10数年前買った文庫本。その少し前に、昭和の少女小説ブームというのがあったそうで、そのころ、大正から戦中戦後にかけての少女小説作家としてもっとも有名な吉屋信子が再評価されていたらしい。
名前だけ知ってはいましたが、ハーレクインロマンよりちょっとましなおセンチな小説だと思い込んでいたので、読もうとしたことがなかったのですが、とりあえず買っておいたものを見つけたので、まず「わすれぐさ」を数ページ読み始めました。
予想以上に、文体がしっかりしていて、人物の書き分けも上手。嫌なところがないのに、まず感心しました。ついつい引き込まれ、読了。思春期の3人の少女たちの境遇の違いからくる人物造形がはっきりしていて、表面的と言えばそうなのですが、飽きさせない。きっと当時のファンたちは、3人の少女それぞれに自己投影してよんだのではないかしら。
男尊女卑の考えが当たり前だった当時、その考えを覆すような強い意志を持った少女も登場。文学少女たちのあこがれの作家だったことがうなづけます。
続いて読んだのは、「花物語」。鈴蘭、野菊、白萩、山茶花、水仙、勿忘草・・・、上巻だけで33種の花にまつわる短編小説です。どれもちゃんとお話になっていて、起承転結があります。落ちがある。地味でしっとりしたお話もあれば、波乱に富む人生の一幕を垣間見せるお話もあります。描き分け方が達者です。この「花物語」、吉屋信子が19歳の時の作品だそう。すごい才能です。
どちらの小説にも、男性はほとんど登場しません。せいぜい父親か兄、あるいは主人公に災いをもたらす悪い人。そのかわり、女学校で、美しい上級生たちにあこがれる下級生たちがしばしば登場します。異性愛をおおやけにするのがはばかられる時代の彼女たちのロマンスは、同性に限られていたのかな。このまますべて少女漫画にしたら、受けると思います。感覚が今とずいぶん違いますが、それもレトロで面白がられるのではないのでしょうか?
大正末年生まれの母は、実母から「女が本なんか読むんじゃない」と言われて、しばしば読みふけっていた本を取り上げられたと言っていました。本のタイトルを聞いておけばよかった。吉屋信子は、彼女たちには大人気の小説だったのではないのかしら。
高校時代、若い国語教師から、「花」をテーマの随筆を宿題に出されたことがあります。私はたしか「夏水仙」を選んだ記憶があります。あの教師、もしかしたら、吉屋信子のひそかなファンだったのかもしれません。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E5%B1%8B%E4%BF%A1%E5%AD%90