法話メモ帳より
親孝行
江州にすむ、近所でも評判の孝行むすこが、遂に殿さまに見出されて、御ほうびをうけた。江州一の親孝行という折紙がついたのである。
ところが、信州の方に日本一の親孝行なるものがいるといううわさを聞いた。そこで、「日本一とはいったいどんな男だろう」と江州の男は信州へその男をたずねてみることにした。
やっとのことでたずねあてると、年老いた母親だけがいて、むすこは不在だった。山へたきぎをとりにいっているが、まもなくかえるから、よかったらかえるまで待てと母親はいう。そこでしばらく待っていると、むすこがたきぎを背負ってかえってきた。
毋親はむすこを見るといそいで土間にとびおり、だきかかえて背中からたきぎを下ろしてやり、わらじをぬがせて足を洗ってやる。終ると今度はゆかに寝かせて、つかれたであろうとせっせと足腰をもんでやる。
母親が一生懸命になってむすこの足をもんでやっているさまを見て、江州から来た男は「カッ」と腹がたった。「何だ、この大かたりめ。母親に足をもませるとは何たる親不幸。これが日本一とは、全くとんでもないことだ」
江州の男はいったん、あとをも見ずに立去ったが、また途中で思いかえしてあともどりしてきた。そして信州のむすこに聞いてみた。
「あなたは日本一の親孝行といわれているそうだが、どうしてそういわれるのか。その秘訣を聞きたい」
信州のむすこは答えた。
「私は親孝行がどんなものか全くしりません。だからどうして日本一かわかりませんが、ああやって山からかえると、母親が足を洗ったり、腰をもんだりする。そうしてもらうと、母親がたいへんきげんが良いものですから、まあ。いわば仕方なしにそうしてもらっている」とのこと。
信州のむすこには、親孝行という意識が全くない。ただし母親の喜ぶようにしている。これに引きかえ、江州の男は「親孝行とはこうあるべきだ」固定観念があった。(以上)
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