息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

十年目の訪問

2013-04-04 10:44:59 | 著者名 あ行
秋山ちえ子 著

古い本だが、大好きで何度も読み返している。
著者が訪ねたさまざまな土地を、10年後、20年後に再訪するという
ルポルタージュだが、手間ひまも想いもなければできない貴重な作品だ。

多少の前後や、途中の10年目が抜けていることもあるが、
初めての訪問は昭和40年頃。そして最後は平成2年頃。
これは私が生まれた頃から娘を産んだ頃までの期間に重なる。
この時代の大きな変化の中に私は生まれ、育ってきたことになる。

マスコミで紹介される時代の変化とは違う。
もちろん家電の普及や景気の浮き沈みなどには影響されるのだが、
地方だけに新しいものや良いことはゆっくりと、悪いことは素早くやってくる。

小さな集落だけで完結していた時代が終わると、暮らしを維持することが困難になり、
現金や便利さを求めて人々の心は外に向かう。
たまに訪ねる著者にとっては、かけがえのない文化であっても、
それを自力で支える人々にとっては、耐え難いほど重い。
たとえ高齢者がここで命を終えたいと願っても、仕事をし子弟を教育しなければ
ならない子どもたちは、親の生活を維持させてやれないのだ。

「雪山の郵送隊」や「母さんの出稼ぎ」では僻地の女性がおかれた厳しい環境が
語られる。現代の私たちから見ればとんでもない重労働なのにもかかわらず、
家にいるよりいいと朗らかに働く女性たち。
半年にも及ぶ出稼ぎは家族にも深刻な状況を及ぼすが、それでも一度か二度は
出稼ぎに行かせたい、自由を経験させたい、とつぶやく役場の女性職員の言葉は
時代をはっきりと映し出している。

長いスパンにわたって書かれた話だけに、ものの考え方にも揺り戻しがある。
一度は必要ないと切り捨てたものでも、その価値が再発見されて大切にされたり、
地道にふるさとを守り続けた人たちが再評価されたり、時代の流れとともに
人間も少し賢くなった。

ほんの少し前の日本でも、生きることはこんなに厳しかった。
まだまだ大変な立場にある人は多いけれど、それに手を貸すことは
昔よりずっと容易になったのではないか。
自分の生きる国のよさ、時代のありがたさを改めて感じる。

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