のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『狂王ルートヴィヒ』

2006-10-03 | 
『狂王ルートヴィヒ』ジャン・デ・カール著 2002 中央公論新社 を改装しました。




総革装丁。
だってルートヴィヒ2世ですから。




留め金付き&全小口彩色。
だってルートヴィヒ2世ですから。



見返しはマーブル紙。
だって(以下略




本書は
6/13の狂王忌でもご紹介したバイエルン王ルートヴィヒ二世の、詳細な伝記でございます。
手紙や日記といった一次資料、当時のプレス、身近な人々の証言などを綿密にあたる一方、
あくまで 読み物 としてまとまっておりますので、とっつきにくい所は全くございません。
始めからおしまいまで、大変面白く読みました。
もっとも
取り上げている人が人なだけに、出来事を時系列に並べただけでも
かなり面白い読み物になりそうではありますが。

邦題は『狂王』とうたっておりますが、仏語の原題は単に『バヴァリアのルイ2世』(=バイエルンのルートヴィヒ2世)。
ルートヴィヒが狂っていたというスタンスでは書かれておりません。
実際、ルートヴィヒは相当な人嫌いであり、
今で言うならひきこもりであり
オペラおたくであり
太陽王ルイ14世マニア ではございましたが
その気まぐれも浪費も、
狂気と断言できるほどすさまじいものではなかったようでございます。
築城への情熱がエスカレートした晩年においても、決して正常な判断力を失ったわけではなく
ただただ、
美と物語の世界に浸っていたいという望みだけを見つめ
煩雑で殺伐とした現実世界には背を向けていたがために
国政に関する文書も、破産寸前の財政からも目を背け、つまる所、自らを追いつめてしまったのでございましょう。
-----王を唯一理解した女性、タカラヅカでおなじみのオーストリア皇妃エリザベートの言葉を借りるなら

「王は狂ってなどいなかった。ただ夢を見ていただけだ」

著者は一貫してルートヴィヒに好意的な眼差しを注いでおります。
言葉のはしばしに、ルートヴィヒに寄せる愛情と同情が伺われます。
一方、王をいわば食いつぶす大作曲家ワーグナーを描く筆は、ちと、いじわるでございます。

歴史的事件には関わりのない、小さな、心なごむエピソードを
(とりわけ、王が悲劇的な死を迎える終盤に)紹介しているのも
ルートヴィヒ個人に対する、著者の敬愛の念からでございましょう。

エピソードを語るのは
王の御者や、城の職人や
王の在任当時はまだ子供だった、城の管理人の娘(「スパーバー夫人」!ひぇぇどっかで聞いた名前だ)など、
実際に王の身近にいた人たち。
彼らの語るルートヴィヒ像は、人物辞典や Wikipediaの記事からは伺えない
人間性や温かみを伝えております。

さて
そんなルートヴィヒ2世、なんとファンサイトがあるんでございますよ。

ドイツ語版 Knig Ludwig II. von Bayern

英語版 King Ludwig II. of Bavaria

↑ ドイツ語版トップページの一番右下の写真を写真をクリックすると
ルートヴィヒご幼少のみぎりから、湖で謎の死をとげる42歳までの
肖像画や写真がずらっっ と出てまいります。
よくぞこれだけ集めたものよ。
青年時代のルートヴィヒ、軍服姿の何と凛々しいこと。
身長192センチの長身痩躯に整った顔立ち
ということで
彼を「落とそう」とするご婦人方は後を絶たなかったのだそうでございます。
もっとも
ルートヴィヒが同性愛者であることは、当時すでに公然の秘密であった
ということでございますが。

・・・あきらめろよな。