旅限無(りょげむ)

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北朝鮮の核 余話 其の四

2008-10-23 17:26:59 | 外交・情勢(アジア)
■アーサー・ブラウン氏へのインタヴューをもう少し……。

--CIAは2度目の核実験を予想していた?

「予想はあった」

--再度の核実験を警戒し北朝鮮に譲歩したという観測もあったが。

「正しい。われわれが何もしなかったら、彼らはまた実験を行ったと思う」

--現在、北朝鮮は……米国がテロ支援国家指定解除を行わなかったことの報復として再処理施設の再稼働などの動きをみせている。北朝鮮の目的をどうみる?

「彼らは寧辺の核施設をわれわれに2回売った。一度目はクリントン政権の枠組み合意、2度目は6カ国協議のエネルギー支援だ。今の動きは米次期政権と“3回目の商売”を考えてのことだろう。新しい米国大統領との取引の方が、いい商売になると考えていると思う」

■「2度ある事は3度ある」という諺の通り、2度も難関を切り抜けて大国アメリカを本気で慌てさせたのですから、結果的に要求した物が100%入手出来なくても、外交的には十分な収穫が得られたことになります。その上、「軽水炉が完成しない!」だの「原油が遅い!少ない!」などと喚いて見せている間に、しっかり原爆モドキを完成させる時間稼ぎをしてわけですから、戦略としても完全に北朝鮮ペースだったことになりますなあ。その間、日本は小泉政権と安倍政権の「対話と圧力」政策で拉致問題の解決を求め続けたわけですが、実に悔しいことに北朝鮮側の時間稼ぎを結果的には助けてしまった間抜けな役を演じてしまったようです。

■拉致被害者家族の皆さんは、最悪の事態まで覚悟して「徹底的な圧力」「断固たる態度」で望んで欲しいと涙を堪えて要望していたのに、何が何でも国交正常化を成し遂げて日本外交史に名前を残そうとする者や、北朝鮮利権を手放したくない連中の影響力が強いらしく、核問題がこじれる度に拉致問題をちょっとだけ進展させるかのような素振りを見せて米国を追い詰めて行った北朝鮮でありました。

■さてさて、「仏の顔も3度まで」という諺もありますから、欲しい物があれば、出前を頼む電話みたいに軍事衛星からよく見える怪しげな「実験準備」のパフォーマンスを仕掛けては、何でも思い通りに手に入るなどというふざけた話がこれからも何度でも成功するわけではないぞ!と思いたい……。


--2、3週間以内に寧辺の核施設は再稼働する?

「寧辺の3つの施設、つまり実験用原子炉、プルトニウムを抽出する再処理施設、化学工場のうち、再処理工場は……すでに稼働準備は始まっているから、1~2週間以内に稼働できる。ただ、米大統領選の期日とのタイミングを計る可能性もある。再処理工場を動かせば3~4週間で使用済み核燃料棒約4000本から8キロぐらいのプルトニウムを抽出することができる」

■たったの1ヶ月でまたぞろ原爆作りが始められるというわけですなあ。どんなに不恰好で信頼性の低い物でも、世界でも最も核アレルギーが強い米国にとっては決して無視など出来ない脅威になるようです。同盟国の日本は被爆国であるのに呑気に構えているのとは対照的ですなあ。実戦で使用し、残酷な人体実験を繰り返しながら世界で最も多くの核兵器を保有している米国の怯えようは、小さな一本のトゲに悶え苦しむ獅子の姿を思い出させます。日本は一度の敗戦ですっかり神経が焼き切れてしまったらしく、拉致・工作船・核兵器・ミサイルのどれも大した脅とは思っていない節があるのは、実に不思議な現象であります。

欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の伍

2008-10-23 00:41:27 | チベットもの
■チャイナがノーベル平和賞を採り損なった話の続きです。逮捕された御主人も、一時は軟禁された奥さんとお子さんも、まずは生命の危険はないようなのでちょっと安心ではあります。

大連から北京の自宅に戻されたのは8月23日。「(当局は)もっと長期間、大連にとどめておきたかったようだが、私の母乳の出が悪く、長女の異変を恐れたようだ」と曽さんは話した。曽さんが胡氏と面会したのは9月25日、天津市郊外の刑務所だった。曽さんは当局から「(胡氏を)殴打することはしないが、われわれにはほかの方法がある」と威嚇めいたことを言われたという。

■曽さんの推測が正しいとすれば、チャイナの人権思想は大きく進歩したことになります。五輪大会まで開いてしまったのですから、政府が好き勝手に情報を切り張り・出し惜しみするのはほぼ不可能になっておりますから、有名人が「消息不明」になれば海外の大小メディアが大騒ぎするのを止められません。IOCに対する「約束」も、まだまだ記憶に新しい時期でもありますから、これ以上の人権騒動は起こしたくないという政府の本音が透けて見えますなあ。


今も胡氏との面会や手紙では社会問題について話したり、書いたりすることは許されていない。曽さんの自宅前では6人ほどが24時間態勢で監視しているといい、五輪後も中国の人権状況は改善されていない実態が浮かび上がってくる。
2008年10月14日 産経ニュース

■御本人が獄中で家族が軟禁状態。そんな人物にノーベル平和賞が贈られたら、北京政府は世界の笑い者になりましょうし、極悪人呼ばわりする声も上がるでしょう。チャイナでノーベル平和賞を受けるためには、まずは国外への亡命が必須条件ということです。そういう国が世界中に結構あることを忘れては行けません。でも、そんな国で五輪大会を開催しようという悪い冗談が現実化したのはモスクワと北京だけなのですが……。


2008年10月9日、日本の華字紙「新華僑報」は「五輪金メダルとノーベル賞どちらが大事か」というコラムを掲載し、「オリンピック金メダルとノーベル賞のいずれも手にすることが大国として当たり前だ」と指摘した。……9日、中国のロケット工学者である銭学森氏の甥にあたる銭永健氏が、「クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその応用」に関わる研究によりノーベル化学賞を受賞したことがスウェーデン王立科学アカデミーによって発表された。しかし銭永健氏はアメリカ国籍の華僑であり、中国人ではない。過去、海外に住む華僑の受賞者は7人いるが、いずれもアメリカ国籍。1997年に物理学賞を受賞した朱棣文氏が名前をひどく下手な漢字で書いたのを見て、誰もが「中国人ではない、アメリカ人だ…」と感じたという。……

■この辺から人口だけは世界一のチャイナの面目躍如という話になります。中国のロケット博士と聞けば、もしも御高齢の学者ならばきっとロシア語が堪能で旧ソ連に留学した経験があり、フルシチョフ時代の中ソ対立が始まる前に、運良く生きて帰国したという経歴の持ち主なのだろうと想像は付きます。米国に留学して軍事機密すれすれの情報を持ち帰った人なのかも知れませんが……。五輪もノーベル賞も、そろそろ血筋や国籍の問題を卒業しないと身動きが取れなくなるでしょう。ノーベル賞は基本的に個人に贈られるので、馬鹿馬鹿しいメダル獲得競争みたいな気味の悪い話にはならないはずなのですが、どうも変なナショナリズムが蔓延っているようで心配です。

■そもそも近代五輪大会も国籍や国旗などは関係なく、アスリート個人を讃える催し物として始まったのに、ナチスのヒトラーが支離滅裂なアーリア人伝説を実証するプロパガンダに利用してから、奇怪な民族戦争の代替物みたいになってしまったとか……。日本でもマラソンの円谷選手を日の丸が押し潰して悲惨な自殺に追い込んだ前科があります。4年に一遍、突如として「日の丸のために!」とマスコミが騒ぎ出すのは如何なものでしょうなあ。国の税金で養成された恩義を忘れるな!と言うほどの支援はしてないのが実情ですし、マスコミなどはもっと露骨に使い捨てにするだけですからなあ。


日本は今回、16人目のノーベル賞受賞者を輩出したが、中国はオリンピックを開催し、多くの金メダルを獲得し、有人宇宙船の打ち上げにも成功しているものの、中国本土の科学者には依然としてノーベル賞とは縁遠い状態が続いている。ノーベル賞は、ある分野で長期間にわたり、人類にとって重要な意味を持つ基礎科学における発見に与えられる賞。中国はこれまで国としての発展に力を入れてきたが、「ノーベル賞の受賞を逃し続けているのは、中国の成長がバランスを欠いているからなのではないか」と同紙は指摘している。10月10日 Record China

■もしも、この報道が日本に対する嫌味な当て擦りだとしたら、非常に手の込んだ素晴らしい出来だと賞讃に値します。湯川博士以来、ノーベル賞を受賞した日本人の多くが、米国の大学や研究所で思う存分の研究生活をした成果として名前が残ったようなものですから、米国などでは自国の学者や文化人が何回ノーベル賞を受けたかなど、誰も気にしてないような気がします。日本人の受賞者の多くは、もしも日本国内に留まっていたらどうなったか分かったものではありません。逆に、日本の大学や研究施設に籍を置いている学者がノーベル賞を受賞したことなどあったでしょうか?日本人が何個のノーべル賞メダルを獲得したか?よりも、日本の研究機関がどんな貢献をしたのか?を反省して考えなければ、日本の子供達に対して単純に「勉強しろ!」と言うわけには行かなくなって、「勉強して留学しろ!」と幕末か明治時代みたいな説教をしなければなりませんぞ。遣隋使・遣唐使の頃と同じかも?