風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

パンダ外交

2021-07-22 12:18:03 | 時事放談
 上野動物園のジャイアントパンダに双子の赤ちゃんが誕生して、かれこれ一ヶ月になる。二日前のニュースによると、体重は6倍以上となり、健康状態は良好、耳の周りなどの黒い模様がハッキリしてきて、よりパンダらしくなってきたという。これまでは赤ちゃんにつきっきりだったお母ちゃんパンダのシンシンも、食事の時など短時間ながら子どもから離れるようになったのは、赤ちゃんが順調に成長し、安心して子育てができるようになったからだという。
 生まれたときには、戦狼外交で知られる中国外務省の副報道局長も、記者会見で、「大変うれしい。姉のシャンシャン同様、中日人民の友好感情を増進する使者になるようお祈りする。当然、中日関係にとっても良いことだ」と歓迎した。まさに、パンダ外交である。
 ワシントンのシンクタンクAEI(American Enterprise Institute)は先月、”Pandas: China’s Most Popular Diplomats”と題する調査報告を発表した。
 中国が外国との友好のためにパンダを活用した歴史は、685年、唐の時代に則天武后が日本の天武天皇に2頭を贈ったときにまで遡るそうだ。中華人民共和国になってからは、1957年にソ連に対して共産主義国家同士の連帯と友好の証に、2頭を贈ったのが最初だという。勿論、一時、絶滅危惧された貴重な資源なので、見境なく配るわけはなく、主に経済関係を含めて外交上、重要な国が対象で、2020年現在、貿易量が多い順に見ると米国(11頭)、日本(9頭)、韓国(4頭)、台湾(2頭)、ドイツ(4頭)、オーストラリア(2頭)、マレーシア(2頭)、ロシア(2頭)となるらしい。最近は贈与ではなくレンタルなので、一層、中国の裁量が働きやすくなり、2010年2月にオバマ大統領(当時)が中国政府の反対を押し切ってチベットのダライラマに面会すると、中国側は、抗議の意味を込めて米国で生まれたパンダ2頭を即座に引き取ったそうだ。その後、オバマ政権下で南シナ海での中国の軍事膨張などをめぐる対立が始まると新しいパンダの貸与はなくなり、トランプ政権で米中対立がさらに激しくなると、サンディエゴ動物園の2頭は予定より数年早く中国へ引き戻され、ワシントン国立動物園の2頭も当初合意された貸与期間10年よりも7年も早く、2023年に中国へ返還される方針が発表されたという(このあたりは古森義久さんコラムから抜粋)。
 報告書のExecutive Summaryによれば、パンダは「国際的なミッション」を負った「パンダ外交官」であり、一定の目的に資するものである以上、その政治的動機は確認しておいた方がよいこと(According to the Global Times, a state-run news outlet, giant pandas go on “international missions” and are “panda diplomats.” Since giant pandas serve policy purposes, we should examine how the PRC deploys them.)、パンダの貸与は、対外関係を補完するソフトパワー外交の一部として慎重に検討され、束の間、善意を示すものとして、しばしば外交イベントや貿易取引に合わせて実施されるが、その効果のほどは限定的で、長期的に見るとポジティブな関係を維持するには至っていない(The PRC’s deployment of giant pandas is a deliberate part of its soft-power diplomacy that complements its broader bilateral relationships.(中略)Panda diplomacy provides a momentary injection of good-will and often coincides with major diplomatic events and trade deals. That being said, panda diplomacy is a limited tool, and it cannot sustain positive relations between China and panda host countries in the longer term.)、と総括する。これも、なんだかんだ言って、世評とは裏腹に中国のやることは必ずしも戦略的ではないことの証左のような気がする。
 愛らしいパンダに罪はない。いくら愛らしいと思っても、それは飽くまでパンダのことであって、その背後に中国共産党の影を見ることはない。現実には、馬脚ならぬ狼脚をあらわす戦狼外交まっさかりで、むしろその落差を異様なものとして際立たせるキッカケになっているのではないだろうか。
 上の写真は、10年前のものなので、お父ちゃんのリーリーか、お母ちゃんのシンシンか。夢中で竹をむさぼる姿は主客逆転だが「ぬいぐるみみたい」でカワイイ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 韓国の革命政権 | トップ | 東京五輪・開幕 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

時事放談」カテゴリの最新記事