読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『夢見る帝国図書館』

2021年03月20日 | 作家ナ行
中島京子『夢見る帝国図書館』(文藝春秋、2019年)

帝国図書館のような国家の威信をかけたような図書館といえば、私がイメージするのは、パリのフランス国立図書館だ。とくにかつてマルクスとか南方熊楠なんかも通っていたというリシュリュー通りの旧国立図書館ではなくて、4冊の本をたてかけたような姿をしている新国立図書館だ。

外観もシステムももう近代的。地下に降りると、そこが閲覧室になっている。もちろん開架式の本が並んでいるのだが、多くの本はパソコンで申し込みをするようになっている。だから慣れた人は、前日までにネットで申し込みをしておいて、行った日にはすぐに手元に持ってきてもらえるようにするのだ。

だから、ルヴォワ通りにある旧国立図書館の分室のほうがこじんまりとして、昔の図書館のシステムのままで、私には楽だった。それにここには私の専門関係の本や雑誌が開架にもあったので、こちらに通い詰めた。

この図書館の前は小さな公園になっており、そこで昼食にサンドイッチを食べたりしたものだ。まぁどうでもいい話だけど。さて本題。

作家の私と喜和子さんの交流を、喜和子さんの人間関係(喜和子の家の二階に住む芸大学生の雄之助くん、かつて喜和子さんを囲っていた元大学教授の古尾野先生、喜和子が慕っていたホームレスの五十森さん、喜和子さんの孫の紗都)を含めて、十数年にわたる年月を書いている。

そこに喜和子さんが深い関係をもつ帝国図書館の歴史を別立てにして挿入している。

タイトルの『夢見る帝国図書館』から、ちょっと硬苦しい小説をイメージしていたのだが、終戦後の上野界隈の様子や子育てを終えた喜和子さんが人生を生き直そうとして出奔し、上野あたりで住みだした話、そして彼女がずっと思い描いていた少女時代の小説のことなどが組み込まれている。

生きること、一人で生きることの意味を問うような小説になっていて、読むのが楽しかった。中島京子の小説は妻が椎茸だった頃なども読んでいるが、あまり好きな作家ではないが、これはたいへん興味深く読んだ。

帝国図書館の歴史も女性視線で書かれており、興味深かった。

『夢見る帝国図書館』へはこちらをクリック

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