読書な日々

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書籍電子化の功罪

2009年11月15日 | 日々の雑感
書籍電子化の功罪

昨日の夕刊によるとグーグルが進めている、まだ著作権のある書籍を電子化して公開するというサーヴィスを日本を除外して実施する予定らしい。日本語の本はほとんど日本国内でしか需要がないから、英語の書籍が全世界の人間を読者として想定できるのとは、桁が違うから、こういうサーヴィスをされてしまうと、著作権所有者の利益が大幅に損ねられるという危惧は当然だろう。

ただ書籍の電子化そのものについては、とりわけ著作権がきれた古い書物の電子化については、グーグルだけでなく、国際的な図書館網が強力にタイアップしてその活動を拡大しており、これには大いに賛成だし、私のように、外国のしかも古い文献を必要とするような者にとっては、棚からぼた餅くらいの出来事といっていい。

2000年にはフランスに行った機会を利用してフランス国立図書館で、日本では手に入らない本をじっくり読んだり、必要なところをコピーしたりしてきたのだが、そんなことは年収の少ない私のようなものにとっては、そんなに何度もできることではないし、そもそも2・3週間パリに滞在したところで、読める文献、複写できる文献の数なんてしれている。またあらかじめ、調査する文献などをリストアップしておかないと行き当たりばったりではどうにもならない。

しかし研究の現実はそんな予定通りにいくものではなくて、これまでまったく知らなかった文献がどうしても必要になるというようなことは頻繁に起こることだし、またそういう文献に限って日本のどの図書館も所蔵していなかったりするのだ。欧文雑誌はけっこう広く収集されているようだが、単行本となるともう限られている。

そういうわけで私が現在研究しているような分野のしかもマイナーな資料を手に入れることはほとんど絶望視していたのだが、最近大学の図書館に相互利用で他の大学図書館にある文献の借り出しをお願いしたところ、担当者の方から、それなら著作権が切れているので、ウェブで見ることもダウンロードすることもできますよ、と教えられ、さっそく調べてみると、Internet Archiveというサイトがあって、ここにはアメリカの図書館、カナダの図書館、グーテンベルグ・プロジェクトなどが協力し合って、文献だけでなく、音声や画像のデータも無料で閲覧したりダウンロードしたりできるようになっている。

ここでは、古い文献でもリプリント版として出版されたものは、その出版社がまだ著作権をもっているのでだめだが、それ以外なら、相当にレアなものでもある。私が研究している17世紀18世紀のフランス・オペラのテキストなども、ほとんどあるといっていい。それに研究書なんかでも、2000年に行った時に、どうしても見つからなくて(たぶん私の探し方が悪かったのだと思う)、諦めていた20世紀初頭の文献も次々とダウンロードできた。

本当にこういうことが可能になってくると、資料がないので研究できないといういいわけが通用しなくなるだろう。

残念ながら、フランス国立図書館の電子データで有名なGallicaは関わっていない。逆に言えば、このサイトで見つからなかった文献でもガリカで調べなおしてみれば、あるかもしれない。

ただ、私はガリカで電子化された文献は嫌いだ。電子化というのはたいていがスキャナーにかけたものをPDF化してあることが多いのだが、このスキャナーにかけるという作業が、本をまるまる一冊コピーでもしたことのある人なら分かると思うが、退屈で退屈で、ほんとうにしんどい作業なのだ。その本の重要性を分かっている人間でも、面倒な作業なのに、それをアルバイトで毎日毎日させられる人間のストレスはどんなものだろうと思う。そういうことを反映してか、ガリカのPDF化されたものは、歪んでいたり、斜めになっていたというくらいならいいほうで、読みにくくて判読不可能な箇所がてんこ盛りという状態で、ときどき使い物にならないことがある。グーグルが提供しているものはすごく鮮明なので、なんかこんなところにも国民性が現れているのだろうかと思ったりもするのだけど、まぁこれは偏見でしょうか。

Internet Archiveはこちら
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