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風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

トランプ2.0の一ヶ月

2025-02-22 09:42:28 | 時事放談

 トランプ氏がアメリカ大統領に就任してから一ヶ月が過ぎた。想定以上に嵐のように騒々しい日々が続いて、一日としてメディアを賑わせない日はない。あの方は、世間の注目を浴びないと気が済まないようだ。就任前に大統領の公式写真とやらが公表されたとき、「厳しい表情でカメラをにらみつけるような視線を送って」おり、「『屈しない』との印象を打ち出したいものとみられる」と産経新聞は伝えた。まさに何かに憑かれたように、私たちが当たり前と思ってきた常識、既存メディア、既得権益に挑戦し続けている。それは世上に言われる通り、トランプ1.0ではプロフェッショナルな政治家や軍人が要所に配置され、暴走の歯止めになっていたが、トランプ2.0では忠誠心を基準に選ばれた提灯持ちばかりだから、やりたい放題なのだろう。人は立場が変われば、トランプ氏ではなく国家に忠誠を尽くすものだと私は微かに期待していたが、ものの見事に裏切られた(苦笑)。

 昨日の日経によると、大統領選で掲げた公約の5割超に着手し、署名した大統領令(覚書や布告を含む)は100本を超え、第二次大戦後で最多とみられる、という。当初、就任後100日で100本と言われていたように記憶するが、いくら中間選挙までの時間との勝負とは言え、怒涛の勢いだ。もっとも、ほぼ無条件でアメリカ国籍を与えるという、憲法でも保障された出生地主義を大幅に制限しようとするなど、大統領の権限を超えるとして訴えられているものもかなりの数に上るらしいので、どうなるかは見通せない。アメリカの民主制度に期待するしかない。

 さらに公約に掲げていなかったが、これまでの政権の方針を覆すような刺激的なことまでやってのける。パナマ運河を奪還するとか、グリーンランドを買収するとか、パレスチナ自治区ガザを所有して開発するとか、口だけ番長にしても、まるで不動産ビジネスを手掛けるマフィアさながらだ(爆)。とてもアメリカ大統領の威厳も上品もあったものではない。その19世紀的な発想は、ロシアのプーチンのことを批判できなくて、これも世上に言われる通り、マッドマン・セオリーを地で行っているのだろう。どこまで本気なのかと訝るが、本気だと見せることがミソで、周囲が大騒ぎすることで却って現実味を増し効果を発揮するというパラドックスの世界である。そんなバカな・・・と一笑に付すのがトランプ対策としては正解なのだろうが、今のところトランプ氏が望む通りの展開である。

 ウクライナ戦争の仲介に至っては、ゼレンスキー大統領を「選挙なき独裁者」と糾弾し、「迅速に行動しなければ、国は残らないだろう」などと脅して見せた。戦争で苦境に陥るウクライナの足元を見て、軍事支援の見返りに同国のレアアース供給を求め、渋るゼレンスキー氏を脅す構図である。あろうことか国際犯罪者プーチンの主張を代弁するかのような言い草は、正統な近代西洋の価値観を体現したバイデン前政権を思い出すまでもなく、狂気の沙汰である。これも、彼一流のディールで、世間はトランプ氏がプーチンとディールするものと思い込んで、本人もその気でいるのは彼の勇み足で、目立ちたがり屋の悪い癖だが、「仲介」なるものの任に当たる以上、世間(西洋世界)が味方と見做すウクライナともディールする冷厳なる立場にとどまる必要がある。それが出来なかったから、バイデン前政権は仲介の任に当たることが出来なかったし、理念やら価値観(たとえば力による現状変更は許さないとか、ヨーロッパの安全保障のことなど)を理解しそうにない現実的なトランプ氏だからこそ出来るのではないかと思わせる。本来は、トランプ氏本人も誤認しているような「ロシア対アメリカ」のディールではなく、もとより西洋世界が望む「ロシア対ウクライナ+米・欧」でもなく、あくまで「ロシア対ウクライナ」の仲介である。第三者的な立場を守り、当事者双方ともに失うものがあり、痛みを感じて満足しないが、今の状態を続けるよりはマシだと思わせて受け入れさせることが出来るかどうかにかかっているが、プーチンは兵の損耗を気にしない独裁者で、欧米による制裁下で経済が痛もうが中国・イラン・北朝鮮の枢軸から支援を得て、時間は必ずしも味方しないわけではない状況を作り出して、妥協する気配がなく、実際には妥結に至るのは難しそうだ。

 こうして見ると、私たち日本人を含めて、余りに近代西洋的でナイーブであったことに気づかされる。ロシアをG7に復帰させてG8にするなんざあ、正気の沙汰かあ!? と思うが、振り返れば、ナポレオン戦争で混乱したヨーロッパを安定させるため、イギリス・ロシア・オーストリア・プロイセンの四大国が同盟してフランスを包囲する一方、ウィーン会議終了後には、フランスを含む五大国で定期的な外交会議が開催されたという史実がある。所謂バランス(勢力均衡)によるコンサート(協調)で、まがりなりにも一世紀に及ぶ安定した秩序がヨーロッパに形成された。いくら引越し出来ない隣人とは言え戦争犯罪人のロシアを引き入れるのは感情的に認め難いが、それは私たちがリベラルな風潮に慣れ親しみ過ぎたからであろう。トランプ氏の登場は、とかくWOKEとかLGBTQとか移民などの人権や環境の問題で行き過ぎたリベラルな風潮を、多少なりとも現実に揺り戻す動きと言えなくはない。200年の昔、フランスのように宗教的・文化的・歴史的に価値観を共有するヨーロッパ社会の一員だからこそ出来たことが、ロシアという(さらには中国もそうである)やや異質な国を含めた国際秩序を形成することができるのか(現実的ではありつつも理念を捨てることなく、というのは我が儘だろうか・・・)、それとも権威主義対自由民主主義対グローバルサウスと言われる三極の対立しつつ共存する構造が続くのか、私たち自身の真価が問われている。

 救いがあるのは、トランプ氏も人の子、世間(とりわけアメリカ人)の人気や株価を気にするところだ(笑)。調査会社ギャラップによると、支持率47%はトランプ1.0のときの45%を上回るものの、不支持率48%は史上最高だそうだ。願わくは、誰かがこっそりトランプ氏の耳元で、リアル・ポリティークに傾き過ぎるようじゃあ(近代西洋的価値観を体現する)ノーベル平和賞が遠のくぞ・・・な~んて囁かないかなあ(嘆息)。

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