のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

あけましてまたぱぶこめ

2015-01-01 | Weblog
あけました。

それはさておき、福井県の高浜原発3、4号機の最稼働について政府がパブコメを募集しております。

1500万人の飲料水を守れ!高浜原発再稼働パブコメ、政府が国民の意見を募集中。あなたも書きませんか?たとえば、こんなことを。 | 国際環境NGOグリーンピース

2011年に起きた福島原発事故はいまだ原因が究明されておらず、収束もしておりません。
高浜原発は、集中立地、複数ユニット(1カ所に2機以上の原子炉を置くこと)、そして老朽化という福島原発と同様の問題を抱えております。今回審査の対象になったのは1985年に建てられた3、4号機ですが、同じ敷地内にある1、2号機は福島第一原発とはたった1年違いの1974年製で、昨年で運転開始から40年目となりました。
ちなみに九州電力は昨年、老朽化問題が常々指摘されていた玄海原発1号機を廃炉にするとの方針を発表しました。この原子炉が運転を開始したのは1975年、つまり高浜原発1、2号機の方が1歳年上です。
さらに関電は今回の3、4号機のみならず、ゆくゆくはこの古い1、2号機の最稼働も視野に入れております。

関西電、高浜原発1・2号機の40年超運転延長へ点検実施 | Reuters

ご存知のように、福島原発事故由来の放射性物質は200km離れた東京や千葉にも降下しました。
東京の水道水から放射性ヨウ素が検出されたこともありました。

東京の水道水から検出 乳児基準超えるヨウ素 - 47NEWS(よんななニュース)

↓科学誌『ネイチャー』が作成した汚染地図。2011年5月~9月の間に捉えた淡水魚(鮎)のセシウム汚染度を測定して地図上で色分けしたものです。
The isogram map shows average active cesium (quasi-Cs137) contamination level of the Ayu (Plecoglossus) captured in between May and September 2011 on each prefectures in eastern Japan. : Overview of active cesium contamination of freshwater fish in Fukushima and Eastern Japan : Scientific Reports : Nature Publishing Group

そして京阪神の水瓶・琵琶湖は高浜原発から同心円でたった60km圏内にあります。

また規制委は審査対象の3、4号機が新しい規制基準に適合したとしておりますが、住民の避難計画については審査の対象外となっております。
その上、以下の東京新聞の記事によると、内浦半島内の高浜原発に車で行ける道は県道1本のみであり、これが途中寸断されると孤立してしまいます。のみならず、途中には崖の崩壊や土砂流の警戒区域もあるというのに代替ルート建設は検討されていないということです。
これでは「事故は起きない」ということを前提にしているのも同じではないでしょうか。福島の教訓はいったいどこに吹き飛んでしまったのか。

東京新聞:高浜3、4号機 審査書案了承 原発集中、リスク不問:社会(TOKYO Web)

以下は2012年2月の記事ですが、ここで述べられている「根拠の無い楽観的空気」は原子力規制委員会の皆様方の間にも充満しているのであろうか、疑わざるを得ません。

「原発事故の最悪シナリオが避けられたのは“幸運”に恵まれたからです」:日経ビジネスオンライン

 そして、私が、敢えて、この「幸運だった」ということを申し上げるのは、いま政界、財界、官界のリーダーの方々の中に、「根拠の無い楽観的空気」が広がっているからです。残念ながら、これらのリーダーの方々の中には、今回の事故の深刻さを直視することなく、また、事故原因の徹底的な究明をすることなく、「もう福島原発事故は収束した」「もう同じ事故を起こすことはない」という楽観的意見を語る方がいます。
実は、そうした「根拠の無い楽観的空気」こそが、今回の福島原発事故を起こした遠因であることを、我々は、肝に銘じるべきでしょう。




さて原発の話はとりあえずここまでにして、もうひとつ正月早々縁起の悪い話を。

東京新聞:国が企業向け促進策検討 武器輸出に資金援助:経済(TOKYO Web)

東京新聞:武器購入国に資金援助 途上国向け制度検討:経済(TOKYO Web)

戦場ジャーナリストが問う「武器輸出三原則」撤廃の行方-「死の商人」化する安倍政権(志葉玲) - 個人 - Yahoo!ニュース

日本が「死の商人」にー安倍政権、武器輸出三原則撤廃を目指す(志葉玲) - 個人 - Yahoo!ニュース

「イスラエル兵の投げ込んだ爆弾で、パパは首から上が吹き飛び、ママはお腹が裂け、内蔵を飛び出させて死んだわ…」日本が武器輸出三原則の例外としてF-35共同開発に関わろうとしていることを話すと、ザイナブさんはこう訴えた。「米国やイスラエルに兵器を売らないで下さい。その兵器が私達を殺します。日本の人々がいい人達だと、私は信じています」と。

これらをお読みになって何か思う所がおありでしたら、ぜひとも一言こちら↓にお寄せいただくのがよろしいかと。

防衛省・自衛隊:防衛省・自衛隊に対する御意見箱
パブコメではございませんが、とりあえず意見を受け付けてはいるようです。名前もメールアドレスも不要。


以上、年明けから実にめでたくないトピックでございました。

法隆寺行

2014-12-31 | Weblog
ふと思い立って法隆寺へ行ってまいりました。

この年末年始は北宋末期に浸ってやろうと、図書館で駒田信二訳『水滸伝』と『清明上河図をよむ』を借りて来ております。駒田訳『水滸伝』は何せ120巻本の全訳、A5版2段組み500ページの上中下巻という大部で、一生懸命に読まないと返却日までに読み終わりませんので、この度の小旅行にも中巻を携えて行きました。みちみち読んでおりますと、途中でのろさんお気に入りの登場人物、義侠心溢れる大旦那の柴進が、権力をかさに着た知府のせいで生死の境をさまようばかりのひどい目に会わされるじゃございませんか。ええいこのゲス野郎許せねえお前なんか李逵の兄貴にぎったんぎったんにやられちめえ糞役人めっていうかもとはといえばこれ李逵のせいじゃねいかチキショーさっさと助けに来やがれぃ!と頭の中はすっかり任侠気分で大騒ぎであったことはさておき、最寄り駅からごとごと揺られて約2時間弱でJR法隆寺駅に無事到着しました。

寒風がひょうひょうと吹きすさぶも日差しは暖かで、青空には白雲がダイナミックにたなびき、古寺散策にはなかなかの日和となりました。
案内に従っててくてく歩くこと約20分。


あちこち修復されている門柱。
南大門から奥を覗けば、はや五重塔が見えております。



年の瀬ともなればさすがに観光客もまばらでございます。


仁王様に守られた、堂々とした中門。上部が細まったエンタシスっぽい柱や高欄の紋様(卍くずしと言うらしい)が、大陸の風を感じさせますな。


どこから見てもサマになる五重塔。垂木の先の装飾も美しい。


風が強い。薬師三尊像を納めた大講堂の中までも遠慮なく吹き付けます。金堂を守るドラゴンも飛ばされまいと必死でございます。


そんな時でも、わんこは元気。

と思ったけど狛犬じゃなくて獅子かしらん。だったらネコ科だなあ。

金堂の中には美術の教科書でお目にかかったことのあるかたがたがずらりと。アルカイックな微笑みの釈迦三尊像も結構でしたが、眉に憂いを含み森々とした佇まいの四天王像の素晴らしいこと。ワタクシは信心がないのでつい美術館の展示品感覚で見てしまいがちなんですけれども、すぐ横で中国か台湾から家族旅行で来ているらしい高校生くらいの男の子が、当たり前のように三礼しているのを見て、ちょっぴり我が身を恥じました。

ドラマチックに光る空。塔もお堂もシルエットが美しいので、逆光もまた良し。


ひょうきんな表情にも見える鬼瓦さんたち。ハスの葉型の飾り瓦なんか始めて見ました。



五重塔との別れを惜しみつつ西院伽藍を後にして、大宝蔵院へと向かいます。百済観音さんにはどうしても会わねばなりませんから。
といって、かの百済観音さんについてのろごときが言えることは一つもありません。あのような美の前ではどんな言葉も陳腐になってしまう。
我ながら嫌なんですけれども、像を目の当たりにして、右から左から正面からじっくりと見させていただきながら、しきりと思い出されたのは三島由紀夫の『金閣寺』でございました。美の象徴として金閣寺を選ぶなんてバカだ、狙うならこれだ、これこそひとたび失われたら絶対に取り返しがつかない究極的な美ではないか溝口バーカバーカ、って何でこんなことしか考えられんのだろう。ワタクシ煩悩の幅はたぶん狭い方なので部門で数えたら百八つもないと思うんですけれども、部門内でこじれているものがたくさんありますので、総合的には百八十くらいにはなりそうな。

さておき。心洗われ半分乱され半分で夢殿へ向かいます。
何せ師走も30日。戸口という戸口にお正月飾りが下がっております。



だいぶ日も傾いて来ました。夕日に映える甍も趣深い。



南大門へ戻ってもう一度外から五重塔を眺めて帰ろうかとも思いましたが、寒くなって来たので駅に直行することにしました。
帰路の電車の中ではやっとこさ水滸伝随一の美男子、燕青が登場。お気に入りの柴進はいわゆる豪傑ではないので、梁山泊の仲間に加わってからは出番が全然ないのじゃないかと心配しておりましたけれども、度胸のある大旦那ならではの役割をしっかりとこなしていらっして安心しました。そして軍師の呉用先生は相変わらず人でなし。


というわけで今年も暮れて行くわけです。
体調を崩したことも含めて地味に色々と大変な年でした。
急に忙しくなったために書きかけで放置してしまったブログ記事も多数。不毛と知りながら続けなければならない作業もありました。
しかし今年中に片付けねばならないことはそれなりに片付き、頭髪を3分の1あまり失わしめた抜毛症も秋にはおさまり、激悪化したアトピーやウイルス性皮膚炎もおおむね収束し、もう一生このままかと思われたクレーターと山脈だらけの肌は少しずつなだらかになって「きめ」も戻って来ました。それに、とりあえず今年中は解雇はされなかった。
あまりいい展覧会に恵まれたとは言えませんけれども、いい映画にはたくさん出会えましたし、今年の締めに観た『インターステラー』もとてもよかった。CDはチャリティーもの以外では1年を通してたったひとつしか買わなかったものの、そのひとつ(『ジャック・タチ・ソノラマ!』2枚組)は間違いなく一生もののお宝。そしてNHK-FMではこの年末年始に思いがけずフリードリヒ・グルダの特集番組をやるときた。

終わりよければ何とやらで、個人的にはいい一年であったと思いたい。
世の中を見渡すと吐き気がするような一年だったしこれからのことを考えるとますます早く死にたくなりますけれど。



それでもたぶん来年もそれなりに生きて行かなければならない。
「命は生きる定めなの」ってアントニアが言ってた。
たぶんスピノザもそう言うだろう。


クリスマス動画

2014-12-24 | Weblog
クリスマスのお気に入り動画その1

Die Nationalelf feiert Weihnachten 2007


サッカーワールドカップのドイツ代表メンバーをクレイアニメーションで再現?したシリーズのクリスマス版。
この中で代表に残っているのはシュバとポルディだけになってしまったのだなあ。あと、レーヴ監督と。
ラームなきあと、キャプテンはシュバイニーが引き継ぐのかしらん。
ラームやクローゼが若手として代表入りしていた時からの代表ファンとしては、寂しくもあり、感慨深くもあり。

クリスマスのお気に入り動画その2

Christmas with the Joker - Jingle Bells


もはやクラシックでございます。
そうそう、ジョーカーさんを含むDCの悪役たちが活躍する『スーサイド・スクワッド』が映画化の運びとなったようですが、わりと強硬なハーレイいらない派であるワタクシはあんまり興味が持てません。『Li'l Gotham』のハーレイは可愛いと思いますけれども、あれはあの世界観とDustin Nguyen氏の素晴らしいアートあってこその可愛さです。むしろフラッシュの映画が楽しみな所。まあ順調に行っても3年後ですけれども。鬼笑いまくり。

クリスマスのお気に入り動画その3
1988年の映画『三人のゴースト』のエンディング。

Scrooged Christmas Miracle Speech - Get It -

続き↓
Scrooged! The Movie - Put a Little Love in your Heart - End Scene


大好きな映画でございます。残念ながら映画館ではなく家のテレビで観たのですが、この最後のシーンには本当に心温まりました。こういうものを観ますと、ねじけた心もまっすぐになりますね。

そうは言っても今年も実家に帰らないのろさん。
もう18年くらい帰っていないからもはや”帰る”という感覚もないけれど。

『セブン・チャンス』と『酔拳2』(追記あり)

2014-12-14 | 映画
昨日のことですが、京都ヒストリカ映画祭でバスター・キートンの『セブン・チャンス』とジャッキー・チェンの『酔拳2』を観てまいりました。

キートンのセブンチャンス | HISTORICA
↑紹介文の中で「道化が基本のキートンが、珍しくエレガントでカッコイイ役で登場する珍しい作品」と書かれておりますが、これには異を唱えたい所です。長編デヴュー作『馬鹿息子』でも『海底王』でも『拳闘屋』でも、そして数々の短編作品においても、キートンはエレガントでカッコ良く、しかもなお道化なのです。

10月に京都国立近代美術館で『キートンの探偵額入門』が上映された時は、音声はもちろんのこと(サイレント映画ですから)伴奏も何もない全くの無音上映といういささか異様なものでございましたが、一転して今回は何と弁士さんによるナマ活弁、そしてギターのナマ演奏付きという贅沢さ。『セブン・チャンス』は、キートンの長編作品の中ではワタクシそれほど好きな方ではございません。前半に女性たちからフラれまくりバカにされまくるキートンが不憫すぎる上に、最終盤にならないとキートンの走りも転びも見られないからです。しかし、ただでさえ上映されることの稀なキートン作品、こんな機会を逃す手はない!ということで、同僚に休日を交代してもらって行ってまいりました。
え、有給?いっぱい余ってますけど人数かつかつなんでどうせ取れませんのですよあっはっは。

さておき。
弁士さんが意外にお若い方で、実を言いますと始まる前は少し不安だったのでございます。ところがいざ語りが始まりますと、奥手で実直な青年キートンや、可愛いヒロイン、弁護士のおっさんにボーッとした下男、そしてウバ桜もいいとこの花嫁候補たちなどなどのキャラクターをしっかり演じ分けつつ、ナレーションでは字幕や台詞にはない独自の語りを加えて笑わせる、全くお見事な職人芸を聞かせていただきました。
そして時には一気に盛り上げ、時にはじわじわと緊張感を高め、群衆の動作や足並みもギター一本で描き出す、細やかな伴奏も誠に素晴らしいものでございました。ワタクシはキートンが走っている姿だけでもうグッと来てしまうのですが、今回はその上に、熱のこもった活弁と伴奏が加わるわけでございますよ。700人の”花嫁候補”たちに追いかけられるキートンが爆走しながら、友人に向かって「彼女の家で牧師と待っててくれ、7時までに必ず行くから」と言うシーンでは本当に涙が出そうになりました。弁士さんの熱演、熱い伴奏、そしてキートンのあの走り、その全てがあんまり美しくて。

それから他の観客と一緒にキートン作品を観るというのも新鮮な体験でございました。意外な所が意外に受けたり、逆に笑いどころのはずなのに反応がなかったり、また凄いアクションには思わずという感じでおお!と声が上がったり。特にラスト近くの有名な、「階段落ち」ならぬ「坂転がり落ち」シーンでは、笑いと驚愕と感嘆と若干の不安(あれ大丈夫なの?!という)が入り交じったどよめきで場内が満たされ、なんとも幸福な気分になりました。

Buster Keaton chase scene


臨場感溢れる活弁を聞かせてくださったのは2000年から活弁士としてご活躍中の坂本頼光さん、素晴らしい伴奏をしてくださったのはギタリストの坂ノ下典正さんということです。本当にありがとうございました。
イベント・ゲスト | HISTORICA

さて、午前中の上映だった『セブン・チャンス』が終わり、いったん家に帰って不在者投票などなどを済ませた後、夕方にまた文博へ。自由席券だから満員で入れなかったらどうしよう!と思って早めに参じたのですが、全然混んではおりませんでした。ちと複雑な気分。

酔拳2 | HISTORICA

『酔拳2』を観るのはおそらくこれで4回目でしたが、最後に鑑賞してからもう少なくとも10年以上は経っております。久しぶりに観たらまあ、ええ、もう、震えが来るほど面白かったです。
反目と友情、怒りと正義感、まばたきするのも勿体ない見せ場の連続に、一度はのされた主人公がとことん悪い悪党どもを死闘のすえ叩きのめすという熱い展開、そしていつまでも古びない王道ギャグ。まあアクションの凄さは言わずもがなとして、故アニタ・ムイのコメディエンヌっぷりが本当に素晴らしく、ほとんど彼女が何かするたびに客席から笑い声が上がっておりました。

(追記)エンドクレジットが終わり、場内が明るくなると同時に、客席からは嘆息とともに自然と拍手がわき起こりました。こんな経験は『エルヴィス・オン・ステージ』以来でございます。素晴らしい映画と出演者に対する敬意をその場にいる見知らぬ人たちと共有できた、貴重な瞬間でございました。
エルヴィス忌 - のろや

『セブン・チャンス』も『酔拳2』も、上映後には『るろうに剣心』シリーズでアクション監督を勤められた谷垣健治氏によるトークイベントがございました。ワタクシは『るろうに剣心』を観ておりませんので、そのへんのお話は分からなかったのですが、とにかく『酔拳2』はアクション映画の最高傑作である、というお説には諸手を上げて賛成いたしたく。
トークの中でも話に上がっておりましたけれど、これを機会にバスター・キートンや昔の香港映画に興味を持つ人が増えてくれたらいいなァと、しみじみ思ったことでございました。

『野口久光シネマ・グラフィックス』

2014-11-30 | 展覧会
京都文化博物館で開催中の野口久光シネマ・グラフィックス展へ行ってまいりました。

氏のポスターデザインがとりわけ好きかと問われれば、実を申せばそうでもないのですが、膨大な作品のひとつひとつに各々の映画の魅力や見所を端的に表現するための工夫がこらされておりまして、実に見ごたえがございました。もちろん取り上げられているのは古い映画ばかりでしたので、中にはタイトルすら知らないものもありました。けれども親切なことに、ポスター作品には全てにその映画の概略と見どころを記した解説文が付けられておりましたので、知っている映画はそうよそうよと頷きながら、あるいはハテそうだったかのうと首を傾げながら、そして知らない映画はそうかそうかと興味をかき立てられながら、じっくりと鑑賞できました。

やっぱりパネルでの解説って重要だと思うのですよ。あってもどうせ読まないという人はまあそれでいいとして、プラスαの情報が欲しい人や、他者から提供される情報を加味して改めて作品を見直したい人だっているわけです。解説があるとそれだけで作品を見た気にさせてしまう、あるいは作品の見方を限定してしまうという懸念があるのも分からないではありませんが、そもそも解説ばかり読んで作品そのものにはチラッとしか目をくれないような人は、解説がない場合でもじっくり作品と向き合ったりはなさらないものです。というわけで「作品と玄人向けの解説だけ出しておけばいい」という姿勢は美術への間口を狭めることにしかならないと思いますよ京都国立近代美術館様。

さておき。

また会場内では、野口氏が宣伝部に勤めていらっした映画配給会社、東和映画の25周年を記念して制作されたという短編フィルムや、往年の名作が日本で劇場公開された時の予告編なども見ることができまして、これまたなかなかのお宝でございました。今では外国映画の予告編には日本語のナレーションが入っているのが普通でございますが、昔は技術的な問題があったためか、音声ではなく「乞うご期待!」や「美男美女が勢揃い!」といった予告用の字幕が画面いっぱいに踊るという形式だったようでございます。そのせいで、絶世の美男子ジェラール・フィリップのご尊顔の上にデカデカと宣伝文句がかぶさるというけしからぬ事態も起きておりましたが、まあ時代というものでございます。

時代といえば、ポスター作品は年代順に展示されておりますので、時が移るに従っての変遷が見て取れるのも面白いことでございました。戦前のものは横書きの文字でも右→左という進行方向で描かれているので読みづらいったらないのですが、色彩は淡く上品なものが多く、色の点から言えばこの時代のものがワタクシは一番好きでした。
時代が下ると「テクニカラー」という謳い文句が登場する一方、カラー映画であることを強調するためか、ややどぎつい色彩が使われるようになったという印象を持ちました。さらに進むとキャサリン・ヘップバーンやブリジット・バルドーといった比較的なじみ深い名前が出てくるようになり、最後にトリュフォー監督も愛したという『大人は分かってくれない』のポスターと対面しますと、戦前の『制服の処女』からヌーヴェルバーグまで、映画も世の中も野口氏もはるばるやって来たものだとなかなかに感慨深いものがございましたよ。



『ヒックとドラゴン2』劇場公開のための署名

2014-11-22 | 映画
《パラジャーノフ 生誕90周年記念映画祭》で『ざくろの色』を観てまいりました。
パラジャーノフについてはワタクシ、以前『火の馬』を睡魔と格闘しながら観て、結局いいも悪いもよく分からなかったという前科がございます。そこで今回はしっかり目を開けていようと、前日充分に睡眠をとり、眠気覚ましにお茶を携えて万全の体制で臨んだのにもかかわらず、映画が終わる頃には6割がた寝ておりました。うーむ、相性が悪いのかもしれません。


ところで京都みなみ会館のチラシ置き場にこんなものが。



このフライヤーをお手に取っていただき、ありがとうございます。ドリームワークスアニメーション(DWA)の傑作『ヒックとドラゴン』をご存じですか?まだ見たことがないという幸運なあなたは、こんなフライヤーなど読んでいないで、レンタルでもいいので今すぐ『ヒックとドラゴン』をご覧ください。そして、1作目を気に入った方や、すでに大ファンのあなたにお願いしたいことがあります。2014年9月現在、2作目の日本公開のめどがまったくたっておらず、このまま劇場未公開になる可能性が高いのです。どうか劇場公開希望のために署名という形でご賛同いただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。(HTTYD2日本公開を求める会)

ディーン・デュボア監督にもご賛同いただきました。
目標の1万人まで折り返しました。



これまでに劇場へ観に行かなかったことを後悔した映画を3つ挙げよと言われれば、ワタクシのチョイスは『マトリックス』、『ダークナイト』、そしてこの『ヒックとドラゴン』となります。(次点で『黒猫・白猫』)
先の2作が映画史にその名を刻む金字塔的作品であることは多言を要しませんが、『ヒックとドラゴン』もまた、歴代の名作アニメ映画のどれと比べても引けを取らない傑作、いや大傑作と申し上げてよろしいかと。ストーリー、キャラクター、グラフィック、音楽、どれをとっても満点の出来映えでございます。キャラクターの静止画がいまいち可愛くないのは仕方ありません。そこはドリームワークスですから。動くとちゃんと可愛いですよ。

『ヒックとドラゴン』 How to Train Your Dragon 予告編


何せアメリカ映画ではあるので、ラスボスはサダム・フセインの象徴なのだとか、お定まりの”西洋人による自然征服”がテーマなのだという見方をする方もいらっしゃるようですが、ワタクシは単純に冒険譚、成長譚、そして異文化交流のお話として観ました。そして大いに楽しんだわけです。
あまりにも完成度が高いので、実を申せば、続編を作ってほしくはありませんでした。そうは言っても作られたとあれば観ておきたいですし、大きなスクリーンで鑑賞できればそれに越したことはございません。
というわけで、以下のブログから署名サイトChange.orgに飛び、さっそく署名に参加いたしました。

「ヒックとドラゴン2(仮)」をどうしても日本公開してほしい会

チラシの文言にあるディーン・デュボア監督の賛同文は、Change.orgのコメント欄のトップで読むことができます。

Dean DeBlois
As the writer and director of How To Train Your Dragon 2, I would be deeply honored for our film to be released in Japan, a country with a rich tradition in animation. My own work has been greatly influenced by Japanese animation, most notably, the work of my personal hero, the legendary filmmaker, Hayao Miyazaki. I am touched by the outpouring of admiration and support for our film from our fans living in Japan, and it is my distinct pleasure to add my name to this petition in support of them.

ディーン・デュボア
『ヒックとドラゴン2』の脚本家および監督として申し上げます、この作品が日本で公開されるなら、私にとって大変名誉なことです。日本はアニメーションにおいて豊かな伝統を持っている国ですから。私の作品は日本のアニメーションから大きな影響を受けています。とりわけ私のヒーローである伝説的な映画監督、宮崎駿さんから。日本に住むファンの皆さんから、私たちの作品に対して大きな賛意と支持をいただいたことに、感動しています。そしてこの署名に私自身が参加できることを、とても喜ばしく思っています。


ちなみにこの『ヒックとドラゴン2(仮)』、映画情報サイトIMDbでは10点満点中8点、RottenTomatoesでは満足度92%の高評価となっております。

How to Train Your Dragon 2 (2014)
How to Train Your Dragon 2 - Rotten Tomatoes



ついでになりますが「日本ではあまり振るわなかった名作アニメ映画」繋がりで『アイアン・ジャイアント』という作品をご紹介しておきます。
見かけは地味ながら、これまた大変素晴らしい作品でございます。日本人としては一カ所だけギョッとする場面がありましたけれども、破綻のないストーリー、説得力のあるキャラクター、確乎としたメッセージ性、そして暖かみのあるアニメーションと、全体的にとてもよくできておりまして、ぜひとも多くの人に見ていただきたいお薦め作品でございます。

アイアンジャイアント 予告編


おお、予告編見ただけで 涙が出て来た。

タキシード姐さん

2014-10-29 | 音楽
2ヶ月ほど前から休日も空き時間も全て潰してかかり切りになっていた作業(多分タダ働き)が、ようやっと終了しました。
『ショーシャンクの空に』終幕のティム・ロビンスの気分でございます。

さておき。
PCで延々と作業をしながらYoutubeで「セサミストリート」の懐かしい楽曲などを聴いていたのでございます。
そしたらまあ、最近のセサミにジャネル・モネー姐さんが出てらっしゃるじゃございませんか。

Sesame Street: Janelle Monae- Power of Yet


うひょーカッコイイ。
ワタクシ彼女のCDを1枚だけ持っているんでございますが、購入してからまだそれほど経っていない時、数日間窓辺に置いていたら、結露がしみてライナーノーツがベコベコになってしまったのでございます。おまけに開こうとしたら湿気でくっついた印刷面同士がビリビリにはがれてしまい、見るも無惨な有り様に。それ以来、そのCDを見るたびに罪悪感にさいなまれるので、奥の方にしまい込んで聴かなくなってしまいました。
しかしこう改めて見ますと、やっぱりカッコイイですね。罪滅ぼしも兼ねてもう一度CDを買い直そうかと思っております次第。

ポイ捨て成敗

2014-10-06 | Weblog

Неуловимая девчонка на мотоцикле против мусора // Elusive girl on a motorcycle against debris


毎度毎度の動画頼り更新でまことに相済みません。
最近ちと色々としんどくて。

『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』

2014-09-17 | 映画
忙しいしハゲは進むしいっそのこと弁髪にしたい。ぐるりを剃るのじゃなくて、前半分だけ剃るやつ。

それはさておき

ワイヤーアクションを駆使したファンタジー活劇といえば、香港映画のおはこでございます。
ワタクシこういうものがけっこう好きでございまして、ひところはよく観たものでございますが、2002年の『HERO(香港・中国合作)』を劇場で観たのを最後に、しばらくこの手の映画から遠ざかっておりました。しかしこのたびは徐克(ツイ・ハーク)監督の最新作ということでしたし、ちょうど現実逃避がしたくてたまらない心境ではありましたし、『キネマ旬報』での高評価やポスターのいかにも感にも心惹かれて、みなみ会館へいそいそと足を運んだわけでございます。

で、どうだったかと申しますと...

凄まじく面白かったです。
約2時間10分の上映時間、終わってしまうのが惜しいくらいでございました。
こういう映画では人間が空中を疾走したり、宙返りひとつで屋根の上に飛び上がったり、剣がびゅんびゅん空を飛んだりするのは当たり前。
もとより突っ込みどころは満載です。夜のシーンのライティングはいかにも不自然ですし、特殊効果も特殊メイクも所々ちょっとしょぼい。
(訂正。しょぼいのではなく、使い方がちょっとダサいのです。マトリックスの弾除け風の動きとか)
しかし、それがいったい何であろう!

例えば同監督の『蜀山奇傅 天空の剣』(1983)という作品、これは特殊効果という点で言えば、制作当時はともかく、ワタクシがこの作品を鑑賞した1990年代の水準からするとかなり稚拙に見えたものでございます。それでも、その活劇の楽しさや問答無用でぐいぐい引き込むストーリー展開、そしてキャラクターの魅力に「それがどぉしたぁ!」と大見得を切られ、ハハーと平伏せざるを得なかったのでございます。それぐらい面白かったのであり、それだけ面白い作品であるからこそ21世紀になってもデジタルリマター版DVDが発売されているのでございます。
おまけに今回の作品では予算とCGがプラスされて、ケレン味100倍増し!やりたい邦題!!サービスてんこ盛り!!!

映画『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』公式サイト

映画『ライズ・オブ・シードラゴン』予告編


アクション要員ユーチ(後述)の立ち回りがより楽しめる英語字幕バージョン。


時は西暦665年、大唐帝国3代目高宗の治世。(パンフレットや公式HPではなぜか「唐朝末期」と記載されておりますが、唐王朝はこのあと250年くらい続いて23代目で滅ぶのであって、この時代はむしろ初期です。)敵国へと送り出した10万の水軍が一夜にして全滅するという奇怪な事件が起きます。花の都・洛陽では、海を治める龍王の怒りに触れたのだという噂が流れ、洛陽一の艶姿を誇る芸妓のインが龍王への捧げものとして幽閉されることに。一方、大理寺(最高裁判所)の長官、ユーチ・ジェンジンは実質的な最高権力者である則天武后から「この事件を10日の内に解明できなくば首をはねる」と言い渡され、捜査に乗り出します。時を同じくして都にやってきたのは本作の主人公たる判事のディー・レンチェ。推薦状を携えてお役所に出向く途上で、幽閉の美女インを誘拐せんとする一団に遭遇したことから、彼もまた唐王朝の存亡をかけた謎解きと戦いに身を投じることになり...。

というのはほんの導入部でございまして。ここからまあ、謀略あり裏切りあり蠱術あり剣劇あり悲恋あり復讐あり男の友情(うっすら)ありそして怒濤のハッピーエンドへと、絢爛たる映像とワイヤーアクションぶんぶんで突き進むわけです。かくも色々な要素が盛り込まれ、回想やら、画面上には現れない交戦中の敵国の話やら、色々な要素が絡んできますのに、よくぞこれだけ混乱もなく、ダレもせず、必要充分かつスピード感満点で描くことができるものよと感嘆いたします。
そして華麗なアクションと息もつかせぬ展開にいっそうの彩りを添えるのが、魅力的なキャラクターたちでございます。
まず唐王朝転覆を図る陰謀を暴く鍵となる、洛陽一の芸妓イン、彼女の壮絶な美しさといったら。






(傘を持っているなんか冴えないのが主人公。笑)

まさしく傾城、いや傾国の美女。画面に登場する度にうっとりと目を奪われる艶やかさに加えて、愛を貫こうとする一途な姿勢にも心打たれるわけでございます。本作で重要な役どころを演じるもう1人の女性、則天武后がどのシーンでも圧倒的に豪奢で華美で凝った衣装に身を包み、貫禄の美貌を見せるのに対し、インは配色もシルエットも比較的シンプルな衣装をまとっており、シンプルさゆえにいっそうその瑞々しい美貌が際立っております。いやあ美女の見せ方を心得てらっしゃますな。
心優しい薄幸の踊り子、というのはやや類型的なキャラクターではありますが、本作のようにエンターテイメントに特化した創作物においては、人物像が類型的であっても何ら問題はないとワタクシは思います。むしろ類型の中でその「型」の持つ魅力がいかに的確に表現されているかこそ問題であり、そうした表現においてツイ・ハーク監督はピカイチの腕前を持ってらっしゃるのでございます。ちなみに類型と言えば、「由緒正しいアジアの悪役」的な風貌の悪役や、泣き言を言う太っちょ、色々と強烈な爺さん(役者さんは若いらしい)などのいかにも感漂う登場人物たちもまたよしでございました。

インを演じているのはアンジェラベイビーというモデル出身の女優さんで、日本のファッション誌にもよく取り上げられているかたのようです。ワタクシはそっち方面に詳しくないので全然存じませんでした。見目麗しいだけでなく、恐怖におののく表情や、蠱惑的な流し目、そして何かを訴えんとする時の思い詰めた眼差しなんかも実によろしうございます。まあ唐時代の美人というのはもっとむっちりぽっちゃりと肉付きのいい婦人であったわけですから、本当は華奢な身体のアンジェラベイビーさんは唐美人の範疇には入らないかもしれませんけれども、そういう細かいことは抜きにして、中国文学に登場するあらゆる美女を演じていただきたいような風貌の持ち主でございます。悪女も仙女もこなせそう。

それからいかにも冷徹な切れ者といった風貌の大理寺長官ユーチ、こいつがもう

血反吐が出るほどカッコいい。

紫の長い衣をひるがえし、美しい透かしの入った三本の剣を操り、重力の法則を華麗に無視してバッサバッサと飛びまくる!斬りまくる!
それはもう、

ビシィィィィ


バシィィィィ


ドドォォォォン




というぐらいのカッコよさ。
ウィリアム・フォン/フォン・シャオフォンという俳優さんはあくまでも演劇畑の人のようで、ドニー・イェンやジェット・リーのような武術の達人というわけではございませんので、複雑なアクションは代役が務めてらっしゃるのではないかと思います。しかし役として見るならば、殺陣も立ち姿も飛び姿も、そりゃもうビシィッと決まっておりまして、ワイヤーアクションの楽しさを存分に味わわせてくれるキャラクターでございます。パンフレットの写真や↓のメイキング映像から判断するかぎりでは、少なくとも大ジャンプしたりぶっ飛ばされたりといったわりと大掛かりなシーンでも俳優ご本人がこなしておいでのようです。

Young Detective Dee


登場人物の中でこのキャラクターだけ頭髪が赤みを帯びているのは、異民族の血が濃いことを示唆しているのか、あるいは気性の激しさの象徴であるのか。まあ分かりませんが、「真金(ジェンジン)」という名前は何となく北方民族っぽいような。眼差し鋭く、武芸に秀で、頭もよく、キレッキレの隙のない男かと思いきや、インが詩を愛好すると知ったとたんに「詩を書く!(で、でも精神を養うためだからな!)」と言い出して副官をポカーンとさせ、しかも詩才が全然ないらしく一行も書けない、という微笑ましいボケをかましてくれるあたり、実にステキでございます。

主人公ディーが主に推理担当であるのに対し、ユーチはいわばチャンバラ担当であり、序盤での盗賊団を相手とした大立ち回りから、黒幕との死闘、そして巨大な海の怪物との対決まで、華やかなアクションで楽しませてくれます。まあ要するにいつもディーに先を越されて一足遅く現場に着くせいで、ちょうど鉢合わせ悪者たちと闘う羽目になるということなんですが。

このユーチにライバル視されるのが主人公のディーでございまして、「中国版シャーロック・ホームズ」という謳い文句わりとそのまんまなキャラでございました。ワトスン君もいます。といってもルームメイトではなく、たまたまそこに居合わせたせいでディーに片棒を担がされて事件に関わっていく若い医師なのですが、設定はどうあれ「巻き込まれる善人」というのはなかなか味わい深いポジションなのでございます。演じるケニー・リンの「いい人」を絵に描いたような風貌も役柄にピッタリでございます。

向かって左から、ホームズ先生、アクション要員、そしてワトスン君。



主人公に話を戻しますと。
演じてらっしゃるマーク・チャオの面長な風貌のせいもあってか、ホームズ先生に比べるとディーは何だか飄々としておりまして、一見ものすごい人物には見えません。(前作『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』ではアンディ・ラウが演じたとのことですが、今回は前日譚のため若い俳優を起用した模様)ところがその実態は、一旦頭に入れた情報を決して忘れず、様々な事実を瞬時に繋ぎ合わせ、味方に先んじ敵の裏をかく行動に打って出る、スーパー頭脳の持ち主。
実在した名宰相「狄 仁傑=てき じんけつ=ディー・レンチェ」がどのぐらい賢い人物であったのかは、この際どうでもいいことです。洛陽がなぜかえらく海に近いことも突っ込んではなりません。清廉で賢くて度胸のある主人公とその仲間たちの快刀乱麻の活躍によって、崩壊の危機にあった秩序が回復され、引き裂かれた恋人たちはお互いの腕の中に戻り、正義の人たちは笑みを交わし合ってより良き明日へと向かう、その安心感と爽快感こそが重要なのでございます。

で、そのスーパー賢い主人公ディーにいつも先んじられてむかっ腹を立てるのがユーチなわけなんですが、この「温和で飄々とした天才」と「激しやすい美男の秀才」という組み合わせ、『三国志演義』好きなら周瑜と諸葛亮を連想せずにはいられないところでございます。
もちろん、いかに無茶な話がまかり通る『演義』でも、周瑜が屋根の上を飛び回ったり孔明さんが白馬で海中を駈けたりはなさいません。
しかし、それをやってこそツイ・ハーク!
しかも問答無用で無類に面白く見せちゃってこそツイハーク!

何て申しますと無茶苦茶な話のような印象になってしまいますけれども、本作はもちろん史劇として見られるべきものではございません。そして(実際そうである所の)ファンタジー作品としてみた場合、ストーリーには何ら破綻がなく、むしろ全てが収まるべき所にきれいに収まる見事な物語となっております。ファンタジーは何でもアリだから破綻しないのが当然と思ってはいけません。制作者がそうタカをくくったためか、ファンタジーでありかつ破綻している作品というものは、残念ながら存在します。逆に言えば、登場人物の動機やお話の展開が筋の通ったものであれば、たとえ科学的法則が無視されようとも、映像が稚拙であろうとも、大いに支持され、長く愛される作品となりうるのであって、本作もそういう映画のひとつであろうと思います。

美術面のことを申しますと、中国史好きならまず洛陽の街が俯瞰で映し出されるシーンが出てくるたびにワクワクすること請け合いでございます。あんなに立派なモスクがあったかどうかはまあ於くとしても(というか多分絶対ない)。それから衣装デザインがたいへんよろしうございました。主要登場人物はもちろんのこと、ほんの一瞬しか映らないような端役に至るまで、各々にふさわしい意匠や色彩の衣服をまとって、世界観の構築に寄与しております。中でもデザイナーさんがその才能を存分に発揮した感があるのが、ほとんど出てくるたびに衣装の違う則天武后でございます。どの衣装もきらびやかでありつつも厳めしく、他を圧するような凄みがあり、演じるカリーナ・ラウの上手さも相まって「大唐帝国の頂点に立つ女」のオーラをばんばん発しておりました。
則天武后とインの衣装のデザイン画のはいくつかは、こちらで→Rise of the Sea Dragon | Tumblr見ることができます。デザイン画自体も美しいですな。

この他に褒め忘れた所はなかったかしらん。
そうそう、音楽!とりあえず盛り上がります!作曲者は日本人の川井憲次というかたで、『攻殻機動隊』や『リング』、『デス・ノート』、『スカイ・クロラ』などにも曲を提供なさってるとのこと。ワタクシは全部見たことがありませんけれども。本作でも何しろお話と映像に引き込まれっぱなしだったものですから、あまり音楽に注意を払っていたとは申せません。もしもう一度観に行けたら、その時はもう少し音楽に気を配ってみようかなと思っております次第。

えっ。
忙しいのにまた行くのかって。
行ければって話ですよう。
1日は24時間もあるんですから、2時間くらい現実からトンズラしたっていいじゃございませんか!
どうせツケを払うのは自分なんですし!!



そうそう、もしこれから観に行かれるというかたは、エンドロールが始まっても席を立っちゃいけませんよ。
なかなかのオマケ映像が待っておりますからね。

「差し替えるだけ」

2014-09-12 | Weblog
なんかもう頭皮の面積の3分の1くらいは禿げ上がっちゃってるんですけれども、また生えてくるんでしょうかねこれ。

それはさておき
ワタクシはデザイナーではないんでございますが、非常に共感する所がありましたので、こちらの漫画をご紹介しておこうかと。

クライアントよ、お前の依頼の大変さを思い知れ!これが「デザイン修正」だ! | gori.me(ゴリミー)

個人的には作業そのものよりも、「これぐらい簡単にできるでしょ」と思われることがしんどいのです。