だれやみ評論:女性哲学者の死 /宮崎

2007年03月16日 07時53分46秒 | Weblog
3月11日12時2分配信 毎日新聞

 3日朝刊を開き、がく然とした。哲学者、池田晶子さんが亡くなった。昨夏に腎臓がんと分かり、闘病中だったという。46歳。何とあっけない。非情な天命に憤りすら覚える。
 「哲学者」と書いたが、池田さんは難解な哲学用語をいっさい使わず、日常語だけで鋭い哲学エッセーを雑誌などに書いてきた。哲学を日常語へ翻訳する文体を開拓した人だ。凡百の哲学者が難解にしか書けないことを、彼女ならどう分かりやすく書くだろうかと、いつも楽しみにしてきた。やさしい文章を書く時のお手本だった。
 慶応大哲学科を卒業した池田さんは、学者にはならず、文筆業に入った。小社とは縁が深く、最初期の連載「考える日々」は「サンデー毎日」に登場した。同誌連載中の「暮らしの哲学」は3月4日号が最後となった。たぶん死を覚悟していた時期の1月28日号では、こう書いてくれた。
 「毎日新聞社というのは、不思議な新聞社で、余計なイデオロギーを所有しないぶん自在で、私のみたいな、イデオロギーどころか、そも何を言っているのかすらわからないような文章でも、寛容にも許容してくれる」
 小社の出版物で私が胸を張って人に勧めたくなる本は、実はそれほど多くはない。だが池田さんの最新刊「14歳の君へ」は、私の知る限り、彼女の作品中、最も分かりやすい一冊である。中学生へ呼びかけるスタイルだが、哲学的な思考を経た内容は大人向けでもある。友愛、道徳、戦争、宇宙、お金、幸福など哲学の主要テーマについて見事に言い切っている。分かりやす過ぎて怖くなるほどだ。
 例えば死について。「人生は死ぬまで続いているのだから、君は幸福になることを、死ぬまであきめなくてもいいんだ」「幸福な心になるために、遠い先まで待つ必要なんかない。だって君の心は今ここにあるからだ」
 大人向けで最もやさしい本は、口述の「人生のほんとう」(トランスビュー刊)だろう。エッセーでは「週刊新潮」連載コラムをまとめた新潮社刊の3冊が比較的読みやすい。
 哲学のテーマは不変なので、どの本も同工異曲になる。当然、新しい著作ほど内容は深まり、文章も練れている。池田さんの仕事は、この先まちがいなくすごいことになるはずだった。それは一ファンより本人の方が、百も承知だったろう。無念でならない。さようなら。ありがとう。<宮崎支局長・大島透>

3月11日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070311-00000149-mailo-l45

最近週刊新潮のエッセーを読み始め、この方の本を買おうと思っていただけ、
びっくりだ。

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