自動車大国・アメリカ。高齢ドライバーによる事故の危険性は、日本以上に深刻な問題だ。03年には高齢男性の暴走で78人が死傷する大事故が起き、高齢者の運転を制限する法整備要求の声が高まったが、「年齢差別」との反発などから見送られるケースが多い。現地から報告する。【ロサンゼルス國枝すみれ】
◇自立、地位の象徴--公共の足も未整備
その事故が起こったのは、03年7月。当時86歳の男性が運転する車が、カリフォルニア州サンタモニカの路上マーケットを暴走した。
ニュースで知り、すぐ現場に向かった。週に2回、道路を歩行者天国にして農家の露店などが並ぶ地元の名物。しかし到着した時、路上には壊れた屋台や野菜が散乱し、タイヤや血の跡を警察が検証していた。
加害者は近くの住人。通行止めの道に入り、パニックを起こしてブレーキとアクセルを踏み間違えた。悲鳴の中を2ブロック走り続け、10人が死亡、68人が負傷した。
*
運転できなくなった高齢者のためにツアーバスを用意する高級アパートもある。バスでシニアセンターを訪問する高齢者たち=サンタモニカで
これ以前にも、高齢者による加害事故は相次いでおり、免許更新時の実技検査導入など州法改正要求の声が高まった。が、いまだに実現しない背景には、車社会・米国ならではの事情がある。
一つは、プライドの問題。米国では車は自立の象徴だ。サンタモニカの介護士、テリー・ルサーさん(43)は「運転をあきらめることは、自分の能力に問題があり、他人の助けを必要としている、と認めること」と言う。車は地位の象徴でもあり、バスに乗るのは下層階級と思う人も多い。
もう一つは公共交通機関の未整備。広大な国土には都市間にこそ長距離バスや鉄道が走るが、街の郊外と中心部などを結ぶ生活路線はほとんどなく、車は生活必需品だ。
このため高齢者の運転を年齢で一律規制する連邦法は、米国にもない。
ただ米国には、運転に危険な健康状態の高齢者を診察した医師に、州政府への通報を義務付ける制度があり、9州が導入している。しかしアルツハイマー協会のルース・ゲイさんは「現実には、患者との関係が崩れることを恐れて通報しないことが多い」と明かす。
このためカリフォルニア州では、高齢者の家族や友人も通報できるようにした。通報は実名だが、頼めば人間関係が壊れないよう匿名扱いとなる。通報されたドライバーは医師の診察のほか、面接、筆記、実技試験をパスする必要がある。
*
医師の通報制度を利用して、父親の免許を取り消した家族もいる。
ウィスコンシン州メコーンの畜産農家、ラッセル・ミッケルソンさん(86)は昨年1月、車を車庫の壁にぶつけた。心配した長女のダイアン・オムダールさん(58)は、ミッケルソンさんを高齢者安全運転教習に行かせた。視力、判断能力が衰え、反応時間が遅いと判定され「昼間だけ、自宅から5マイル(約8キロ)以内」と運転制限された。
事故は翌日に起きた。事故処理中のパトカーの緊急灯に気づかずに突っ込み、大破させた。その後、初期段階のアルツハイマー症と認定された。オムダールさんは医師に州の自動車局に通報してもらい、ミッケルソンさんの免許を取り消した。
しかしバスなどの公共交通機関はなく、生活に車は欠かせない。ミッケルソンさんは「車を取り上げられたらトラクターを運転する」と言い張った。結局ミッケルソンさんは老人ホームに入り、昨年がんで亡くなった。最後まで「車を売らないで。ホームから出たら、また運転するから」と頼んでいたという。
◇「年齢差別」、根強い反発
一方、事故の危険性に関して高齢者だけが問題視されることには批判もある。介護士のルサーさんも「危険運転する人はほかにもいる。携帯電話をしながら運転する人はどうなの?」と言う。
裏付けるデータもある。米ハイウエー安全保険協会の調査によると、死亡事故を起こす割合は50代前半が最も低く、その後徐々に増える。それでも70代後半は20代前半と、80代前半は18歳とほぼ同率。跳ね上がるのは80代後半からだ=グラフ参照。
カリフォルニア州ラ・メサのバージニア・ウェイリングさん(88)は5年前、レストランで食事中、投薬が原因で気絶して免停になり、教習所で再試験を受けたが不合格だった。今も結果には納得しておらず「きちんと動ける高齢者は運転を許されるべきなのに、年齢差別」と訴える。市や郡が高齢者用のシャトルサービスを運行する地域もあるが、頼んでから数時間待ちということもある。アルツハイマー協会のゲイさんも「運転を年齢で規制するなら、まずバスなど公共交通機関の整備が必要」と指摘する。
毎日新聞 2007年6月13日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/katei/news/20070613ddm013100047000c.html
自分の父親もガンで歩けないほど、病症が進んでいたのに、
退院したら、軽自動車を運転したいとごねて、
俺にカタログを集めように言った。
ディーラーに行きながら、乗れないのに、、
なんで、、、と俺は思いながら、泣いていた。
◇自立、地位の象徴--公共の足も未整備
その事故が起こったのは、03年7月。当時86歳の男性が運転する車が、カリフォルニア州サンタモニカの路上マーケットを暴走した。
ニュースで知り、すぐ現場に向かった。週に2回、道路を歩行者天国にして農家の露店などが並ぶ地元の名物。しかし到着した時、路上には壊れた屋台や野菜が散乱し、タイヤや血の跡を警察が検証していた。
加害者は近くの住人。通行止めの道に入り、パニックを起こしてブレーキとアクセルを踏み間違えた。悲鳴の中を2ブロック走り続け、10人が死亡、68人が負傷した。
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運転できなくなった高齢者のためにツアーバスを用意する高級アパートもある。バスでシニアセンターを訪問する高齢者たち=サンタモニカで
これ以前にも、高齢者による加害事故は相次いでおり、免許更新時の実技検査導入など州法改正要求の声が高まった。が、いまだに実現しない背景には、車社会・米国ならではの事情がある。
一つは、プライドの問題。米国では車は自立の象徴だ。サンタモニカの介護士、テリー・ルサーさん(43)は「運転をあきらめることは、自分の能力に問題があり、他人の助けを必要としている、と認めること」と言う。車は地位の象徴でもあり、バスに乗るのは下層階級と思う人も多い。
もう一つは公共交通機関の未整備。広大な国土には都市間にこそ長距離バスや鉄道が走るが、街の郊外と中心部などを結ぶ生活路線はほとんどなく、車は生活必需品だ。
このため高齢者の運転を年齢で一律規制する連邦法は、米国にもない。
ただ米国には、運転に危険な健康状態の高齢者を診察した医師に、州政府への通報を義務付ける制度があり、9州が導入している。しかしアルツハイマー協会のルース・ゲイさんは「現実には、患者との関係が崩れることを恐れて通報しないことが多い」と明かす。
このためカリフォルニア州では、高齢者の家族や友人も通報できるようにした。通報は実名だが、頼めば人間関係が壊れないよう匿名扱いとなる。通報されたドライバーは医師の診察のほか、面接、筆記、実技試験をパスする必要がある。
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医師の通報制度を利用して、父親の免許を取り消した家族もいる。
ウィスコンシン州メコーンの畜産農家、ラッセル・ミッケルソンさん(86)は昨年1月、車を車庫の壁にぶつけた。心配した長女のダイアン・オムダールさん(58)は、ミッケルソンさんを高齢者安全運転教習に行かせた。視力、判断能力が衰え、反応時間が遅いと判定され「昼間だけ、自宅から5マイル(約8キロ)以内」と運転制限された。
事故は翌日に起きた。事故処理中のパトカーの緊急灯に気づかずに突っ込み、大破させた。その後、初期段階のアルツハイマー症と認定された。オムダールさんは医師に州の自動車局に通報してもらい、ミッケルソンさんの免許を取り消した。
しかしバスなどの公共交通機関はなく、生活に車は欠かせない。ミッケルソンさんは「車を取り上げられたらトラクターを運転する」と言い張った。結局ミッケルソンさんは老人ホームに入り、昨年がんで亡くなった。最後まで「車を売らないで。ホームから出たら、また運転するから」と頼んでいたという。
◇「年齢差別」、根強い反発
一方、事故の危険性に関して高齢者だけが問題視されることには批判もある。介護士のルサーさんも「危険運転する人はほかにもいる。携帯電話をしながら運転する人はどうなの?」と言う。
裏付けるデータもある。米ハイウエー安全保険協会の調査によると、死亡事故を起こす割合は50代前半が最も低く、その後徐々に増える。それでも70代後半は20代前半と、80代前半は18歳とほぼ同率。跳ね上がるのは80代後半からだ=グラフ参照。
カリフォルニア州ラ・メサのバージニア・ウェイリングさん(88)は5年前、レストランで食事中、投薬が原因で気絶して免停になり、教習所で再試験を受けたが不合格だった。今も結果には納得しておらず「きちんと動ける高齢者は運転を許されるべきなのに、年齢差別」と訴える。市や郡が高齢者用のシャトルサービスを運行する地域もあるが、頼んでから数時間待ちということもある。アルツハイマー協会のゲイさんも「運転を年齢で規制するなら、まずバスなど公共交通機関の整備が必要」と指摘する。
毎日新聞 2007年6月13日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/katei/news/20070613ddm013100047000c.html
自分の父親もガンで歩けないほど、病症が進んでいたのに、
退院したら、軽自動車を運転したいとごねて、
俺にカタログを集めように言った。
ディーラーに行きながら、乗れないのに、、
なんで、、、と俺は思いながら、泣いていた。
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