のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『院展』

2007-10-01 | Weblog
再興第92回 院展へ行ってまいりました。

のろが院展に参りますのはおおむね、宮北千織さん村岡貴美男さん、そして村上裕二さんの作品にお会いする為でございます。

お三方それぞれに独創的な画風で、それぞれにのろの心を打つのでございますが
今回は村上裕二さんの作品をご紹介させていただきたく。

風景画や、人物を大きめに配した作品もお描きんなる方ですが
ワタクシはとりわけ、複数の人物が描きこまれたものが好きでございますねえ。

「眠」
「桜桜」(上から二番目)

本展で見られる作品 「それは子象の「朝」と「花」の物語」 も、群像作品でございます。
ほとんどが金と黒で構成されている画面の所々に、かき落としや上からの彩色であざやかな色が施され、
華やいだ雰囲気と幻想性をかもしだしております。
画面にひしめく大勢の人物。大人、子供、若者、老人。
顔立ちも定かではないその一人一人が、不思議と、それぞれの個性を、くせを、来歴を、持っているように見えるのでございます。

この作品をじっと見ておりましたら、子供の頃にプリズムで遊んだことを思い出しました。
光を虹色に分解するアレ、光学カメラの中に入っているアレでございます。
角度を変え、部屋のあちこちに持って歩いては、虹色の光が壁やら天井やらにあたるのを飽くことなく眺めたものでございます。
氏の作品はまあ、あちこちに持って歩くわけにはまいりませんけれども
寄っては一人一人の人物を見、離れては全体を眺め、
色彩にうっとりし、シルエットに見ほれ、描かれている物語と描かれていない物語を想像し、飽くことがございません。

描かれているのは、おそらく架空の街。
なんとなくアジア的な雰囲気ではございます。
お祭りの日なのか、サーカスが来ているのか、俯瞰の構図で描かれた広場には人がひしめいております。
あちこちに明かりのともる、華やかな祭りの夜といった所でしょうか。
おおむね金で色どられた画布の中央上部には
テント屋根を戴いた円筒形の建物が黒々とシルエットを見せ、画面を引き締めております。
建物の中はよく見えませんが、大きな飯店のようです。
きっと中では人々が大いに飲み、食べ、店員さんがてんてこ舞いでテーブルの間を飛び回っていることでしょう。

よく見ると、屋根の上にもいくつかの人影が。
建物の熱気からちょっと逃れて、夜風で酔いをさましているのでありましょうか。
それとも、人ごみを上から眺めてやろうとよじ上って来たワルガキどもでございましょうか。
あるいは、ほの暗い中に憩っている恋人たちかもしれません。

テント屋根の両脇から画面手前にかけては
両側の建物から押されるようにして狭い路地が通っており、人々が楽しげに往来しております。
その人群れに沿って視線を下ろしていくと画面左手の手前にも、どうやら飲食店が構えられているのが見受けられます。
はり出した板張りの屋根の下には丸テーブルが並んでおります。
ほとんどのテーブルの上にはまだ、逆さにされた椅子がそれぞれ数脚、乗っかっております。
宵が深まってこれから本格的に開店営業といった雰囲気。
開店を待ちきれずに、早くもテーブルについているお客さんの姿もちらほら見受けられます。

画面右手には急ごしらえのやぐらが立ち、ここにも大勢の人々が集まっております。
出し物の準備をしているのか、あるいは出し物を待っている見物客か.
周りには大きな紙風船のようなもので遊ぶ人たち、壁に寄りかかって立ち食いする子供たち、
あれ見てよ、と画面の中央を指差す親子。

その視線の先、人ごみが途切れて小さなスペースが空いているその中央に
赤い衣装を着けた二頭の象が寄り添いあっております。
一頭はまだほんの子供、もう一頭はだいぶ大きいようです。
かたわらには、飼い主あるいは世話係らしい人物が一人。背格好からすると青年でしょうか。
数人が象たちに近よって、珍しそうに眺めたり、撫でたりしております。

大勢の人物像がひしめく画面で、目鼻立ちや顔の表情がはっきりと描かれているのは
実はこの、中央で子象を撫でている人物たった一人なんでございますが
さきにも申しましたように、その他大勢の人物一人一人が、自身の来歴/物語を持っているようであり
また画面全体からは、祭りの宵、出店を廻ってぶらつく人々の、日常から少し離れた高揚感が伝わってまいります。

そうした、個々の人物が抱えている無数の小さな物語と
絵全体が構成している、より大きな物語が相まって
プリズムが作る虹のように、汲めども尽きない魅力をとなっているのでございました。