旅限無(りょげむ)

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やるべき事をやった後で…… 其の四

2011-10-18 15:39:04 | 政治
■国会が閉じてから野田ドジョウ新首相は泥の中に隠れたかのようにマスコミ取材を避けておりまして、既に空証文になっている「政治主導」の復活に期待する声もすっかり消えて、財務官僚の腹話術人形になり切って盛んに口をぱくぱく動かしている安住財務相の言動ばかりが目立つのが不気味であります。少しは自分の言葉を持っているらしい前原政調会長は夕焼け番長ならず「言うだけ番長」などと政治記者から渾名を付けられて冷笑されつつも、武器輸出三原則の見直しやらTPP参加に積極的な姿勢を見せて野田ドジョウ首相の露払い役を担っているようにも見えるのですが、前と前の前の政権があれやこれやを先送りしただけでなく更に政治課題を積み増しする大失敗を犯してしまった後継内閣なればこそ、大車輪で業績を上げて行かねばあと1年しかない党代表の任期が切れたらさっさと交代させられてしまうという個人的な事情もある野田ドジョウ新首相としては、短期決戦型で大きな仕事を立て続けに片付けてしまねばならないのでしょうが、身の丈に合わない無理をすると結局は官僚主導の奇怪なつぎはぎ縦割り政治が最悪の形で復活してしまいそうで、この10日間ほどは得体の知れない危惧の念に苛(さいな)まれて茫然自失状態であります。

安住淳財務相は12日、経団連会館で経団連の米倉弘昌会長と会談し、「来年には必ず消費税の法案を税と社会保障の一体改革とあわせて(通常国会に)出す」と語り、平成24年度の税制改正で消費税率の引き上げを目指す考えを示した。安住財務相は「少子高齢化に直面する日本が今後も直接税に依存していくのはもう無理」と表明。「消費税を国民の皆さんにお願いするしか道はない」と語った。米倉会長は「大いにやってほしい」と賛意を示し、双方は財政健全化の重要性で一致した。…… 

■財政に通じているという噂を聞いたこともなかった安住財務相が、不自然なほど自信たっぷりに増税論をぶって歩く姿は滑稽でもあり気味が悪いものを感じますが、どうして国民に向かって説明する前に経団連会長に妙な約束をしに行くのでしょうなあ?既成事実を積み上げて愚かな国民を煙に巻いてしまおうと誰かさんが策を弄しているとしか思えません。二代続いた愚かな政権の後ですから、目先の失敗を避ける知恵なら誰にも負けない官僚組織に頼り切って政党消滅を必死で回避しようとしているだけの事なら大問題でしょうなあ。経営者の団体であるはずの経団連の代表が長引く不況下で増税を「大いにやってほしい」などと言ってしまって、本当に良いのでしょうか?


……安住財務相はまた日本の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加問題について「メリットはなかなか目に見えないが、しっかりと説明し深く考えれば日本人は必ず結論を見いだしてくれると思う」と語り、参加に前向きな考えを表明。会談のなかで「将来を見据えて進んでいかなければならない。覚悟の問題だ」と強調した。……
2011年10月12日(水)11時11分 産経新聞 

■安住財務相こそ、「TPPのメリット」を深く理解しているのか?はなはだ心細い印象が強いのですが、「戸別補償制度」くらいしか農業政策を提示しえないまま政権を取ってしまった民主党にTPPに対応する農業大改革など出来るのかいなあ?と心配になります。今の民主党にこそ「覚悟」が有るのか?と問いたくなります。菅アルイミ前首相が「第3の開国だ!」「平成の開国だ!」と毎度のことながら唐突に言い出したのは1年前のことでしたなあ。既に発言の軽さに誰もが辟易していた頃でしたから、「ああ、また何か言っているよ」と聞き流されてお仕舞いでしたなあ。そして、安住財務相が妙に張り切って「覚悟」を語っていた日に、眼を疑うようなニュースが流れたのであります。


藤村修官房長官は12日午後の会見で、今月内にも初会合を行う予定の「国家戦略会議(仮称)」について、日本再生戦略など中長期的な問題を戦略的に考えていく組織になるとし、環太平洋連携協定(TPP)や税と社会保障の一体改革などの議論は入ってこないとの認識を示した。……今週中に会議に加わる民間人のリストを作成して要請するとの段取りを明らかにしたうえで「TPPは党の議論が始まっており、(政府の)議論は閣僚会合に預けることになった」と語った。さらに税と社会保障の一体改革についても、国家戦略会議には入ってこないと思うとし、「日本再生戦略を年内には発表したいというのが所信表明の中身であり、足元の問題というより中長期的なことをここ(国家戦略会議)で戦略的に考えていく。当面の課題を結論づけるという位置づけではないと思う」との見方を示した。また、国家戦略会議で、経済財政諮問会議のように骨太の方針を策定する予定もないという。
2011年10月12日(水) ロイター 

■税金を使って運営する組織の仕事を説明するのに「やらない事」を列挙するというのは実に変な話であります。新発売の自動車を発表する時に「この自動車は空は飛ばないし水にも潜れません」などと言うはずはないし、IT機器の説明で「できない仕事」を列挙することなど有り得ません。華々しくマニフェストに掲げた「鳩山政権の政権構想」として5原則・5策の第3策に「官邸機能を強化し、総理直属の国家戦略局を設置し、官民の優秀な人材を結集して新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」と明確に書かれているのに、「税と社会保障の一体改革」には指一本触れられないまま「日本再生戦略」を作れるのか?これが野田ドジョウ新首相が言うマニフェストの「理念は生きている」という事の実態ならば、もう民主党の命運は尽きていると申せましょうなあ。

■年金制度の改悪案が公表されて日本中が大騒ぎになっておりますが、菅アルイミ政権の時代に取りまとめた「税と社会保障の一体改革」案の中にこっそり忍び込ませていたのを、故意か過失かは知りませんが、マスコミは足並み揃えて消費税引き上げ問題ばかりを大きく取り上げて国民もうっかり騙されてしまっていたのが真相だとか……。菅アルイミ首相が「やるべきことはやった」と虚しい自画自賛をして総理の座を降りた時、誰も数少ない業績の一つだった「一体化案」の検証をしようとはしなかったのは迂闊がことでありました。菅アルイミ前首相は何もしなかったのではなくて、実はトンデモない置き土産を残していたと改めて思い知るのであります。


政府は、年金記録の訂正申し出が妥当かどうかを判断する総務省所管の年金記録確認第三者委員会を13年度以降に廃止し、業務を厚生労働省所管の社会保険審査会に移す方向で検討に入った。当初、厚労省は業務移管を拒否していたが、社保審の人手不足解消策として第三者委の業務を引き受ければ組織を拡大できることもあり、方針を転じた。…… 

■これまた唐突な発表で、情報元の「政府」とは誰のことだ?と訝しく思えるほどですが、年金制度改悪案の念押し報道に合わせるようなタイミングを計っている頭のよい悪い奴が隠れていそうでありますなあ。


第三者委は07年6月、年金記録問題の発覚を受けて設置された。本来、確認業務は厚労省所管の社保審がやるべき任務だったが、事務局の設置場所について、安倍晋三政権は「旧社会保険庁や厚労省では国民の信頼を得られない」として、厚労省の抵抗を抑え総務省とした経緯がある。当時「審査の資格なし」と判断された厚労省が業務を引き受けることは、「焼け太り」との批判を招きそうだ。第三者委は設置から4年以上が過ぎ、処理件数は徐々に減っているが、10年度の件数は週平均1200件で、行政評価事務所からは「本来の行政監視業務ができない」との声が上がっている。このため、第三者委は今年6月にまとめた報告書で厚労省側への業務移管を求め、総務省が厚労省に移管を要請した。しかし、厚労省は国民年金保険料の未納問題への対応などで人手を割けないとして、いったん拒否。総務省は厚労省と協議を続ける意向で、来年度分の経費74億円を概算要求に計上している。…… 

■年金制度を世界で最も複雑で管理不能のシステムにしてしまったのも、グリーンピアなどの愚かな無駄遣いで1兆円以上もの損失を出したのも自民党政権時代の旧社会保険庁でした。人口ピラミッドが逆転するのを知っていながら制度改革を怠り、後の給付義務を忘れて積立金をハコモノばらまき政治に流用し続けた罪をすっかり忘れて「政権奪還」を夢想する自民党にも困ったものでありますが、保険料を負担する人口が急速に減る一方で元気なお年寄りが都市にも地方にもあふれるような少子高齢化問題をずっと先送りした上に国民からの信頼を失って保険料を支払って貰えなくなってしまった年金制度をどんなにいじくり回してみても現実に適応した制度になどならないのかも知れません。投票率が高く数の多い高齢者を喜ばせることで長期政権を維持した自民党が悪いのか、政治に興味を持てずに選挙権を放棄してしまった多くの若者が悪かったのか、判断は難しいところですが戦後の民主主義が残した大いなる負の遺産であることは確かでしょう。その証拠に自民党政権を支えてくれた世代は食い逃げに成功し、後に続く世代は保険料の納め損になる可能性が年々高まって行くのであります。


こうした中、厚労省は第三者委と同じ苦情処理機関の社保審が人手不足に陥っている問題を勘案し、総務省の要請を再検討した。健康保険や年金給付への不服申し立てを受け付ける社保審は、申立件数が10年度は1782件で1238件を処理できず、今年度に繰り越した。「能力の限界を超えている」(事務局)といい、第三者委の業務を社保審で引き受けることで組織を拡大する方向にかじを切った。総務省には13年度に設置期限を迎える「年金業務監視委員会」も設置されている。厚労省内には、第三者委と同時に取り込んで「年金審判庁」とする思惑まで浮上している。

◇年金記録確認第三者委員会
国に記録がなく、受給者側にも領収書など保険料を納めた証拠のない場合、本人の申請に沿って記録を訂正し、年金を支給すべきか否かを判断する機関。総務省本省に中央委員会、全国50カ所の行政評価事務所などに地方委員会があり、これまで約24万件の申し立てを処理した。弁護士や社会保険労務士などによる合議制で、有識者の合議制としている社会保険審査会と似ている。
2011年10月17日(月) 毎日新聞 

■年金制度の不備を補うために要する人的コストも莫大で、どこかバブル崩壊後に金融機関を公的資金で延命救済した構図に似ているようにも思えますが、国民の怒りを買った自民党は長年の与党政権の座を失うという最も重い罰を受けたのに厚労省や社会保険庁は実質的な罰は何も受けずに今度は「焼け太り」までして更に組織を肥え太らせようというのは、官僚天国そのものと申せましょうなあ。

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