哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『ソクラテス』(岩波新書)

2010-11-15 07:19:50 | 哲学
 この本は、池田晶子さんがソクラテスシリーズを書くときに参照した本の一つだそうだ。読んでみると、実際のソクラテスがどんな人物だったのかを探し当てるべく、あらゆる文献から、その記述の妥当性も細かく吟味しながら検討していっている。データから実証されるソクラテス像を描くようなものだから、一種の科学的アプローチと言えるだろうか。その分、歴史的事実としてのソクラテス像については、おそらく間違いの少ない内容になっているのだろう。


 しかし、著者の田中美知太郎氏に対しては、池田さんは容赦ない批判を行う。『ソクラテス』の最終章の最後の方の一節を引用したうえで、田中氏が「正義」の中身についての話になってしまったところを、「生真面目な田中」と表現する。池田さんに言わせれば、「正義」の中身の側ではなく、その語として使用される形式の側に注目するのがソクラテスの方法だと。


「田中美知太郎には、考える者の「狂」がない。生きているということを考えている考えを考えつつ生きているそこに、なぜあらかじめ求められるべき「人間の真の幸福」が、あり得るだろう。それを目指して考えるべき何物かがあらかじめ知られているのなら、なぜわざわざ考える必要があるだろう。」(『メタフィジカル・パンチ』「田中美知太郎さん」より)


 『2001年哲学の旅』(新潮社)での藤沢令夫氏と池田晶子さんとの対談でも、田中美知太郎氏が取り上げられているが、田中美知太郎氏を一定評価する藤沢令夫氏と、批判を緩めない池田晶子さんとで、議論はやや平行線であった。藤沢氏によると、田中氏はギリシャ語原典まで遡って研究した最初の研究者だそうだが、池田氏にとってそれはあまり関係なく、哲学者として「考える」ことをどこまでできているかが重要なのだ。