月島(つきしま)しずくがいくら枝(えだ)を振(ふり)り回しても、何の効果(こうか)もなかった。狼(おおかみ)たちがそんなことでひるむはずもなく、しずくの周(まわ)りを取り囲(かこ)んでしまった。しずくは何をどうしたらいいのか、まったく考えられなくなっていた。恐怖(きょうふ)のために手が震(ふる)え、立っているのが精一杯(せいいっぱい)――。
それはあっという間(ま)の出来事(できごと)だった。頭の上に何かの気配(けはい)を感じたしずくは、上を見上げた。そこには黒(くろ)い大きな塊(かたまり)があって、こっちへ向かって落ちて来る。避(さ)ける間(ま)などなかった。次の瞬間(しゅんかん)にはしずくは地面に倒(たお)されて、身体(からだ)の上に大きな狼がのしかかっていた。いくらもがいても、どうすることもできない。
狼は牙(きば)を剥(む)いて唸(うな)り声を上げると、大きな口を開けてしずくに迫(せま)った。しずくは思わず目をつむる。これで私の人生(じんせい)も終(お)わり、まだ恋(こい)もしてないのに――。狼の吐(は)く息(いき)が鼻(はな)をつく。首筋(くびすじ)に何か冷たいものが触(ふ)れた。それが首に巻(ま)きついてきてじわじわと締(し)めつける。しずくは苦(くる)しくなって目を開けた。
目の前にいたのは狼ではなかった。いつの間にか狼たちは消(き)えていて、しずくの上に馬乗(うまの)りになっていたのは、あの男だ。またしても、あの暴漢(ぼうかん)男がしずくの首を締(し)めつけていた。しずくは必死(ひっし)にもがいた。男の手首(てくび)をつかんで、苦しい息(いき)のなか叫(さけ)んだ。
「なにすんのよ。放して! やめて! やめてっ!!」
<つぶやき>まるで幽霊(ゆうれい)のように現れる男。しずくは逃(のが)れることができるのでしょうか。
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