超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

初愛~はつあい~/田中ユタカ 全作品レビュー

2012-02-28 05:31:48 | 田中ユタカ





田中ユタカの新刊「初愛~はつあい~」を読んだ。




正直、泣きました。委員長の話で。素晴らしい本だったと思います。
全部が全部、素晴らしかった。苦しい表情も不恰好な姿を含めて最高だったと思う。
私は田中ユタカが最も好きな漫画家とか言っても過言ではないくらいなので
こと信憑性に関しては薄いかもしれません。
それでも、正直これはたまんねえっすわ。単なる成年作品ではなく、愛情も繋がりもいたわりも、
何もかもがそこに存在していて過不足がない。最終的に感じられるのはやっぱり「人と人」って部分で。
久々の短編集って事もあって読み応えも新鮮さもバッチリ、
至福のひと時を過させて頂きました。
単純に新刊としても一年以上ぶりなので余計に嬉しくて嬉しくて・・・。

田中ユタカの作品ほどストイックな作品ってそうそうない。
個人的には読み終えた後、自分は真剣に生きれているだろうか?って思ってしまいます。
それはきっと自分に愛も繋がりも足りないからなんだろうけれど、
こと成年漫画でそんな事を思うのはおかしいのかもしれない。
でも、別におかしくても全然いいやって思います。自分の感動を棄てる気なんてさらさらないので。
凄まじいまでの密度と、愛情と、ぬくもりと、そこに付随する感情の諸々と。
読めた事に感謝がしたくなるような、そんな本でした。
去年の初夜2以来に全話レビューやりたいと思います。成年漫画苦手な方は注意して下さい。では以下。






■第1章「初愛~はつあい~」

いや~一作目から本気出しすぎですね(笑)。
シンプルイズベスト、とでも言いたくなるような完璧な初体験。
非日常が日常になっていく様が実に丁寧に、
でも実は日常ってそんな非日常的なドラマの連続なんじゃないかだとか・・・。
そんな風にも思わせてくれる最高のスタートですね。
「愛してる」をハモってしまった、ってオチがもうたまらんです。


■第2章「ファースト・デート」

これもヤバいなあ・・・。
セリフの一つ一つがいちいちグッと来て沁みこんでしまう。
ネットで知り合ってそのまま、って流れはいささか早計にも思えるけど
逆にそれで本当の愛を知った、っていう。
素敵な話だと思う。
それが例え夢物語であろうが、肉迫するリアルがあれば話は別で。


■第3章「最後の夜 最初の朝」

友達って関係が終わって
恋人と言う関係が出来上がるお話。
何をやっても上手くいかなかった二人のチャンス
ヒロインのセリフがいちいち突き刺さりますねえ。
田中ユタカの漫画にしては結構ガツガツした性格の彼女ですけど
新鮮さって意味でも緩急って意味でもここでこのヒロインを描いたのは正解だと思う。
多少じゃじゃ馬なくらいが可愛いっていうね。
生まれ変わるって概念が素敵です。


■第4章「さよなら、委員長」

これは傑作ですねえ・・・。
禁断の恋って呼ばれる教師と生徒、
でもその禁断を我慢して辿り着いた二人の恋。
考えただけで泣けてくる。
実際に少し泣いた(笑)。以前描いた「緑の旅」を更に深く掘り下げたような内容で
元々の愛読者的にも如実に表現の深化を感じれて嬉しかった。
心から祝福したい恋人たちだよねえ。
タイトルは鳥肌もの。


■第5章「夏の旅(ハネムーン)」

夏の恋ってなんでこんなに魅力的なんだろうなあ。
その情景だったり伝わってくる質感に
登場人物の感情や愛が溶け込んで唯一無二の感動を与える・・・。
慰みに対する肯定示唆なんかもあったりして
その点でも面白い作品です。楽園ではなく、理想郷でもなく、日常の中でっていうのは
田中ユタカ流のこだわりの一つなのかなとも思います。
勿論その逆もありますけどね。


■第6章「マキねえちゃんのオトコ」

本作の中でも異色ですねえ。
幸せの中から、ではなく不幸からの愛情の芽生え。
でも幸せになるのに遅いなんてないって過去作品でも描いてましたし。
その通りですよね。
幸せはいつだって望めばそこに。
いや、それは流石に青臭いですか。でも遠回りだからこそ思える気持ちも確かにあるんだよ、ってね。


■第7章「ヴァージン・プリンセス」

本作の中では最もオーソドックスなお話。
故に語る事もほぼないんですが
取り敢えず彼女がハイテンションだったのは怖さを和らげる為だったんじゃないか?とか
なんとなしに予想してみます。「温かい」、って表現が最高に温かいなあ。


■第8章「ふたりぶんのヌクヌク」

これを読んでると、いかに体験が神聖なものであるのか
或いはそう思わなきゃいけない事なのかってのを否応なく思い知らされる。
普段着の恋愛って感じで好感度はめちゃくちゃ高いですね。
逆に着飾ってないのが最高に興奮するって言う。

傍から見れば大した話じゃない、ありふれてるような二人の話。
でもそんな普通こそが最もドラマチックで、スペシャルな事柄で。
一人では孤独を和らげる事が出来ないけど
二人ならその孤独を少しでも、ほんの少しでも埋める事が出来るって言う。
それはある種当たり前の価値観かもしれませんが
そんな当たり前の事がもっとも尊いんです、っていうとっても真摯な話。クライマックスに至るまでの
繊細なお話の流れにも非常にグッと来ます。ストレートな意味でね。傑作だと思う。


■第9章「はじめちゃんの強がり」

これもまた緩急の一つ、ですかね。
今ではちょっと珍しくなった?学生同士のお話で
これが最後って言うのも中々オツなものですよねえ。
性格は若干強がりなんだけど
それがすっごく可愛く感じられるレベルっていうのがまた良い。
女性視点なのもまた新鮮ではあったお話、
感じてくれた事に対する感謝って何気に凄いと思う。





最後に、恒例のあとがき。
私にとっては田中ユタカは雲の上の人なので
気軽にメッセージを送る事がどうしても出来ないんですが
あの時twitterで自分の名前が挙がったことは本当に嬉しかった。
自分にとっては特別な事だったんだよなあ・・・と、あとがきのtwitter話を読んでて思いました。

同じようなものを磨き上げる、か。う~んこれまた一つ大事なことを教わった気がします。
今回の本も私にとっては最高の一冊でした。本当に、ありがとうございました。




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