名演の5月例会は劇団民芸の『集金旅行』だった。原作は井伏鱒二で、確か昔、私の子どもの頃に映画にもなった。私が読んだことのある井伏鱒二の作品は『山椒魚』の1冊しかない。そのくせ太宰治が井伏を師とも兄とも頼っていたことは知っている。『集金旅行』の主人公はイブセマスオという売れない小説家で、ここにも東大仏文科の学生・太宰治が登場する。
この設定からも誠に面白おかしい物語であることが窺える。部屋代を踏み倒して故郷へ逃げた不心得者に会い、集金してくる役割を主人公のイブセが引き受けるのだが、これに妖艶な女性ランコが、各地にいる昔の恋人から慰謝料を取り立てるために同行する。ふたりの関係もおかしければ、道中で繰り広げられる「人たちの出会い」も滑稽で、人生の喜怒哀楽が見える。物語に出てくる人たちは大方誠実だ。
今日、東京都知事の舛添さんが収支報告書について説明した。予想された通りの説明だったが、きっぱりしているが不誠実だった。「私的な支出が誤って計上されたことに心からお詫び申し上げる」と頭を下げた。間違った金額は返すとも言うが、どこへ返すのだろう。けれど、公人でありながら私的な支出も平気で公金から使っている。「政治家はみんな、こんなことをしている」と庶民は確信した。
公私の区別がつけられないばかりか、公人であることを無視している。「それって、おかしいでしょう」と指摘されると、「精査してしっかりと説明します」と言う。そして導き出される答えはいつも、「秘書が」「会計責任者が」「間違って記載したもので、私の監督不行き届きで誠に申し訳ありません」である。部下がしたことなので自分は何も悪くないが、責任はあるので謝罪しますという訳だ。
12日に演出家の蜷川幸雄さんが80歳で亡くなった。「この演出家の芝居が観たい」と言わせた最初の演出家と言われるが、実際、蜷川さんの作品は面白かった。「おい、心で声を出せ」と怒鳴っていた場面がテレビでも取り上げられていた。自分が作り上げたいものに向かって必死だったと思う。政治家の中で本当に必死で生きている人はどのくらいいるのだろう。