読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「週刊東洋経済」

2008年01月12日 | 評論
『週刊東洋経済』(1月12日号)

週刊東洋経済を読んだ。この雑誌は前々から注目していた。けっこう面白い特集をやっている。今度は北欧三国特集だ。言わずと知れた福祉大国であり教育先進国であり、最近では経済成長率でも世界のトップをいっている北欧三国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)が、なぜ福祉と経済という、日本などでは二律背反とみなされている二つの分野で成功をしつつあるのか、いろんな角度から分析をしている。これこそまさに私の関心事でもあったので、飛びつくように読んでみた。

まぁある意味エッセンスだけを拾い上げたということなので、また読み手である私のほうが経済問題なんかになると素人であるためによく理解できない部分も多くあって、よく理解できたわけではないにしても、渇いた喉にごくごく水を飲むように、砂に水が浸み込むがごとくに吸収した。

教育関係では、いわゆる世界のランキングでトップに躍り出てそれを維持しているフィンランドのことがたぶんその分野の専門家の人の解説が載っていたが、この人の解説がじつに分かりやすくて優れた論考になっているため、なるほどと納得できたのは、自分で問題を摘出してそれを解決していく力という人間としてもっとも必要とされる力をつけるために小学校の低学年から高等教育まで一貫した教育がなされているということ、そしてそれはけっして一つの価値観にもとづいた答えを出すことではなく、様々な価値観が存在することを前提として議論を行い、その中から自分なりの意見を作り出すことであり、したがってこの目標を実現するためのもう一つ必須の力としてコミュニケーション力をつけることが教育の目的になっているということであった。

北欧三国の経済発展を支えている労働力問題については、教育とのかかわりが非常に大きい。つまりこれらの国では労働者の解雇が簡単にできる。そうすることで会社の側は事業の改変を経済環境の変化に即応する形で対応することができる。他方、労働者の側では、解雇されても失業保険などが充実している上に、学費が無料の国立大学に入って(しかも入学試験はない)社会から求められているスキルを習得することで、再雇用を促進することができるようになっている。

そのために大学では一ヶ月で一つの授業が完結するような仕組みになっているそうで、集中して一つの授業を受けることで短期に必要とされる能力を獲得できるのだ。だから北欧三国の大学生は日本などと違って、30代40代の学生が多いとのことだ。ただ実業系の科目はそれでいいだろうが、哲学とか文学といった実用的でない科目はどうなっているのか、またどの程度の学生がいるのか知りたいものだ。

さらに福祉中心の社会政策が経済発展と両立するというこの国々の挑戦は、じつに巧みな仕組みによっても支えられている。その一つが老人大国であり福祉関係に多くの予算が必要になるがそれはそれだけの雇用も創出することを意味するのであり、税金は高額だがまずそれは教育・福祉を担当する(全予算の80%が教育・福祉関係らしい)市町村に入るので、国民は高額な税金がどのように使われているのか(自分たちにどのように還元されているのか)目に見えるように分かるということらしい。

以上のように、経済、教育、福祉、行政といったあらゆる分野がうまくかみ合って相互補完しているので、北欧三国の福祉と経済発展という、これまで相反するものとみなされていたことが可能になったということらしい。だから学力調査でフィンランドが世界トップをまい進しているということで、日本から多くの関係者が調査に行くらしいが、おそらく日本で使えそうなことは見えてこないにちがいない。日本は日本独自のシステムを作り上げるしかない。分かりきっていたことではあるだろうが、このことを再認識させられた。

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