催されたものでございます。
「回顧展というよりも記録と視覚媒体の研究によってクラウス・ノミという現象にアプローチ」した展覧会であり、「クラウス・ノミは30年前に亡くなったが、その自己演出の手法は今もなお意義深い」と。
また、ヤツの奇抜な衣装やシアトリカルな舞台装飾は、現代のミュージシャンやパフォーミングアーティストの先触れである、と。

記録、反応、そして現代美術における位置づけという三つの側面にフォーカスしたという本展、同時代の人の証言やノミから影響を受けた人へのインタヴューがこの展覧会のために収録され、会場でエンドレス上映されたのだそうです。いいですなあ。
証言者には現代芸術家のヴォルフガング・シュテーレや2008年の舞台「Hommage à Klaus Nomi」を手がけた映像作家ウルリケ・オッティンガー Chicks on Speedというベルリンのバンドのメンバーや、写真家ユルゲン・クラウケといった名前が挙がっております。いやあ、どなたものろごのみな香りがぷんぷんと...何ですと、ユルゲン・クラウケは滋賀県立美術館で展覧会をやったことがあるんですと!?
...しかし1997年かあ。その頃はワタクシ、クラウス・ノミの存在すら知りませんでした。これをもって、どんな展覧会でもなるべく足を運んでおくものだという教訓としようと思います。

「ノミとその芸術は、自己演出とパフォーマンスという問題を巡って現在も続く議論において、重要な役割を持っている。それと対応して、本展はプロセス(過程、進行、方法)という要素を含んでいる。クラウス・ノミという現象の様々な受け止め方を提示すると共に、この現象をアートと言う文脈の中に位置づけるものである」

記事の中で何度も「クラウス・ノミという現象」という言葉が用いられておりますね。ワタクシはその表現に出くわす度ににっこりしてしまいました。「クラウス・ノミ」とはひとりの人間であると同時にひとつのアート作品でもあり、同時代のみならず時代と場所を超えて影響を及ぼして行くひとつの現象でもある、という捉え方を、きっとヤツ自身も喜んだことであろうと思うからでございます。
会期中にはギャラリーでのライヴパフォーマンスや、アンドリュー・ホーン監督を迎えての、映画館での『ノミ・ソング』の上映などが行われたとのこと。
嬉しいですね。これをきっかけに、ノミに興味を持つ人がますます増えたに違いありません。

↓「Hommage à Klaus Nomi」の映像。




最後に。
昨年末に出会って、ああ、なんだかノミみたいだなあ、と思ったものをひとつ。
傑作グラフィック・ノベル『アライバル』の作者、ショーン・タンによる小さな絵本でございます。




いえいえ、そうではありません。
主人公の頭が三方向に尖っているからではございません。

他の国、たぶん遠い所からやって来て、
普通にしていても、ちょっと変わっている。
何を考えているのかよく分からない。
たいして目立ちもしない場所に、
奇妙でささやかで素敵な贈り物を残して、
ある日ふと、帰って行ってしまう。

そんなありようが、なんだかとてもノミっぽいや、と思ったのでございます。

そんなわけで
本当にふがいないファンだけれども、せめてお祝いの言葉を言わせてください。

70回目のお誕生日おめでとう、クラウス・ノミ。