哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『反・幸福論』(新潮新書)

2012-06-04 22:06:00 | 
 著者の佐伯啓思氏の文章はこれまでも時々読んだことがあり、そんなに悪い印象はなかったのだが、この本についての読後感はあまり印象はよくなかった。読んでみて、雑誌の連載をまとめたからかわからないが、言いたいことがちょっとわかりにくく感じたのだ。

 例えば、トルストイが『人生論』で正しいとする人生観に、著者は必ずしも賛成せず、そのトルストイの人生観に対峙させるかのように、福沢諭吉の人間蛆虫論というものを取り上げる。ところが、その章の最後では福沢諭吉とトルストイの謂いが共通するとしているように終わっている。著者自身の思考の流れを追っているのかもしれないが、結局どう考えているかがわかりにくい。


そもそも「反・幸福」とはどういうことか。あとがきには、幸福でなければならないというこの時代の精神に多少あらがってみたいとあるが、その少しあとの文章では、不幸をそのものとして受け止めて心の安らぎを得ることを、日本人の価値観の奥底だとしている。なぜ、心の安らぎを得ることは、幸福ではないのだろうか。この本の冒頭には、幸福度の世界ランキングの話もあり、著者は、物質的豊かさや自由、権利を追うことを幸福と考えることに対して、「反・幸福」と称しているようである。


 それでも、サンデルや尖閣など、チャレンジングな話題を取り上げており、考える材料としての話題群は面白い。もし、池田晶子さんが雑誌の連載を続けていたら、これらの話題をどう料理しただろうか、と思いを巡らせることができる。