読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「ア・ルース・ボーイ」

2007年02月12日 | 作家サ行
佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』(新潮社、1991年)

以前に「無事の日」とか「草の輝き」といった最近の小説を読んだ作家のデビュー直後の作品らしい。どうもこれで三島由紀夫賞かなんかを受賞したようだ。少し前に芥川賞の発表があったりしたので、私がよくいく図書館でも文学賞を受賞した作品の企画をやっていて、過去の受賞作が並べてあったので、読んでみることにした。

奥付によると「新しい世代の私小説作家」という触れ込みになっている。ということはこの小説も彼の高校時代の出来事を私小説風に構成しなおして作ったものなのだろうか。

仙台のI高校三年生の斉木鮮は、厳しい生徒指導で知られる英語教師の「ブラック」を殴ったことで退学する。同じころに未婚の母となった幹と一緒に生活するようになる。二人は子どもに梢子と命名するが、もちろん鮮がこの子の父親ではない。

二人はとにかく働かなければならず職安に行ってみるが、いい働き先はない。そうこうするうち鮮を学生と勘違いした電気工事をやっている沢田に気に入られて、助手として働くようになる。どうも沢田もヤンキー上がりのよう。仕事にもなれてある程度の収入もできるようになったころ、幹が梢子の病気を理由に行き先も言わずに出て行ってしまう。あちこちの病院を当たってみるがわからない。ある日突然に幹が梢子を連れて戻ってくるが、一晩だけ一緒に寝て、そしてはじめて性的な関係を結び、そしてまた出て行ってしまう。

物語としては、普通の若者の生き方をドロップアウトした青春の甘酸っぱいというか幼いというか、ままごとのような生活の数ヶ月を描いているだけなのだが、そのあいだに鮮自身の幼少のころからの特異な性的経験――近所の男性に性的虐待を受けた――や自分を毛嫌いする母親からのネグレクトのような経験などが回想というかたちではさまれ、作品に厚みを与えている。

私も高校ではアウトサイダーだった。県下随一の進学校だったのに、勉強にも興味が持てず、一年生のはじめはトップクラスだったのだが、どんどん落ちて、二年生の実力テストかなんかでは後ろから数えたほうが簡単というような成績だった。もちろん教師からは無視される――まったく当てられることさえなくなった――し、三年生の進路指導かなんかで、将来はもの書きになりたいと言ったら馬鹿にされたことを思い出す。まぁボート部に所属していたからその関係でつながっていたと言っていい。

この小説の主人公のように正面きって教師に反抗することはしなかったが、将来への見通しもなにも見えないなかで、勉強だけに邁進するよう押し付けてくる教師もまたそれに一生懸命になる周りの生徒たちにも同じように違和感を覚えていたことは確かだ。

だからそれほど勉強したいという気持ちがあったわけではないが、大学に入ることで両親から離れて一人で気ままに生きていきたいという思いを実現できると考えて進学したのだった。まさにア・ルース・ボーイだったのだな。

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