超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

初愛2~はつあい~/田中ユタカ

2012-12-26 01:39:29 | 田中ユタカ











今回もまた、少し泣いた。そんな田中ユタカの新刊のおはなし。










これまで何度も田中ユタカの作品を読んで涙を流したし、大切なものを沢山貰ってきた。
今まで自分がどれくらいこの人の作品で救われて来たのか・・・
今回の新刊を読んでその事実をふと思い返してしまった。
初めて読んだ彼の成年漫画で
涙が出るくらいに感動して、「愛人」を読み終えた時はいてもいられなくなって家を飛び出した
全力で外を駆け回って落ち付くまで戻らなかった(実話)
多分今まで読んできた漫画の中で最大級にでっかい衝撃だったと思う
墓場まで持っていきたいとすら思った
それ以降自分の中で田中ユタカの作品は絶対的なものに変化して行った
どれだけ新しい作家が出てこようと彼の漫画を読まない時期は出会ってから一回もない
恥ずかしい話新幹線の中で「初夜2」を読んで号泣した思い出すらある(笑

しかし、その絶対的なものというのは読む前から信頼を~っていうひいきのようなものではなく
どの新刊を読んでも、読む度に自分にとって大切な一冊になってしまうからであって
要するに結果的にどの作品も傑作名作だと思えた、という事で
だからこそ感想も毎回真剣に書く訳だけども
今回の新刊をじっくり読んで「傑作だなあ・・・」としみじみ感じている内に
読む度にこんなに清廉とした・・・まるで生まれ変わったような気持ちにさせてくれる
そんな漫画家は彼しかいないなと強く思えた
それがたまらなく嬉しくて、幸福で、尊いことなんだなと
個人的にはその事実に物凄い感慨深い気持ちになって、読み返してる内に思わず泣いてしまった
だから、もう言葉すら必要ないと思ってしまったんだけど、でもやっぱり
自分なりに言葉にしたい・・・という事で全話レビューやります
いつまで経っても憧れは憧れのまま
最高の田中ユタカが毎回読めるというのはファン冥利に尽きますね。
これもまた、ずっとずっと大切に読んでいくと思います。本当に大好きな傑作集でした。









■瑛理のぬくもり

目の前の出来事に夢中だなあ、若いなあって思います
でも、だからこそ感動的で微笑ましい気分になれるのっけからの真骨頂。
個人的にここまで相手に対して夢中になれるって凄いって思うんですよ。
と、同時にこれこそが今欠けてるものなんじゃないかな、とか。
格好悪いっていうのは
最高に格好が良い事でもあるんだと
そういう本質的なものが短いページ数の中に沢山詰まってるのが見事だと思いました。
二人とも、きれいだ。



■佳穂さんの初体験

登場人物がちゃんと自分の意思で、流されずに決断を告げる場面の数々が素敵です
この異様なまでの生真面目さこそ田中ユタカらしくて好きだなあ、と
それでいて本能的な衝動も描けている塩梅もまた粋ですね
オーソドックスですが洗練もされていると思います。
最後のやりとりも微笑ましくて好み。



■せのび

お互いがお互いを思い遣り少しでも嫌な気分にさせないように頑張っている
当たり前だけど、とても大切な想いの表現に心打たれました
繊細なテーマ性とは裏腹に
あなたが思っている以上に私は弱くない
そんな二人の変遷や結実がこれまた最高だったお話
今作の中では一番好きかもしれません。

人形じゃない、というのは勝手に自分自身の素質を決め付けないで欲しい
表面上の態度や形で全部理解出来るほど人は単純な生き物じゃない
だから、全力でぶつかってきて欲しい
そういう確かな彼女からのメッセージのような言葉と表現が個人的にはグッと来ました。
せいいっぱいの背伸びと、せいいっぱいの不器用な優しさ。
良い二人だなあ。
ほっこりするなあ。
そして・・・全力で生きてるな、と。



■恋なんて簡単

自身のコンプレックスを真っ向から肯定してくれる男の曇りのない優しさ。
傷を癒すのはいつだって自分ひとりでは出来ない。
諦めちゃってた朝香さんが
再び自発的に恋を頑張り始めた、受け入れ始めたラストが至高でした。
まあ、生きてれば色々ありますよね。ページから仄かに伝わって来る「経験」の匂いも特徴的な一作。
朝香さん、可愛いです。



■せんせい

大人になる事って難しい。
いい歳こいて悔しさに泣いちゃう事って恥ずかしい。
でも、そんな厳しい世界の中で年月的な意味でなく大人になれた二人の物語。
成長を遂げた分だけ、幸せの分だけきれいな涙を流す事が出来る。
それは泣き虫なんかではなく
満たされた、豊かになれた証拠なんだって。
そんな涙ほど尊いものもないですよね。



■あの夏の白い肌

鮮烈な憧憬以上に神々しいものもないですよね。
ある種の理想のような作品、だけどその分硝子のような繊細さが篭っています。
大好きな人と一緒に生きていける、自分だけの存在に出来る喜び。
そこに付随する感傷と多幸の表現に魅せられた一作。



■初愛なでしこ

うわ~客観的に観れば、ただ自宅で彼女を抱いてるだけの話なのに
こんなにも胸が締め付けられるような切なさにずっと支配されるのは何故なんでしょう?
誰かを強く「しあわせにしたい!!」と想う誠実で切実な気持ち
悲劇ではなく
喜びで涙腺を刺激出来るのはある種の技ですね
生活の重みを認めてくれるいたわり、全力を以って彼女を幸せにしようと尽くす情愛
完成度の高さでは群を抜いているものがあります
お嬢様風のキャラっていうのも新鮮でした。
衰え知らず、ですね!



■奇跡

「生命の味だ・・・」

これまた鳥肌レベルですなあ。
読み終わった後、何にも言えなくなってしまった。
それくらい人そのもの、生命そのもの、愛そのもの、そんな作品。
この瞬間が誰かの生命の誕生かもしれない
だから幸せでいよう
幸せを感じよう
ここまで神々しい表現を成年漫画で説得力を携えて表現出来る実力に感銘を受けた。
本当のことしか描かれていないこれまた完璧に近いレベルの傑作。
完璧と形容しないのは
きっといつまでも研鑽を重ねる作家さんだと思うから
しかしこの作品は一つの到達点のようにも思えたし、これが最後であったからこそ本自体も引き締まった
ファン的な視点で見ても新鮮でありがたさを感じられる傑作短編であったかと思います
何一つ間違ってないですね。









読み終えてしばらく余韻に浸っていたんですが
喜び、嬉しさ、悲しみ、憂い、情熱、涙、幸せ、悔しさ、格好悪さ、間抜けさ
劣等感だったり揺らぎ、見当違いの目配せや臆病な感情
全部含めて人間そのものを内包出来てる一冊だなと。
だからこそ実直に愛でる事が出来る。
成年漫画という枠組みの偉大さを感じざるを得ない至高の作品集に仕上がったと思います。
田中ユタカさん、今回も本当に素敵な本を心からありがとうございました。
心洗われる素晴らしい力作です。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿