哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

死刑制度廃止の是非

2005-11-02 05:26:57 | 時事
 先日法務相になった人がいきなり「死刑執行にサインはしない」と言って、1時間後に言葉を撤回するというドタバタがありました。

 法律を誠実に遵守すべき閣僚がいきなり「法律を遵守しない」と言ったことになるので、1時間後に撤回という茶番になったのでしょう。池田晶子さんに言わせれば、言葉が命であるはずの政治家が1時間後に撤回するというレベルは自殺行為、自ら政治家としての資質はないといっているのと同じ、ということになります。ちなみにくだんの政治家は弁護士出身のようでしたが。

 ところで、この死刑制度廃止の是非の議論については、正直悩ましい問題です。議論の対立軸はおそらく単純で、人権保障派VS被害者感情派ではないかと思います。どんなに国家機関が慎重に捜査しようと冤罪のおそれがある以上は死刑を廃止すべきでしょうし、どんなに人を殺しても犯人の命は守られてしまうという理不尽さを思えば廃止したくなくなります。

 しかも日本の刑法では、無期懲役であっても10年で仮出獄できますから、死刑制度がなくなってしまうと、単に犯人の命が守られるだけでなく、一番重い刑でもうまくいけば10年で一般社会に戻れてしまいます。これは、軽すぎるとしか考えられません。人権保障派からすれば、更正が期待できれば早期の出所は奨励すべきとも言えますが、現実には出所した犯人がさらに犯罪を起こすケースも多く(ex.強姦で実刑を受けた犯人が出所後逆恨みで被害者を殺人)、現状の死刑制度の廃止を肯定しかねる要素でもあります。

 池田晶子さんの著作には死刑囚と文通したものがあります。死を前にして、よく生きることは何かを考えるような内容ですが、だんだん死刑囚の心が乱れ、生きることへの執着が強くなると、その「考え」が甘くなってしまうという「普通の」人間の弱さが露呈する経過は、読んでいてやや複雑な気持ちになります。