春は目まぐるしく気候が変る。穏やかな青空に心地よい春風が吹いたかと思うと、大荒れの風が吹き、雨が吹き、その後に寒気がぶり返す。一番風が強い季節と言えば春である。先日、西日本で春一番が吹いたと、アナウンスされた。春の強風を表す言葉もすこぶる多い。「貝寄せ」「彼岸西風」「涅槃西風」「春はやて」「春あらし」「春あれ」などなど。漁業で船に乗る人が、この季節の強風を恐れ、たくさんの言葉が生まれた。貝寄せは、強風の波が、海岸に貝殻を吹き寄せるので、こう呼ばれる。俳句の季語にもなっている。
貝寄風にのりて帰郷の船はやし 中村草田男
フォレスタ旧バージョン ”どこかで春が 春が来た”
この歌は、昭和生まれの人なら誰でも知る昔懐かしい童謡で、その作詞は詩人の百田宗治である。1926年詩誌『椎の木』を創刊、民衆詩派の詩人として知られた。室生犀星と親交があり、室生の『我が愛する詩人の伝記』の一人と取り上げられている。晩年には、詩作を離れ、生活綴り方運動に呼応して、児童自由詩の指導を行った。
何もない庭 百田 宗治
日がかげれば
何もない庭はさびしい。
日さへ照ってゐれば、
万朶の花の咲きにほふ心地がする。