今月2日にトランプ政権が発表した相互関税を受け、日経平均株価は歴代2位のブラックマンデー(1987年10月20日)に次ぐ歴代3位の下げ幅となった。日本だけでなく世界中で株価が下落したが、トランプ氏は、「(株式相場の)下落は望んでいないが、問題を解決するには時に薬を飲む必要がある」と嘯いた。しかし債券市場も急落して、さすがの彼も考え直した(国債利回りの急上昇を見てビビった)ようだ。相互関税を発動する9日の朝、トランプ氏は「落ち着け! すべてはうまく行く」とSNSで米国民に告げたが、その日の午後には、発動したばかりの相互関税の上乗せ部分について、75ヶ国以上が関税や貿易障壁、通貨操作などに関して交渉を持ちかけているとして、(中国を除いて)90日間の一時停止を許可すると発表した。その後、スマホやノートパソコンなどの電子機器の価格高騰が懸念され、相互関税の適用から除外すると発表したかと思えば、1~2か月以内に導入される半導体分野への関税の対象になると前言を翻すなど、混乱の極みである。この関税がアメリカの景気悪化とインフレ再燃を招くとしてドル売りが進むとともに、保護主義的な政策転換が米国への投資の前提を問い直すよう促すとして、ドル離れが進んでいる。同盟すらも敵に回すアメリカは、明らかに国益(ソフトパワー)を毀損している。
この一連の出来事に見られるのはトランプ氏の典型的な行動パターンだとWSJが揶揄した。まず大胆な行動を取り、その反応を注視し、関係者や同盟国に戸惑いを生じさせた後、方針を転換する・・・。世界経済を破壊することも厭わない、実に大胆かつ強引で、場当たり的である。そういう意味ではアメリカ人のキャラのある極端を行っていると言えるかもしれない。先ずは試してみて、問題があれば修正すればいい、と。そもそもアメリカ人自身が、一度はトランプ氏に懲りたはずなのに、その後のバイデン政権のせいとは言え、懲りずに二度目を選んだのだった。
それにしても、一人の人間がどこまで市場を、ひいては世界を混乱させられるものか、神様は試しておられるかのようだ(苦笑)。もとより彼の取引における強さの源泉は、あるいは取引カードを持たないとゼレンスキー大統領を批判したように、それでは彼自身が持つ取引カードは何かと言うと、アメリカの経済力や基軸通貨ドルなどの世界一の国力であって、彼自身の能力についてはせいぜい混乱を歯牙にもかけない鈍感さだったり大胆さ(胆力)だったりするに過ぎない。理念や価値観に乏しく、専門家の意見も聞かないようなので、アメリカ大統領という世界一の権力者の立場の言動に、世界中が右往左往させられる。そんな彼でも、市場の反乱には慌てたように、市場の声や、恐らく支持者の声には敏感である。
日本は幸か不幸か関税交渉のトップランナーとなった。貿易赤字や経済規模の点からも、交渉相手としての与しやすさの点からも、トランプ氏はモデルケースになり得ると踏んでいるのだろう。日本にとって「国難」であるとの認識では、石破首相も最大野党の立憲民主党も珍しく一致している。参議院選までの政局の中で小手先の技術を弄するのではなく、日本国として主張すべきは主張し、かつて1980年代後半の貿易戦争のときのように、外圧を使った改革に繋げるなど、是々非々でしっかり取り組んでもらいたいものだと思う。
今般の市場の反乱の果てにあるのは不確実性ばかりで、想像もつかない。
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