プレッシャーと緊張を跳ね飛ばす 「医学的」で簡単な方法

2011年06月28日 19時07分56秒 | Weblog
(鶴岡 弘之)

ストレッチは本当にケガの予防になるのかと、疑問に思っていた。一時期、足のふくらはぎがよく痙攣(けいれん)することがあった(経験したことがある人は分かると思うが、激痛である)。痙攣するのはたいてい一日中歩きまわって疲れている時や、スポーツをしている最中だった。
. ストレッチは本当にケガの予防になるのかと疑問に思っていた。

 一時期、足のふくらはぎがよく痙攣(けいれん)することがあった(経験したことがある人は分かると思うが、激痛である)。痙攣するのはたいてい一日中歩きまわって疲れている時や、スポーツをしている最中だ。

 スポーツをしている時に痙攣が起きるのは準備運動が足りないせいだと思い、入念に足のストレッチを行い、ふくらはぎを伸ばすようにした。だが不思議なことに、そうするとますます痙攣が増えるのだ。

 痛い思いを何度か繰り返して、ある時、本当にストレッチは効果があるのかと疑うようになった。運動前にストレッチをすればするほど、ふくらはぎの筋肉がコチコチに固くなっている気がする。もしかしたら、ストレッチは筋肉を緊張させているだけではないのか。その緊張が痙攣を誘発しているのではないか──。

 もう1つ、スポーツをしていて疑問に思っていたことがある。プレッシャーがかかると、なぜ身体が動かなくなるのか、ということだ。

 例えばゴルフでもテニスでも、練習では楽々とできていることが、本番になるとできなくなる。特にプレッシャーのかかる大事な場面になると、体の各パーツの可動域が狭くなって、思うように動けなくなるのだ。自分の体に一体何が起きているのか。

身体の「恒常性」を一定に保つのが自律神経の大きな役割
 そうした疑問に対して、順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏が著した『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』は、明快で納得のいく解答を示してくれた。

 一言で言うと、痙攣が起きるのも身体が動かなくなるのも、自律神経のバランスが崩れている状態だったのだ。

 「自律神経」とは何か。改めて説明すると、自律神経は内臓や血管の機能をコントロールする神経である。

 体の「恒常性」を一定に保つのが、自律神経の大きな役割だ。つまり、外部環境の変化に左右されずに、体の内部環境を一定に保つ役割を担う。人間の意識とは無関係に心臓が脈打ったり、眠っている間も呼吸が続いたりするのは自律神経のおかげである。

 ご存じのように、自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類がある。

 交感神経は心や体が「興奮」する時に優位に働き、副交感神経はくつろいでいる時や眠る時など「リラックス」する時に優位に働く。だから、交感神経はアクセルに、副交感神経はブレーキに例えられる。

自律神経のバランスが崩れると様々な病気になる
 交感神経と副交感神経はスイッチのように切り替わって、常にどちらかが優位になって働いているように思われがちだ。しかし、本書によれば、<体がもっともよい状態で機能するのは、実は、交感神経も副交感神経も両方高いレベルで活動している状態の時>なのだという。


 具体的には、自律神経のバランスが崩れると、例えば以下のような症状が現れるという。

・免疫力が低下する

 交感神経が優位になると顆粒球(かりゅうきゅう:白血球の一種)が増える。一方、副交感神経が増えるとリンパ球が増える。

 どちらもウイルスや細菌といった外敵の侵入から身体を守るものだが、バランスが崩れると自分を傷つけてしまう存在となり、かえって病気にかかりやすくなる。自律神経のバランスがいい時が、最も「免疫力」が高い状態なのである。


 自律神経は気温の影響を受ける。そのため、季節の変わり目は自律神経のバランスが崩れやすくなる。季節の変わり目によく風邪をひくのはそのためだ。寒いから風邪をひくのではない。

・頭痛や不整脈が起きる

 交感神経が働くと血管は収縮し、副交感神経が働くと血管は弛緩する。そのため、過剰に交感神経が優位になると血管も過剰に収縮し、頭痛や不整脈を引き起こす。

・ケガをしやすくなる

 冒頭で、入念にストレッチをしても、ふくらはぎが痙攣したと述べた。小林氏によれば、実は「運動前の間違ったストレッチは、自律神経のバランスを崩してケガをする原因になる」のだという。

 筋肉には、縮める時に働く「屈筋」と、伸ばす時に働く「伸筋」の2種類がある。多くの人が行っているストレッチは、屈筋か伸筋かのどちらか一方しか伸ばしていない。それが自律神経のバランスを崩し、筋肉に送られる血液のアンバランスを招くことになる。

 要するに、ふくらはぎを局部的に伸ばす私のストレッチは間違っていたのである。ただ単にケガの原因を生み出していただけであり、むしろ、やらない方が良かったというわけだ。

 
副交感神経のレベルを上げればプレッシャーに打ち勝てる


 自律神経のバランスは、主に副交感神経のレベルが上下することで取られている。だから、副交感神経の低下を防ぐことが、バランスを取る上で大きなポイントとなる。

 実力のあるスポーツ選手であっても本番での調子にばらつきが生じてしまうのは、副交感神経が上下するためだという。

 小林氏によれば、プレッシャーがかかったり、緊張した時に身体が動かなくなるのは、副交感神経のレベルが下がって、身体の末梢部分に血が行き届かなくなるからである。だから、パフォーマンスを上げるためには、副交感神経のレベルを上げて血流を良くすればよい。

 一流のスポーツ選手は、意識する、しないにかかわらず、自らコントロールすることによって副交感神経のレベルを高めているという。

 どうすれば副交感神経のレベルを上げられるのか。小林氏は、私たちが日常生活の中で自律神経をコントロールする方法、特に副交感神経を高めるためのポイントを挙げてくれた。

<1> ゆっくり動き、ゆっくり呼吸する

 仕事でもスポーツでも、あせるとミスが増えるのは、せかせかした動きが副交感神経を低下させ、自律神経のバランスを崩してしまうからだ。自分が「あせっているな」と思ったら、意識的にゆっくり動き、ゆっくり呼吸してみる。

 深呼吸は極めて有効である。「プロゴルファーの尾崎将司さんや丸山茂樹さんは、パットの時、『ふーっ』てうるさいぐらいに深く呼吸しています。自律神経の理論を知っているかどうかは分かりませんが、そういう呼吸をするとパットが良くなることに気付いているんですよ」(小林氏)

 深呼吸は、1の長さで吸って2の長さで吐く。鼻で吸うとか、「へそ」に力を入れるとか、そんなことはまったく気にしなくていいという。

<2> 水を飲む

 冷たい水を飲むと「胃結腸反射」(胃腸のぜん動運動を促す反応)が誘発され、腸が活発に動くようになる。腸が動けば、副交感神経が刺激される。自分が「仕事で張り詰めているな」という時は、水を飲むとよい。

<3> 睡眠をしっかりとる

 睡眠不足は自律神経のバランスを著しく狂わせる。徹夜をすると、翌朝は副交感神経のレベルがほとんど上がってこない。6~7時間程度の睡眠は必要。

<4> スポーツの前は正しい準備運動を行う

 ウォーミングアップを行う本来の目的は筋肉をほぐすことではない。血流を良くして「体を暖める」こと。つまり、身体の隅々まで血流を行きわたらせることにある。

 スポーツ前の準備運動は以下の4種類だけでよい。ストレッチは必要ない。以下の準備運動は自律神経のバランスを整えるとともに、自律神経のレベルを上げるトレーニングにもなるという。

(1)両手を上に上げる。右手で左手の先をつかみ、引っ張りながら、体をできるだけ横に倒す。倒す時はゆっくり息を吐く。それを両方の手で行う。

(2)両手を前に出し、右手で左手の先をつかむ。そのままできるだけ横に引っ張る。引っ張る時にゆっくり息を吐く。それを両方の手で行う。

(3)右腕を前に出して折り曲げ、右ひじを左手で固定する。右手の手のひらを上に向けて、手首をぐるぐると回す。両方の腕で行う。

(4)椅子に腰かけ、右の足首を左のひざの上に乗せる。その状態で右の足首をぐるぐると回す。両方の足で行う。

 たったこれだけ。随分と簡単である。これらの準備運動でなぜ自律神経のバランスが良くなるのかは本書に説明があるので、読んでいただきたい。

<5> 緊張したら(ビビったら)自然を味方につける

 草や木の香りをかいだり、風を感じてみる。または、周囲の様子や周りにいる人の顔を見わたしてみる。そうすると呼吸がゆっくりになり、自律神経がバランスを取り戻す。

リラックスしすぎてもパフォーマンスは上がらない
 ただし、常に副交感神経のレベルだけを上げればいいと考えるのは間違いらしい。「リラックスしすぎても、パフォーマンスは落ちる」のだという。

 例えばゴルフだと、終盤まで優勝争いしていた選手が、もう優勝がなくなったと分かった途端に、パットが入らなくなる。または、ほぼ優勝が決まった鉄棒の選手が、落ちないことだけを考えて演技をすると、落ちてしまう。

 「今までの緊張の糸が切れてしまうんですね。副交感神経のレベルが上がってしまっている状態だからです。気が抜けてゆるんでしまい、ミスが出るんです」(小林氏)

 だから、緊張しすぎてもリラックスしすぎても、良い結果は出せない。「最も良いのは適度なストレスと適度な余裕を併せ持つこと」なのだ。

 本番で力を出せない人、プレッシャーに弱いと感じている人は、本書を一読してみてほしい。交感神経と副交感神経のメカニズムを知るだけでも、気の持ち方が大きく変わるはずだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/8058

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