読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「ナポリ魔の風」

2006年02月12日 | 作家タ行
高樹のぶ子『ナポリ魔の風』(文芸春秋、2003年)

この作家の小説を読むのは初めて。新聞の広告などで顔写真を見たりして、ちょっと読んでみようかなと思っていた作家です。それでどれが代表作なのかよく知らないので、イタリアが舞台でしかも音楽家が主人公というところで、これを選んだわけです。

恵美子というピアノ教師は未婚だが、安部渡という小さな旅行代理店を経営している不倫相手がいる。安部には妻子があるが、その関係は冷え切っていて、いずれ別れるから結婚しようと言われている。物語は、恵美子のピアノ教師であったが、いまはイタリア人と結婚し、そのイタリア人も死んで一人でナポリに住んでいるミチコという老女とのかかわりから始まる。恵美子はいまナポリに遊びにきていて、観光したりオペラを鑑賞している。ミチコからドニ鈴木という舞台美術を仕事にしている男を紹介され、一緒にモンテヴェルディの『ポッペアの戴冠』を見に行く。そしてその次の日にはその男と性的関係を結んでしまう。ところがこの男は1730年頃のカストラートであるドメニコ・ファーゴの生まれ変わりだと称し、日本に帰ってきた恵美子にまとわりつき、最後には彼女の男である安部渡さえも誘惑してしまうというようなお話。全部で四幕構成になっていますが、第二幕はドニ鈴木が書いたという『あるカストラートの回想』でほぼ占められています。彼の前世であるというドメニコのことを書いた話です。

カストラートの話はすこしばかり面白かったけれども、どうということのない小説です。別にこの一作で高樹のぶ子という小説家を批判したりするつもりもないし、公平な批評をする場所でもないので、好き勝手なことを書きますが、どうも人間の描き方が薄っぺらいですね。ミチコという老ピアニストも、イタリア人になりきったピアニストという感じで、もう日本のものなんか食べれないわ的な、馬鹿の典型のように描かれているし、ドニっていう男も大人なんだか子どもなんだか、訳がわからない。恵美子にしても、ミチコとかドニの描き方が薄っぺらいから、初対面のその夜に、下着を下ろして陰部を見せるなど、まったく展開の必然性が見えてこない描き方になっている。もちろん初対面で性的関係を結ぶなんていうことがないといっているのではなく、小説である以上、そうなるようにきちんと書き込まれていなければならないと思うのですが。


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