風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

地勢観

2020-09-26 00:09:34 | 時事放談
 先日の国連演説では、米中対立が話題になったが、韓国・文在寅大統領は相変わらずマイペースだった(笑)。「休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言を実現したい考えを示し」「『終戦宣言こそ朝鮮半島の非核化と恒久的平和体制の道を開く』と述べて、国連と国際社会に協力を呼びかけた」(日経新聞電子版)そうだ。条件は整わないし、何度、北の暴君にコケにされようが相変わらずナイーブであることには驚かされる(いや、最近、北朝鮮に近い海域で韓国公務員の男性を北朝鮮軍が射殺した事件について、金正恩委員長は文大統領に謝罪したのには驚かされた。国連制裁と、コロナ禍によって中国との往来が途絶えたことに加え、天候不良が重なって、よほど北朝鮮経済に打撃となっているのだろう)。それはともかくとして、続けて、「断絶している北朝鮮との関係を巡り『防疫と保健協力が対話と協力の端緒となる』と訴え、北朝鮮と中国、日本、モンゴル、韓国が参加する『北東アジア防疫・保健協力体』の創設を唱えた」(同)そうだ。何より文大統領の地域認識を不思議に思う。彼にとって、中国、韓国、モンゴルに日本も加えた北東アジアが一つの協力体制になり得ると真面目に考えているようだ。ベトナムも加えれば、かつての中華圏である(苦笑)。中国を天下の中心(中華)に、自らを小中華の長男坊とし、まさか次男坊の日本に貢がせようとしているのではあるまいに(笑)。
 地勢観として、戦前の日本は、海洋国家なのに大陸に引き摺り込まれたのが失敗だったと言われる(一般には大陸に進出し、侵略したと教えられるが、最初はともかく、ある時期からは引き摺りこまれたと言った方が正しいように思う)。また、海洋国家の大英帝国(あるいはアングロサクソン)と同盟を組んでいた頃は良かったが、大陸国家ドイツと同盟を組んで失敗したとも言われる。戦後はアメリカという、一見、大陸に見えるが実のところ巨大な島国=海洋国家(あるいはアングロサクソン)と同盟を組んだ日本は、冷戦を乗り越え、軽武装で経済建設に邁進し、世界第二の(今は第三の)経済大国に登り詰めた。どうも偶然の一致とは思えない。恐らく海洋国家と大陸国家とではメンタリティと行動特性が異なるのであろう。海洋国家とは何か?と問われて、背後に敵がいないことだと答えた人がいて、なかなかの至言だと思ったことがある。歴史学者のC・ヴァン・ウッドワード氏は、かつて、地理的条件のおかげで労せずして安全が保障されていたことこそ、アメリカ史の大きな特色だと喝破された。欧州との間を隔てる大西洋こそ所謂Free Security(無償の安全保障)とする考え方である。実際、アメリカにとって、他国と戦争が起こるとしても、ただちに本土が脅かされることはない(だから、真珠湾攻撃や911同時多発テロなどで直接攻撃を受けることには過敏に反応する)。また、だからこそかつてのロシアのような強大な大陸国家は常に攻め込まれる恐怖に苛まれ、膨張主義に走ったし、ソ連邦が解体されてから進められたNATOの東方拡大に業を煮やした新生・ロシアは、クリミア併合に至った。
 さて、日本も島国=海洋国家であり、大陸とは地理的に微妙な距離を置くとともに、聖徳太子の頃には既に、中国を中心とする東アジア秩序から距離を置き、その後は独特の発展を遂げた。生態学者であり民族学者の故・梅棹忠夫氏は、『文明の生態史観』において、ユーラシア大陸の広大な大陸部分(第二地域)は巨大な帝国(中華帝国やイスラーム帝国)が成立と崩壊を繰り返すのに対し、その周縁に位置する西ヨーロッパと日本(第一地域)は、気候が温暖で、外部からの攻撃を受けにくいなど環境が安定しているため、第二地域より発展が遅いものの第二地域から文化を輸入することによって発展し、安定的で高度な社会を形成できるとした(このあたりはWikipediaによる)。ポイントは、第二地域にあっては外部に大きな力が常にあるため、アロジェニック・サクセッション(外部からの影響による発展)が起こり、専制政治のためブルジョアが発達せず、資本主義社会を作る基盤ができなかった(従って軍事力を備える事が出来ず、植民地となってしまった)のに対し、第一地域は辺境の地域に位置するため、第二地域が砂漠の民に脅かされるような危険がなく、オートジェニック・サクセッション(文明内部からの変革)が起こり、ブルジョアを育てた封建制度を発展させ、資本主義体制へと移行することが出来たということである(同)。学生時代にこの本を読んだときには、まさに目から鱗だった。私が心から敬愛する国際政治学者の故・高坂正堯氏も、『海洋国家日本の構想』の中で、「日本は東洋でもなければ西洋でもない。それは自己を同一化すべき何物をも持っていない」「ある外人記者が、日本は東洋の端にある国、すなわち『極東』ではなくて、西洋の端にある国、すなわち『極西』であると言ったのは、この事情をみごとに捉えている」と言われたのを、学生時代の同じ頃に読んで、ダブル・パンチで目から鱗だった(笑)。それ以来、私の心は常に欧米に寄り添っている(笑)。
 安倍政権がインド太平洋構想を提唱したのは、まさに海洋国家・日本として正しい方向だったと思う。これに先ずアメリカが賛同し、アメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へと呼称変更した。クアッドを構成するオーストラリアやインドが加わるのは自然な流れであり、さらに英国も興味を示し、これら海洋国家群により巨大な大陸国家である中華帝国を包囲・・・いや包摂して行けばよいと思う。それだけに、インド太平洋構想への参加に二の足を踏む韓国は、やはり大陸を向いているのかと、感心した次第である。こればかりは、歴史上、常に中華帝国に隣接し、それ以上は逃れることが出来ない半島国家としてユーラシア大陸にへばりつき、生きて来ざるを得なかった宿命なのであろうか。
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