のろや

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『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』のこと

2011-08-17 | 映画
今一番公開が楽しみな映画といったら、『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』でございます。
本国イギリスではちょうどひと月後の9月16日封切り。USでは11月18日、日本での公開は未定ということですが、まあおそらく、来年3月くらいにはなるこってございましょう。待ち遠しいことこの上ありません。

監督は『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン。この作品は陳腐な邦題にげんなりして結局観に行かずじまいでしたが、評価を見聞きするかぎり、監督の手腕にはそこそこ信頼を置いてもよさそうです。『ティンカー~』のトレイラーを見るかぎり、映像センスにも期待できそうでございますね。

しかし何と言っても注目したいのは、演技派俳優で固めた豪華俳優陣でございます。
主人公である元英国諜報部員、ジョージ・スマイリーを演じるのはゲイリー・オールドマン。
彼の”戦友”であり、今は実質的に諜報部内ナンバー2の座を占めるビル・ヘイドンにはコリン・ファース。
組織内の「もぐら」(ソ連側への内通者)の存在を嗅ぎ付ける老獪な諜報部チーフ、コントロール(管制塔)にはジョン・ハート。
コントロールの後釜に納まった野心家パーシイ・アレリンには、一度見たら忘れられない風貌のトビー・ジョーンズ。
スマイリーと共に「もぐら」を追う若手幹部ピーター・ギラムには、BBCのドラマで現代版シャーロック・ホームズを演じて一躍脚光を浴びたベネディクト・カンバーバッチ。
自信家でいささかお調子者の工作員リッキイ・ターには最近”That guy”俳優道から脱しつつある(ような気もする)トム・ハーディ。
そして、ええ、辛い過去を封印して小学校教師として生きようとする元工作員、ジム・プリドー役には、ソーターさんことマーク・ストロングでございます。

That guy actor...演技力はあるものの、器用すぎるために俳優としての名前を覚えてもらえず、「あ~この顔絶対どこかで見たことあるんだけど誰だっけ。ほらあれ、◯◯に出てたあの人」というかたちで記憶される俳優。

Tinker Tailor Soldier Spy - Official Trailer [HD]


どうです、そうそうたる顔ぶれではございませんか。
ゲイリー・オールドマンはスマイリーにしてはちとカッコよすぎるような気もいたしますが、冷静沈着、頭脳明晰、だけど見た目は全く冴えないおっさんであるジョージ・スマイリー氏をゲイリー・オールドマンが演じるということの意外性も含めて、どんな演技を見せてくれるのか楽しみな所でございます。
意外と言えば、てっきりピーター・ギラム役と思っていたコリン・ファースがビル・ヘイドン役にキャスティングされているのも意外でございました。「話を、本質だけにとどめようではないか?」火を噴きそうな語気で、ギラムがささやいた。(ハヤカワ文庫p.91)なんて、コリン・ファースにぴったりの演じどころではないかと。しかしまあ、年齢をはじめ諸々の条件を考え合わせると、やっぱりこの配役がベストかと思い直しました。

逆にこれ以上ドンピシャなキャスティングはあるまいと思ったのが、トム・ハーディとマーク・ストロングでござます。具体的にどうドンピシャなのかはネタバレに繋がってしまいそうなのであんまり申せませんが、とにかく映画化決定のニュースを聞いてから慌てて原作を読みはじめたのろは、暇を見つけては読み進めながらつくづくと思ったわけでございますよ、そうそう、こういう役にこそソーターさんを呼んでくれなくては、と。

と申しますのもこの所、ソーターさんには出演オファーが悪役-----しかも人物としての複雑さや深みの描写をあまり要しない単純な悪役-----に偏りすぎではないかと、少々危惧していたからでございます。ブラックウッド卿しかり、サー・ゴドフリーしかり、フランク・ダミーコしかり。もちろん悪役loverであるのろとしては、それはそれで大いに楽しめますし、『The Eagle』や『The way back』(どちらも日本未公開)における、よりマイナーな役においては、中立的な人物を演じておいでではあります。しかし極悪非道かつナイーヴな悪党ハリー・スタークスや、真意も深慮も計り知れないヨルダン情報局長ハニ・サラームや、凄腕なのに情緒不安定な殺し屋ソーターといった複雑なキャラクターを、充分な説得力で、しかも魅力的に演じるだけの力量を持っているマーク・ストロングが、悪役専門俳優として安易な使われ方をするのはあまりにも勿体ないことよ、と心配していたのでございます。ご本人はインタヴューでそのことについて「別に心配してないよ~」とおっしゃってはおりましたが。
とまあ昨今のタイプキャスト傾向はさておき、武骨で孤独で軍人肌でありながらも「懸命に隠している優しさ」を結局は隠しきれないでいるジム・プリドーを演じるのに、目下の映画界においてマーク・ストロングほどうってつけの役者はないさと思います次第。

ううむ、いつの間にかソーターさんばなしになってしまいました。
話を映画そのものに戻しますと。ひとつ心配なことは、ヴォリュームのある原作を2時間に収めるためには当然いろいろと細かい点を削ぎ落とさねばならないわけですが、ディテールを省略することによって、ただ原作の筋を追うだけの話になってしまわないかという点でございます。こうしたことは映画化の宿命とはいえ、とりわけ『ティンカー~』は登場人物のちょっとした言動によって物語の背景にリアルな広がりと奥行きを構築している作品であり、そうした背景や心理描写こそが、「もぐら」探しのスリル以上に、このスパイ小説に特別な魅力を与えているからでございます。
公式サイトを開いてみてもトレイラー↓が表示されるばかりで、レヴューもまだないに等しい現状においては、原作のどういった部分にとりわけ重点が置かれているかもはっきりとは分かりません。
繰り返しになりますが、とにもかくにも監督のセンスと力量に期待したい所でございます。

トレイラーその2
Tinker Tailor Soldier Spy - Official Trailer *NEW


ああ楽しみだ。楽しみだ。
でもあと半年後ぐらい待たなきゃいけないんだろうなあ。