読書な日々

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『マチネの終わりに』

2021年03月30日 | 作家ハ行
平野啓一郎『マチネの終わりに』(毎日新聞出版、2016年)

最近、著者の平野啓一郎さんのツイッターを見て共感することが多く、彼の小説はデビュー作の『日蝕』しか読んだことがなかったので、一度最近の作品も読んでみたいと思った。

『日蝕』についての感想はこちら

この『マチネの終わりに』は福山雅治と石田ゆり子の主演で映画化されたのを知っていた。見てはいない。予告編を見ても、なんだか、つまらないラブストーリーのように思えたからだ。

この小説の主題は、終盤で洋子が父親のソリッチと再会して近況や昔の話をする箇所の最後で提示されている。

一つは、ソリッチが言う言葉。「愛していたからこそ、関係を絶ったんだ」(p.374)。人生には、いや男女の関係にはそういうものがあるのもしれない。とくに恋愛と結婚は必ずしもイコールとならないこともある。

もう一つは、それを聞いた洋子が言う言葉。「わたしの過去を変えてくれた今。」(p.375)。つまりここではなぜソリッチが自分と母を捨てたのかという事実を知った今、その過去は「捨てられた」のではなくて「愛されていた」「守られていた」に変わるということだろう。

平野啓一郎さんは積極的に政治的発言をしている作家だが、この作品を見ても、中東での厳しい情勢や強欲な証券資本のことや東日本大震災のことなどが、作品を動かす重要なベクトルとして使用されており、こうした政治的問題を丁寧に調査したうえで書いていることが関係しているということが、この作品を読んでよくわかった。

しばらく平野啓一郎を読んでみたいと思っている。

『マチネの終わりに』へはこちらをクリック

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