◇年齢別の“生き方本”が大盛況
女性の年齢の「節目」が話題だ。「○歳からの」と「○歳までに」を書名にうたった女性向けの生き方本が次々出版されている。かつて女性が「クリスマスケーキ」に例えられた時代、女性に押しつけられた節目は「24歳」だった。しかし今、急浮上している「節目」は「28歳」であり、「35歳」である。女性の年齢的節目を考えた。【小国綾子】
■切りの悪い数字
「21歳からのマナーBOOK」「25歳からの“自分だけのHAPPY”をつかむ本」「28歳からのぜったい後悔しない生き方」「30歳までに美貌(びぼう)とお金と幸せを手に入れる仕事術」「33歳からのハローワーク」「35歳からの女道」「35歳からの玉の輿(こし)道」「女40歳からの『気品ある人生作法』」「王子さまを40歳まで待ってみた」……。
ネット書店アマゾンで検索すると、年齢を書名にうたった「女性向け」の生き方本がいかに多いかよく分かる。過去2年間に出版された本だけでもここに書ききれない。おまけに21歳、28歳、33歳など中途半端な数字が目立つのも最近の傾向だ。
一方、20代、30代を対象にした男性向けの生き方本は、ほとんどすべてが仕事絡み。「25歳までに覚える ダメ社員にならないための仕事の法則」「30歳からのリーダー術」「男、30歳 土俵際から始める組織で勝ち残る技術」「35歳革命」「40歳からの仕事術」など、切りの良い数字に「節目」が集中する。
■「28歳」
女性の節目年齢に根拠はあるのか。中途半端な数字なのに、妙に目立つのが「28歳」である。厚生労働省の人口動態統計によると03年の女性の平均初婚年齢は27・6歳。派遣会社パソナのグループ会社パソナキャレントの調べでは、女性の転職希望のピークは28歳。また、化粧品会社のカネボウが02~04年、「お肌の曲がり角はいつか」について意識調査したところ、平均年齢は27・5歳だった。
04年4月の出版以来すでに5万5000部売れたという「女が28歳までに考えておきたいこと」(三笠書房)の著者で心理学者の伊東明さんは「日本女性の平均結婚年齢がほぼ28歳。さらに人生相談や恋愛相談を受けた時、最も悩んで見えるのも28歳です。自分の人生に不満があるわけではないが、30歳の壁を前に『このままでいいのかしら』と揺れる年齢なのでしょう。30歳になると意外と壁を乗り越えた気楽さがあるのですが」と話す。また、28歳という年齢の大切さについて、「その後も年を重ねるほどに輝く人になれるか、そうでなくなっていくかの岐路に当たる」とも語る。
■30代前半
20代で人生を決められてたまるか、という人のために最近充実してきたのが30代の節目を扱った生き方本。中でも「35歳からの女道」(ソニーマガジンズ)は04年6月の発売以来2万5000部売れた。本の帯文がまたすごい。「嗚呼(ああ)、オンナ30代、ガケっぷちの幸せ分かれ道」。担当編集者の武居瞳子(たけいとうこ)さんは「35歳」に着目した理由について、「40歳という年齢が具体的に見えてくるターニングポイントが35歳」と語る。
テレビの世界でも、30代前半の「節目」に注目が集まる。独身女性の心の揺れを描いた民放のテレビドラマ「anego(あねご)」(日本テレビ系)のヒロインは32歳。「曲がり角の彼女」(フジテレビ系)は33歳。ともに30代前半の団塊ジュニア世代である。
■みんなの節目
記者(39)も片っ端から友人や知人に「節目年齢」を聞いてみた。
多かったのはなぜか「32歳」。
「若い子と話が通じなくなり、カラオケで新しい歌が分からなくなった。20代後半で出産した後も努力でカバーしてきたけど、32歳で無駄な努力とあきらめた」(38歳)
「体が変わったのが32歳。下腹や背中など思いもしなかったところにぜい肉が付き、落ちない。徹夜はできなくなるし。30歳の時はまだ20代の勢いで突っ走れたんだけどな。本当の30代は32歳で始まった」(36歳)
そういえば女の「厄年」は数えで33歳。つまりこれも32歳。
「35歳」も目立った。
「35歳を過ぎてそろそろオトナにならなきゃ、って感じることが増えた。遅すぎかしら?」(41歳)
「35歳で地域の乳がん検診の案内はがきを見てどっと老け込んだ」(40歳)などだ。
次に多かったのが「40歳」。
「30代で節目を感じるなんて早い。9年ぶりに出産し、すべて一から出直し状態の40歳。気力を充実させなきゃいけないのはこれから」と言うのは40歳で2人目の子供を産んだばかりの女性。別の女性も「28歳とか38歳とか半端な数に心が揺れるのは、バーゲンセールの1980円や980円の数字のトリックみたいなもの。40歳になると体力的に衰える一方で精神的には充実して『本当の転機』を感じるのよ」(48歳)、「30歳になっても感慨はなかったが、40歳では感慨があった。でも『とうとう大台に乗っちゃった』という感慨を人前で口に出せなくなる節目も40歳」(40歳)などと言う。
一方、出産や転職などのプライベートな体験を「転機」に挙げた人も多かった。「節目なんて一度も感じたことがない」と言う人も33人中10人の約3分の1に上った。
■男の節目
一方、周囲の男性に「節目はいつ」と聞いてみたら「30歳ですかねえ」「40歳かなあ」と、誰も半端な数字を挙げない。そもそも「節目年齢」に無頓着にも見える。
心理学者の伊東さんは「人が年齢の節目を意識するのは人生に迷った時。女性の場合、人生の選択肢は増えたが古い価値観もまだ残っているので、『30歳までに結婚したい』『35歳までに出産したい』などと、古い価値観と実際の自分の年齢との狭間(はざま)で常に迷う人が多い。一方、男性の場合は出産という年齢的なリミットがないうえ、『働いて家族を食わせる』以外のライフコースがまだ多様化していないから『いかに生きよう』と立ち止まる余裕すらない人が多いのでは」と分析する。
なるほど。男も女も人生いろいろ。あなたの「節目年齢」は何歳ですか?<イラスト・平山義孝>
毎日新聞 2005年5月31日 東京夕刊http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/news/20050531dde012040003000c.html
女性の年齢の「節目」が話題だ。「○歳からの」と「○歳までに」を書名にうたった女性向けの生き方本が次々出版されている。かつて女性が「クリスマスケーキ」に例えられた時代、女性に押しつけられた節目は「24歳」だった。しかし今、急浮上している「節目」は「28歳」であり、「35歳」である。女性の年齢的節目を考えた。【小国綾子】
■切りの悪い数字
「21歳からのマナーBOOK」「25歳からの“自分だけのHAPPY”をつかむ本」「28歳からのぜったい後悔しない生き方」「30歳までに美貌(びぼう)とお金と幸せを手に入れる仕事術」「33歳からのハローワーク」「35歳からの女道」「35歳からの玉の輿(こし)道」「女40歳からの『気品ある人生作法』」「王子さまを40歳まで待ってみた」……。
ネット書店アマゾンで検索すると、年齢を書名にうたった「女性向け」の生き方本がいかに多いかよく分かる。過去2年間に出版された本だけでもここに書ききれない。おまけに21歳、28歳、33歳など中途半端な数字が目立つのも最近の傾向だ。
一方、20代、30代を対象にした男性向けの生き方本は、ほとんどすべてが仕事絡み。「25歳までに覚える ダメ社員にならないための仕事の法則」「30歳からのリーダー術」「男、30歳 土俵際から始める組織で勝ち残る技術」「35歳革命」「40歳からの仕事術」など、切りの良い数字に「節目」が集中する。
■「28歳」
女性の節目年齢に根拠はあるのか。中途半端な数字なのに、妙に目立つのが「28歳」である。厚生労働省の人口動態統計によると03年の女性の平均初婚年齢は27・6歳。派遣会社パソナのグループ会社パソナキャレントの調べでは、女性の転職希望のピークは28歳。また、化粧品会社のカネボウが02~04年、「お肌の曲がり角はいつか」について意識調査したところ、平均年齢は27・5歳だった。
04年4月の出版以来すでに5万5000部売れたという「女が28歳までに考えておきたいこと」(三笠書房)の著者で心理学者の伊東明さんは「日本女性の平均結婚年齢がほぼ28歳。さらに人生相談や恋愛相談を受けた時、最も悩んで見えるのも28歳です。自分の人生に不満があるわけではないが、30歳の壁を前に『このままでいいのかしら』と揺れる年齢なのでしょう。30歳になると意外と壁を乗り越えた気楽さがあるのですが」と話す。また、28歳という年齢の大切さについて、「その後も年を重ねるほどに輝く人になれるか、そうでなくなっていくかの岐路に当たる」とも語る。
■30代前半
20代で人生を決められてたまるか、という人のために最近充実してきたのが30代の節目を扱った生き方本。中でも「35歳からの女道」(ソニーマガジンズ)は04年6月の発売以来2万5000部売れた。本の帯文がまたすごい。「嗚呼(ああ)、オンナ30代、ガケっぷちの幸せ分かれ道」。担当編集者の武居瞳子(たけいとうこ)さんは「35歳」に着目した理由について、「40歳という年齢が具体的に見えてくるターニングポイントが35歳」と語る。
テレビの世界でも、30代前半の「節目」に注目が集まる。独身女性の心の揺れを描いた民放のテレビドラマ「anego(あねご)」(日本テレビ系)のヒロインは32歳。「曲がり角の彼女」(フジテレビ系)は33歳。ともに30代前半の団塊ジュニア世代である。
■みんなの節目
記者(39)も片っ端から友人や知人に「節目年齢」を聞いてみた。
多かったのはなぜか「32歳」。
「若い子と話が通じなくなり、カラオケで新しい歌が分からなくなった。20代後半で出産した後も努力でカバーしてきたけど、32歳で無駄な努力とあきらめた」(38歳)
「体が変わったのが32歳。下腹や背中など思いもしなかったところにぜい肉が付き、落ちない。徹夜はできなくなるし。30歳の時はまだ20代の勢いで突っ走れたんだけどな。本当の30代は32歳で始まった」(36歳)
そういえば女の「厄年」は数えで33歳。つまりこれも32歳。
「35歳」も目立った。
「35歳を過ぎてそろそろオトナにならなきゃ、って感じることが増えた。遅すぎかしら?」(41歳)
「35歳で地域の乳がん検診の案内はがきを見てどっと老け込んだ」(40歳)などだ。
次に多かったのが「40歳」。
「30代で節目を感じるなんて早い。9年ぶりに出産し、すべて一から出直し状態の40歳。気力を充実させなきゃいけないのはこれから」と言うのは40歳で2人目の子供を産んだばかりの女性。別の女性も「28歳とか38歳とか半端な数に心が揺れるのは、バーゲンセールの1980円や980円の数字のトリックみたいなもの。40歳になると体力的に衰える一方で精神的には充実して『本当の転機』を感じるのよ」(48歳)、「30歳になっても感慨はなかったが、40歳では感慨があった。でも『とうとう大台に乗っちゃった』という感慨を人前で口に出せなくなる節目も40歳」(40歳)などと言う。
一方、出産や転職などのプライベートな体験を「転機」に挙げた人も多かった。「節目なんて一度も感じたことがない」と言う人も33人中10人の約3分の1に上った。
■男の節目
一方、周囲の男性に「節目はいつ」と聞いてみたら「30歳ですかねえ」「40歳かなあ」と、誰も半端な数字を挙げない。そもそも「節目年齢」に無頓着にも見える。
心理学者の伊東さんは「人が年齢の節目を意識するのは人生に迷った時。女性の場合、人生の選択肢は増えたが古い価値観もまだ残っているので、『30歳までに結婚したい』『35歳までに出産したい』などと、古い価値観と実際の自分の年齢との狭間(はざま)で常に迷う人が多い。一方、男性の場合は出産という年齢的なリミットがないうえ、『働いて家族を食わせる』以外のライフコースがまだ多様化していないから『いかに生きよう』と立ち止まる余裕すらない人が多いのでは」と分析する。
なるほど。男も女も人生いろいろ。あなたの「節目年齢」は何歳ですか?<イラスト・平山義孝>
毎日新聞 2005年5月31日 東京夕刊http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/women/news/20050531dde012040003000c.html
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