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ポジティブ心理学①

2022年12月20日 | 苦しみは成長のとびら

『ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門』(講談社選書メチエ・2021/1/12・小林正弥著)からの転載です。

 

近現代の心理学は、うつ病などのネガティブ(マイナス)な心理状態や精神疾患に目を向けてきた。これまでの心理学はそれらを治すこと、つまりネガティブな心の状態を中立的なゼロ地点に戻すことに主眼を置いてきたのだ。

 例えば、広くそのその名を知られる精神科医フロイトは、心理的な問題で悩んでいる人の深層心理を解明することでコンプレックスを軽減できるという理論を打ち立てた。その理論を出発点としてカウンセリングや精神分析を用いた治療法がいくつも派生し、うつ痼などを抱えた人の治療に用いられてきた。

 だが、それらが目指すのは、あくまでも悪化した心の状態を元に戻すことにある。ゼロ地点を超えた先にある「幸せ」やこれは「善いこと」だと思える状態、つまりポジティブ(プラス)な心理状態を得たいと思っても、フロイトがその方法や目安を提供してくれるわけではない。

 さらに、従来の科学的心理学は「心」を扱う学問であるにもかかわらず、先に述べて価値観や世界観に関わる領域には基本的に踏み込もうとしてこなかった。なぜなら近代科学そのものが、善悪の価値判断という哲学的課題から離れることで成り立っているかららだ。比喩めいた言い方をすれば、「心をこめて育てたこの木のリンゴは他のリンゴよりも値打ちがある」という価値判断があったとしても、それは万有引力によってリンゴが木から落ちることを明らかにした物理学とは無関係な話だ。心のこもったリンゴでも、大風が吹けば落ちる。こうした近代自然科学の基本的な性格は、みずからを科学として規定する心理学にも引き継がれている。

 

 無力感から脱却する方法はある。それがセリグマンの打ち出した考えである。

 精冲医学における認知行動療法を学んだ彼は、習得性無力感のモデルに基づき、人の認知の仕方、つまり人の物事のとらえ方や気の持ちように往目し、人間の心を楽観主義的な方向、ポジティブ(プラス)な方向へと変化させることでうつ痼を治すという治療方法を着想したのだ。

 それを機に、彼はポジティブな心理状態がもたらす効果を明らかにし、心理状態を良くする方法を正面から研究する必要を感じた。

 

 

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