刑事(けいじ)たちは、容疑者(ようぎしゃ)を自白(じはく)させようと苦労(くろう)していた。時には容疑者からの無理難題(むりなんだい)も…。
「どうだ。そろそろ本当(ほんとう)のことを言ってくれないか?」
刑事は証拠品(しょうこひん)をひとつひとつ机(つくえ)の上に並(なら)べて、
「これだけ証拠もそろってるんだ。気持ちよく自白して、手打(てう)ちってことにしてもらえると助かるんだがなぁ」
容疑者は机の上の物を床(ゆか)へ全部ばらまくと、「証拠だ! そんなもん知るか。俺(おれ)はやってねえよ。――俺に自白させたかったら、そうだな、カツ丼(どん)、食(く)わせてくれよ」
刑事はため息(いき)をついて、「それはな、テレビドラマの中の話だ。実際(じっさい)にそんなこと…」
「いいじゃねえか。俺、腹(はら)へってんだよ。ここのメシはまずくて俺の口には合わねえんだ」
「そうか? じゃあ、お前さん、よっぽどいいもん食ってたんだなぁ。うらやましいよ。俺たちはしがない公務員(こうむいん)だからさ。なかなか贅沢(ぜいたく)もできなくてな」
「カツ丼、一杯(ぱい)だろ。たかが知れてるじゃねえか。けちくせえ野郎(やろう)だ」
「なあ、どうだろう。ここは素直(すなお)に吐(は)いてみないか? そうすりゃ心証(しんしょう)も良くなるし、刑期(けいき)だって短くなるかもしれないぞ。そう思わないか?」
「そんな…。俺には、そんな手は通用(つうよう)しないぞ。俺を甘(あま)くみるなよ。俺は――」
「お前のお袋(ふくろ)さん、食堂(しょくどう)をやってるんだってな。お袋さんの手料理(てりょうり)、食いたいんだろ?」
<つぶやき>容疑者との駆(か)け引きはどちらに軍配(ぐんばい)が上がるのでしょう。真剣勝負(しんけんしょうぶ)ですよね。
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