
上山クワオルトで坊平高原を散策した。今日のガイドさんは、通常のコースにない御清水の上を案内してくれた。見事なブナの巨木、日本でも最も高いところにあるスギの大木。木の年齢は推定さえできないらしい。そこにあったのは、石に掘りつけた蔵王権現。鬱蒼と茂る巨木に囲まれて、蔵王権現の霊力はさらに巨大になっていくように思われる。一瞬、パワースポットのなかに置かれて、いまにも神秘な出来事が起こる予感さえする。
権現というのは、辞書にあたってみると、仏陀が化身してわが国の神として現れること、とある。つまり、仏陀が衆生を救うために現す仮の姿である。蔵王権現のそのひとつで、これを感得したのは、修験道の祖といわれる役小角である。魔障降伏の相をなし、右手には三鈷を持ち、左手は広げて腹を押し、右足を上げている。絵で見ると、まさしく悪を成敗する眼付と恐ろしい形相である。もとより、その本家は奈良県の吉野山に祀られているが、この蔵王山にも祀られている。ただ、この石に彫られてた蔵王権現は、少し迫力に欠けるような気がしないでもない。山伏が山中で修行する目的は、蔵王権現や不動明王と同化する力を得るためである。諸国をめぐり、民衆の求めに応じて、加持祈祷、調伏、憑きもの落し、符呪を行った。
そこを抜けるとすぐにスキーのゲレンデにでる。痩せたワラビがたくさん出ている。それらに交じって高山植物の花もあちこちに目にする。印象に残ったのはイチヤクソウ。ピンクの可憐な花だが、全草を乾燥させて煎じて飲めば利尿効果があり、漢方薬として用いらてきた。権現さまに、高山で採る薬草。山は人の暮らしに大いに役立ってきた。
