平家物語・義経伝説の史跡を巡る
清盛や義経、義仲が歩いた道を辿っています
 




平安時代末から中世にかけての東海道の宿駅として栄えた手越宿(現、静岡市)は
遊女の里として知られ、手越長者の館跡と伝えられる場所には、
少将井神社があります。
建久四年(1193)の建立というこの古い社には、
手越少将が祀られ、
境内には、ここで生まれたという白拍子姿の千手の前の像が建っています。

一ノ谷の戦いで捕虜となった重衡は、鎌倉に護送されて一年余の月日を過ごします。
その間、重衡の身の回りの世話をしたのが千手の前です。

千手の前は手越宿の長者(宿場の長で遊女の抱え主)の娘で、
『平家物語』には、この三、四年頼朝に仕えた娘とあり、『吾妻鏡』には、
政子仕えの女房と記されているので、どちらにしても幕府に仕えていた女房です。
長者はそれなりの実力があり、格も高い人ですから、
娘が頼朝の許に奉公することは十分ありえると思われます。


千手の前の像





JR静岡駅から「安倍川橋」でバスを下り、長い橋を渡って手越へ入りました。

安倍川橋を渡り終えると手越の里

手越バス停からバスの進行方向に進み、右側の心光院の路地へ入ります。





少将井神社は狭い路地を通り抜けた山際に鎮座し、
傍には楠の老木が
青々と枝葉を繁らせています。 





拝殿、下の画像は拝殿の背後の本殿

鎌倉に護送されることになった平重衡が伊豆の国府に到着すると、
たまたま伊豆の北条にいた源頼朝は、梶原景時に命じて北条に連れて来させ、
廊で重衡に面会しさっそく尋問します。
「東大寺を焼いたのは、
故入道清盛殿の指示に従ったのか、それともそなたの咄嗟の処置だったのか。」
重衡は「奈良を焼き滅ぼしたのは、死んだ入道の命令でもないし、
自分の一存でもない。暴徒化した奈良の大衆たちを鎮圧するため出兵し、
戦いが夜に入り味方の同士討ちを避けるようと
放った火が風に煽られ、伽藍に燃え広がったもので不慮の事態だったのです。
しかし責めは一身に受ける覚悟です。
すみやかに断罪に処せられるべし。」と答えその後は何も言いません。

頼朝は剛直に言うべきことは言う重衡の毅然とした態度に感服し、
梶原景時はじめその場にいた者も皆感じ入ったといいます。
重衡の身柄を伊豆国の住人狩野介宗茂(むねもち)に預け、
頼朝が遣わしたのが千手前です。
千手の前は「何事でも重衡殿のお望をお聞きしてきて伝えよ。という頼朝殿の
仰せでございます。」と重衡に尋ねると「このような身になった今、
何を望みましょうか。ただ出家することだけが願いです。」と
いうので頼朝に報告すると「朝敵として預かっている者に出家など
断じて許されることではない。」と一蹴しました。
(『平家物語』『吾妻鏡』)

少将井神社由緒(現地説明板) 
 「 当神社の祭神は素盞鳴命(すさのうのみこと)で、
建久4年(1193年)源頼朝が鎌倉幕府を開いた翌年に当たり、
有名な富士の巻狩り、曽我兄弟の仇討ちがあった年である。
その後、東海道の要衝安倍川の渡しの宿場町として繁栄した。
手越の産土神として尊崇され、曽我物語にある工藤祐経の遊君
少将君の名と共に往昔東海道を往来する旅人にもその名を知られ、
当地の名社として今日に至っている。
明治十二年(1879年)村社に列し、明治二十二年(1889年)九月六日
手越桜山鎮座の村社神明官(天照大神)、手越向山鎮座の山王神社の
(大山咋神・おおやまくいのかみ)、手越水神鎮座の水神社
(罔象女命・みずはめのみこと) の三社を合祀し、同日手越藤木鎮座の左口神社の
猿田彦命(さるたひこのみこと)を移し境内社とした。
後に合祀して祭神は五社となる。

社殿は明治32年(1899年)7月、昭和33年(1958年)11月氏子の奉仕により
改築される。例祭は、古くは9月18日に行われたが、
明治43年(1910年)より
10月17日に改められる。
例祭には、氏子一同服装を改めて参拝するを例とし、平素は出生児の初宮詣りや、
病気平癒の祈願詣りなどがあり、神人和合の古い伝統が伝えられている。」

手越少将は、源頼朝が富士の裾野で巻狩を行った際に富士野の旅館に召された
工藤祐経(すけつね)の馴染みの遊女です。『曽我物語』で知られる
曽我兄弟の仇討事件が起きたのはこの巻狩りの最中、曽我兄弟が父の仇、
工藤祐経の宿舎を襲って祐経を討ち取ります。
事件後、手越少将らが鎌倉に召しだされ事件の夜の子細や
曽我兄弟の行動について詮議を受けたことが『吾妻鏡』に記されています。

平重衡と千手の前2  
平重衡と千手の前3(千手寺)
  熊野御前と平重衡 (行興寺・池田の渡し)  
『アクセス』
「少将井神社」静岡市駿河区手越202 JR静岡駅より「手越」バス停下車 徒歩約5分
『参考資料』
「平家物語」(下)角川ソフィア文庫 新潮日本古典集成「平家物語」(下)新潮社
水原一「平家物語の世界」(下)日本放送出版協会

「静岡県の地名」平凡社 現代語訳「吾妻鏡」(平氏滅亡)(富士の巻狩)吉川弘文館

 



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