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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0547「見ていた」

2019-05-19 18:21:21 | ブログ短編

 夜道(よみち)をどこかぎこちなく歩く二人。どうやら、付き合って間もないカップルのようだ。何度目かのデートの帰り道で、彼女を家まで送って行くところなのだろう。もうおしゃべりすることもなくなり、二人は黙(だま)って歩いていた。
 家の近くまで来たのか、彼女が立ち止まり彼の方に振(ふ)り返った。彼は、ドキッとして立ち止まる。見つめ合う二人。どちらからともなく、二人は歩(あゆ)み寄(よ)る。そして…、彼は彼女の薄紅色(うすべにいろ)の唇(くちびる)を見つめた。彼女は恥(は)ずかしそうに微笑(ほほえ)むと、顔を少し上へ向けて目を閉じる。彼は彼女の肩(かた)に優(やさ)しく手をやり、自分の顔を近づけていった。
 その時だ。彼は何かの気配(けはい)に気がついた。彼は手を彼女の肩に置いたまま、周(まわ)りをきょろきょろと見回(みまわ)した。だが、誰(だれ)も人がいる様子(ようす)はなかった。彼女はじれったそうに目を開けると、ちょっと不機嫌(ふきげん)な顔をする。彼女の頬(ほお)が微(かす)かに紅潮(こうちょう)しているのが見てとれた。
 夜空(よぞら)には、ちょうどまんまるいお月(つき)さんが、雲間(くもま)から顔を覗(のぞ)かせたところだ。彼は月をいまいましいそうに見つめ、かぶっていた帽子(ぼうし)で月の光から隠(かく)すようにして、二人は唇を重(かさ)ねた。そして、またしばらく見つめ合ってから、彼女は満足(まんぞく)そうに手を小さく振(ふ)って彼から離(はな)れて行った。
 この様子を、息(いき)を殺(ころ)して木陰(こかげ)から見つめていた人影(ひとかげ)。二人が離れていくと、人影は大きく息を吐(は)いた。そして、彼女を見送っている彼を睨(にら)みつけた。彼が気配を感じたのは、この人影だったのかもしれない。この人影こそ、誰あろう彼女の父親である。
<つぶやき>きっと帰りが遅(おそ)い娘(むすめ)を迎(むか)えに出たのかもしれません。心配(しんぱい)してるんですよ。
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