息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

キメラの繭

2012-05-20 10:39:28 | 著者名 た行
高野裕美子 著

鳥インフルエンザ、新型インフルエンザの騒ぎは記憶に新しい。
人の出入りが多い部署にいたときは、マスクと使い捨て手袋着用という
ものものしい騒ぎになったこともある。

インフルエンザそのものもさることながら、型が進化してしまう、という
ところに恐怖があると思う。
そしてこの物語はまさしくそれが現実化し、とりかえしのない事態になった
世界を描く。

遺伝子組み換えの食物を食べた鳩が大量死し、その死骸を食べたカラスが狂暴化、
人間を襲い始める。傷ついた人の皮膚はとけ死亡する。
この恐ろしくかつ不可思議な事態に、ある研究所の助手と保険調査員が立ち向かう。

アレルギーによるアナフィラキシーショック。
利益を求めるあまりに不用意に続けられたDNA操作。
驚くのはこの小説が、鳥インフルエンザも新型インフルエンザもまだまったく
言われていない時期に書かれたということだ。
ここまで先を読まれていたとは……。
そして、それが過去のものとなった今読んでも面白い。
いつあってもおかしくない出来事。何が起こってもおかしくない世界。

遺伝子組み換えひとつとっても、最初はすごく抵抗を感じたし、いまもできるだけ
避けてはいる。しかし、見回せばごく普通の商品にも入り込んでいることに気付く。
これだけの人間が地球上で暮らし、なんとか食べていくためには、必要悪では
あるのだろう。でも、その影響がどこまで及ぶのか、人間の力ではわからない。

アレルギーもそうだ。ごく普通、と思われるものを食べただけで瀕死の症状を
起こす人がいる。古くからの知恵ではたちうちの出来ない状況。

便利と豊かさ。その裏側に必ず存在する闇の部分。
この闇を飼い馴らすためには、思い通りの光を作ることばかりに気を取られては
ならないのだろう。時には弱い光で満足することも必要なのだ。

何が解決になるのか、どこで止めるべきなのかはわからない。
でも考えるきっかけになる一冊だと思う。

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